特集

動かないモノだけど、完成された写真で見る人を感動させることができる。byゆーいち

Creater’s Hint ゆーいちさん

キャッチ―な人気アニメのキャラクターフィギュアから、コスメ、ドリンクなどの製品まで物撮りをフィールドとして、TikTokやYouTubeで大人気のゆーいちさん。卓越した物撮り撮影技術はどこからきたのか、背景のアイデアはどうやって生まれるのか、動画制作へのこだわりなどを聞いた。そこには必ず写真活動へのヒントが見つかるはず。

きっかけはプロレス好き

ゆーいちさんが撮影した試合中の写真

── ゆーいちさんが写真を始めたきっかけを教えてください

中学生のころからプロレスがずっと好きで、実家にいるときはテレビ中継や動画配信を夢中になって見ていました。とくにファンだったのは新日本プロレスの棚橋選手です。大学生になって上京したので、後楽園ホールなど東京の会場を生で見に行けるようになって、試合を見るだけじゃなくて大好きなプロレスラーの写真を撮りたいと思ったのがきっかけですね。そのとき一眼レフカメラを初めて買いました。ペンタックスのK-S2です。レンズはタムロンの70-300 でした。X(当時のTwitter)のタイムラインに流れてくる写真がキレイな人は本当にキレイで。自分もそんなふうに撮りたいって思ったんです。そのときはAPS-Cとかフルサイズとかカメラの基本もわかってなかったですし、何もわからぬままもうとりあえず試合会場に撮りに行って、客席から撮影しながら、どうやったらうまく撮れるのかを自分でどんどん調べていって、カメラの設定を学んだ感じでした。

── 大学を卒業されて写真の道に?

当時は写真は大好きな趣味のひとつでした。大学を卒業して好きだったプロレス関係の仕事に就きたくて、プロレス団体に勤めたんです。広報的なこともやらせていただいて、ちょっとしたデザインやTikTokの運用もやらせていただいたりしましたね。プロレス団体のスタッフは2年弱でしょうか。その後半年間、普通のサラリーマンやってました。その仕事でもうなんかつまんないってなっちゃって、なんか好きなことやりたいなって思って、好きなことって言えば写真だなと。で、カメラマンになろうと思いました。
でもどうやったらカメラマンになれるのかわからなかったので、前に勤めていたプロレスの団体を撮影していたカメラマンさんに、「カメラマンってどうやったらなれるんですか?」っていうのを聞いたんです。そうしたら“スタジオワークができる、できないじゃ話が全く違ってくる”という話を聞いて、「プロの現場も見れるし、スタジオに入るのがいちばん手っ取り早いと思うよ」って言われて、もうその言葉のまんまに手当たり次第スタジオに履歴書を送りました。

スタジオ経験が物撮りへのターニングポイント

スタジオアシスタント時代の貴重なお写真(写真右がゆーいちさん)

── 人物撮影を学ぶつもりだったんですよね?

プロレスの写真を撮っていたこともあって、撮影といえば人物しか思い浮かばなかったのですが、入ったスタジオがファッション雑誌の物撮りの仕事を中心に受けていて、人物撮影が4割、物撮り6割ぐらいという感じでした。入って最初のころは人物撮影のアシスタント業務が中心で、だんだんスタジオワークの基礎に慣れてきたら、物撮りのアシスタントに移ってくみたいな感じでした。で、物撮りのアシスタントができるようになってくると、難しい物撮りのアシスタントを任されることがどんどん増えてくって感じで。やっぱり難しい物撮りの現場が楽しかったですね。

── 物撮りが楽しいのはどういった部分でしょうか

たとえば1個のコスメを撮るのに、ライティングとかめちゃくちゃデカいセット組むんですよ。なんかその裏側を見てる感じがめっちゃ楽しかったんです。自分もやりたいと思いましたし、そうやって撮影された完成写真はめちゃくちゃキレイで。動きのない写真1枚でこんなに感動させられるというか、そういう仕事ってめっちゃいいなって思ったんです。
教わるのは最低限必要なスタジオ内での決まり事だったりスタジオワークの部分で、実際の撮影の現場でアシスタントがどういう動きをする必要があるかは先輩を見て学びました。そしてきっとこういうことだっていうのを、自分の作品撮りとか練習の時間でどんどん自分で確かめていく感じでした。スタジオが空いていたら、スタジオマンは自由に機材の使い方の練習をして良かったので、自分ずっとセンチュリー(照明などを固定するための道具)を触ってました(笑)。楽しかったです。
プロレス団体のカメラマンさんに教えてもらったことって本当にその通りで、スタジオで学んだ基礎が役立っています。色を再現するにはどういったライティングが必要なのか、写り込みへの対処法、商品を美しく見せる角度といったディティールまで身につけることができました。前に広告代理店兼クリエイターをされてる方から、「(スタジオに入ってて)物撮りできるってことは、技術ちゃんとしてる人じゃん」って言われたことがあって、めっちゃ嬉しかったのを覚えてます。

