『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年7月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
目の前のことに向き合い等身大の自分を表現しよう
今回特に目立っていたのが、等身大の自分を表現した作品の素晴らしさです。大きなテーマを掲げるのは立派なことですが、経験のないことを表現するのは難しいため、どうしても作品と自分との間に隔たりができてしまいます。ですから、まずは目の前のことに向き合い、いかに紡いでいくかを大切にしてほしいと思っています。そういった意味で、今回は優れた作品がたくさんありました。
自分が高校生だった頃を思い出させてくれるような「刺さる」作品にも出会えたことはとても嬉しく、まるで新しい風が吹いたかのような印象を受けます。大人の真似はしなくてもいいので、今の自分を大切にしてください。そして惜しくも選ばれなかったけれど入選までもう一歩という作品も多く、全体的に質が高いと感じました。ぜひ諦めずに作品を磨き続けてくださいね。
〈講評〉鵜川真由子
1席「思い出せない」(3枚組)
加藤麗奈 (沖縄県沖縄市 / 16歳 / 沖縄県立美来工科高等学校)
きらりと光る、瑞々しい感性に心奪われました。目の前にある今を楽しんでいる様子が伝わってきます。ロケーションの選び方や色の使い方などに一本筋が通っていてブレがない。そんな作者のフィルターを通して見える世界が映る写真には、見る側をもワクワクさせる力があるのです。この作風を大切にしてほしいと思います。
2席「ファッションショー」(3枚組)
横尾 凛 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
自分を解放する、そんなメッセージが込められているように思いました。ファッションとは自由であり、自己表現そのものでもありますね。その一歩を踏み出す勇気に魅力を感じます。高校生である現在の自分を表現した、貴重な作品でもあります。
3席「慈しみ」(3枚組)
雑賀杏夏 (大阪府松原市 / 17歳 / 大阪府立生野高等学校)
とても温かく、心に染み入る作品です。被写体との距離の取り方が抜群にうまく、そのため構図がとても心地よく感じました。家族の絆という普遍的なテーマは、多くの人が共感することでしょう。
入選「向かう」(2枚組)
板倉音瑠 (愛知県岡崎市 / 17歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
何ともコミカルで愛らしい表情ですね。決定的な瞬間をしっかり捉えていると思います。技術的にも確かな腕をお持ちだと感じました。遊び心を持って柔軟に向き合う姿勢は、どんな被写体に対しても生かせる長所でしょう。
入選「無題」
西側 遙 (大阪府松原市 / 17歳 / 大阪府立生野高等学校)
一人だけ逆方向を向いて、進んでいくのか戻っていくのか。それとも何かが始まろうとしているのでしょうか。一枚でいろいろな想像ができるような意味深な作品です。意思表示にもなるので、タイトルがあればさらに良かったと思います。
入選「旅のひととき」
木村春奈 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
ガラスの反射を利用し、旅のひとときを美しく表現しています。間接的な表現をしているため、思い出の中にいるようなノスタルジックな印象も受けました。視線の先には何があり、そして何を思うのか。写真の中に物語が感じられす。
入選「幻想」
井口万葉 (広島県海田町 / 17歳 / 広島県立海田高等学校 / 写真部)
ガラスに映り込んだもう一つの手は、自分の分身のようで実は存在していない幻想に過ぎないのですね。それを平和への願いに重ねていることが、美しくも現実の厳しさを表現していて、もどかしくもあります。制服の袖が写っていることで、女子高生の祈りだとわかるのがとても良いです。
入選「青空」(3枚組)
丸山世梨加 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
素通りできない、いい意味での引っ掛かりがある作品です。「青空」をモノクロで表現することや「洗車」を抽象的に描写するなど、ところどころにひねりが効いていてとても面白いですね。高い感性の持ち主なのだと感じました。
入選「確認『ヨシ!』」
橋本想宙 (愛知県豊田市 / 15歳 / 大同大学大同高等学校 / 写真部)
ヘッドライトの光を利用した幻想的な写真からは、働く運転士さんへの敬意が感じられ、とても好感が持てました。機械としての電車ではなく、そこにあるドラマが写っているのですね。ぜひこの優しいまなざしを大切にして撮り続けてほしいです。
入選「桜流し」(3枚組)
竹野陽向子 (愛知県豊川市 / 16歳 / 豊川高等学校 / 写真部)
とても風情のある、美しいタイトルが印象に残りました。一見、雨の後に散りゆく桜の儚さをエモーショナルに切り取っている作品なのですが、実は写っているのは桜ではなく、桜を通して表す作者の心情なのではないかと思いました。