誰にでもわかりやすく、被写体のイメージを大切に


── TikTokはスタジオアシスタントのころから始められたとか

スタジオに入って半年くらい経ったころからTikTokを始めました。独立を目指してアシスタントをしていたので、独立したときの「これをやってます」という土台がほしくて。スタジオアシスタントの後のキャリアとしては、プロカメラマン専属のアシスタントになって独立を目指すか、そのまま独立するかの2択なのですが、年齢的にも時間がないなと思いまして、独立を目指してTikTokを始めました。前述のようにプロレス団体でTikTokの“中の人”をやっていたこともあったので。あとは当時、海外では物撮りで SNS強い人はいたんですけど、日本ではまだ一人か二人くらいしかいらっしゃらなくて、ここは狙い目だなと思いました。

── 動画制作のこわわりを教えてください

撮影過程をなんでもかんでも見せるのは違うかなと思っていて。誰でもカメラや撮影のことを全く知らない人でも、その気になれば“自分でもできそう”と思える内容にしたいと思っています。あんまり難しいことやっちゃうと、楽しめなくなってしまうだろうなと。
“被写体(物)の持つイメージは絶対壊さない”というのはすごく意識してますね。コスメやドリンクを撮るにしても、その商品が持つイメージ を崩したくないですし、キャラクターの場合は作品の世界観も崩したくない。視聴者からは「他の作品と混ぜて撮って」というリクエストもよくくるんですけど、やらないようにしています。

── 物撮りにとって背景は重要。どうやって思いつくのでしょうか

やはりイメージを大切にしています。多分これは合うだろうっていうのを、もうとりあえず見切り発車で作っちゃってるみたいな部分もあって。思いついたら、それをどんどん形にしていきます。とりあえずなんか作ってみて、イメージに合えば採用みたいな感じです。最近は動画の冒頭に使う材料をバッて出すシーンを入れてるんですけど、出してるけど使われてない材料とか結構あるんですよ。
キャラクターのフィギュアだと、その作品のイラストとか、その原作マンガのシーンの背景とかは結構参考にします。例えば今日見に行った映画もそう。こんなシーンあったなみたいなのをイメージしたりとか、作品を楽しむというよりこの背景いいなみたいな、もうめっちゃその目線で見てました(笑)。
ロムアンドのファンデーションだったら、もう自分の中には完全に水が合うなっていうイメージがあったので。あとは水面にどういう表情をつけるかですよね。&honeyはハニーっていうくらいなのではちみつのイメージあって、でも蜂っていうより樹液だなと感じて切株のような木の幹を自作しました。シンプルだけど絶対合うなとか。

── アイデアに詰まることはないんですか?

めっちゃ詰まります(笑)。TikTokやショート動画を見ると、次から次へと作ってるように見えますが、めっちゃ詰まってるし、悩みます。絶対にこの背景を作ったら合うだろうけど、作るのめんどくさすぎるーみたいなのもありますし、あとはもうシンプルにどう合わせれば映える写真になるのかがわからないとか全然あります。

物撮りの本質が感じられる作品

── これまでに撮影したお気に入りの作品を教えてください

今まで撮った中で一番好きなの、やっぱずっとこれなんですよね。YSL(イヴ・サンローラン)のリップ。口紅の部分や容器の部分それぞれの質感もそうですし、ハイライトの位置とか締めたいところの締まり方とか、多分今までで1番うまくいった作品が間違いなくこの写真なんですよね。
あと、世界で活躍されている広告ビジュアル制作をされているカメラマンの赤司周さんという方がいらして、その方の撮られたYSLのリップの写真がめっちゃ好きなんです。スタジオアシスタントを卒業するまでに、自分でも満足いくYSLのリップの写真を1枚撮りたいという思いもあって、最後の作品撮りのときに撮りました。動画はまた別に機会に作ったんです。同じようなセットを組んで。
物撮りって結構ただ物を置いて撮るだけじゃんみたいに思ってる人すごく多いなって感じてて、スタジオに入ったときの自分がまさにそうで。スタジオに入ってまず驚いたのがそれでした。このYSLリップの写真も撮影するまでに1時間くらい準備に時間がかかって、それでもライティングのイメージはあったので早いほうだと思います。その後、仕上げで2時間くらいパソコンの前でずっと作業してた記憶があります。なんか一気に仕上げたくて。納得がいくまでやりました。

フィギュアの写真だとこれですね。『僕のヒーローアカデミア』という作品のオールマイトっていうキャラクターなんですけど、フィギュアが全身テカテカやしめっちゃカッコ良いって思って。でもテカテカだし、筋肉の隆起めっちゃあるし、ライティングは難しかったです。ライティングで印象が全然変わるんですよ。筋肉のあるタイプのキャラだから肉体の陰影も結構しっかり出したい。でも明るく撮りたいからといって全体の光を柔らかくしすぎると陰影が出ない。動画では結構パパッてやっちゃいましたけど、背景も含めて裏でめっちゃ時間かかりかかりました。ただ、背景のアイデアがすごいうまいことハマってくれました。背景の雄英高校の校舎の窓枠をどうやって作ろうかなと思ったのですが、どうしたらいいかなと思ったときには、とりあえず100均ショップに行くこととか多いんです。100均ショップに行ってワイヤーラックを見つけて、これきっと窓になるって閃きました。

── 大変だった撮影も教えてください

めちゃめちゃ体力使ったのが瓶のモンスターエナジーの撮影ですね。視聴者の方から僕の手を入れてほしいっていうリクエストがあって、なので床に寝っ転がって。片手で瓶を持ち上げて、もう片手でリモートでシャッター切ってたんですけど。体勢がツラくてめっちゃ腹筋痛くなってました(笑)。全然角度が決まらず、成功するまで確か120枚ぐらい撮った気がします。もっと楽な方法があった気がしますが、パワープレイしちゃいました。
あとはまた『ヒロアカ』のフィギュアになっちゃうんですけど、爆豪勝己というキャラなので爆発を背景にしたくて。でもこれを撮った日、なんか知らないんですけど、すごい気合入ってて。なぜか背景2個作っちゃって、撮りながらオレなんでこんなん作ってんだ?って思いながら撮ってました(笑)。
爆発の炎や煙については、怪獣系のジオラマを作ってる記事か何か見たときに、綿の中にオレンジ色のLEDを入れて爆発を表現してる人がいて、これ絶対使えると思って参考にさせてもらいました。周りに飛んでる火花は、別で撮った素材なんですけど、オレンジの光を当てた大きめの砂の粒を落としてをスローシャッターで撮影するとこんな感じになります。確か全部で2日ぐらいかけました。

一眼レフカメラの楽しさも伝えたい

── 今後、挑戦してみたいことを教えてください

今は割とお手頃な価格のフィギュアを撮影することが多いんですが、高価というかもう完全に作り込まれた、もうこれをただ撮ればいいじゃんみたいなフィギュアをもっとカッコ良く撮りたいなとか思ったりしています。仕事的なところでいうと、玩具メーカーさんの公式の写真撮影のお仕事はいずれやってみたいなと思っています。パッケージの写真とか撮れるようになりたいです。コスメの広告ビジュアルなんかもやってみたいと思いますが、自信持っていけるようになりたいなとは思います。

── フォトグラファーと動画クリエイターどちらも大切に

自分の中ではフォトグラファーと動画クリエイターの2面があるなと思ってます。やっぱりTikTokやショート動画を見て依頼いただくお仕事が多くて、撮影風景のショート動画でのPRも兼ねて、写真を納品する動画クリエイターに近いお仕事です。最初は写真撮影の依頼が来てほしいっていうフォトグラファーになりたい気持ちが強かったんですが、いろんな撮影をしていくうちに、徐々に動画クリエイターの面も大きくなってきています。さらに言うと集客できる人になりたいなと思っていて、今は動画が注目されているので、そのためにも動画クリエイター的な力を伸ばさなきゃって思います。
あとは、カメラの魅力はずっと発信したいと思っています。今の若い方は写真はスマホで撮ればいいじゃんっていう人がすごい増えてると思うんです。もちろんすごいカメラ機能のスマホも存在するんですが、僕はやっぱり全然違うとは思っていて。レンズを変えたりとか、設定を変えたりみたいなことも含めて一眼カメラがやっぱり楽しいと思っています。自分としては、後で見返しても、これ撮って良かったと思える写真を撮っていきたいと思っています。

ゆーいち プロフィール

物撮り専門のフォトグラファー。
プロレス団体営業、広報を経験後にスタジオマンへ転身。フォトスタジオでのアシスタント経験を活かし現在はフリーランスカメラマンとして独立。
フィギュアやコスメなど、物撮りをする動画をYouTubeやTikTokに投稿しており、どんな商品も高見えする撮影技術でファン急増中。
YouTube→@yuichi_cam_
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