人気写真家と高校生が、地元の魅力を写真プリントで伝える本企画。講師にゆ~とびさんを迎え、高校写真部のメンバーが島を飛び出し、エプサイトギャラリーでの写真展開催を目指す。全2回の前半は、ゆ~とびさんが思う作品づくりをレクチャーする。
第1回「写真展に向けての“はじめの一歩”」
- テーマを決め込むよりも、まずは良い写真を撮ろう
- 良い写真を撮るためには「言語化」が大切
- 言語化するためにはプリントが必要
多くの人に島の魅力を届ける写真展開催までの道のり①
八丈高校写真部は少数精鋭で、この日集まってくれたのは6人。ゆ〜とびさんの写真講義から始まり、撮影実習、プリント講義、プリント講評会と盛りだくさんな一日をレポートする。
高校写真部をフィーチャーした企画だが、大人が学べることも多い。良い写真を撮るためのコツ、写真プリントで表現し伝える喜びなど、慣れてくると忘れがちで見失っていたことが再認識できるはず。また、写真愛好家が抱える悩みは年齢を問わず同じであったり、高校生の柔軟な視点に驚かされたりと発見もある。
目指すはエプサイトギャラリーでの写真展。YouTubeを主戦場に活動するゆ〜とびさんは、高校生たちにどんなことを伝えるのか。
写真上達のコツは「言語化」にアリ!
写真展で島の魅力を伝えるには、やはり目を引く写真であることは不可欠。そこで、まずはゆ~とび流の写真レベルアップ術をレクチャー。「ずばり、言語化すべし!」と伝えるが、生徒たちはポカーン。なぜ、言語化が大事か? この写真の何が良くて何が悪いのかを理解・説明できると、どんな場所、どんな被写体でも良い写真の撮り方が導き出せて、再現性が上がるという。では、軽く挑戦。
「楽しい」は一番の原動力! そこに技術をプラスすれば最強
「みんな、YouTubeは見る?」「あんまり……」と予想外の返答から始まった写真講義。「僕のYouTubeは?」「少しだけ」……良かったと、少し顔が緩んだゆ〜とびさん。
講義は「写真の良し悪しを言語化する」をテーマに、生徒たち一人一人に問いかけながら行なわれた。そして、多くの人が良いと感じる写真には4つの要素が組み込まれていて、それらを意識することが大切と話す。
- ① 時間帯
- 光の角度や色が変わるので風景や被写体に合った時間帯を選ぶ。
- ② 3D感
- 層に分けて構図を組むことで平面 (2D) の写真を立体的に。
- ③ 瞬間性
- 写真ならではの表現。的確な瞬間は感動を高める。
- ④ 希少性
- 珍しい被写体はそれだけで注目度が高い。
そもそも「何を撮ったらいいかわからない」という人も多いという。ゆ〜とびさんは自身のオンラインサロンで写真の講評もしており、そこでは具体的な撮影テーマをあえて設けていない。なぜなら、テーマのことばかりを考えて個性がつぶれてしまうから。特に高校生には、この年齢ならではの自由な発想で撮ってほしいと、2時間目の撮影実習のテーマを考えた。
さらに、シンプルに「楽しい」「きれい」「面白い」など当たり前と思っている心の動きに気づくことの重要性も語る。「楽しい」は撮影の一番の原動力。例えば「今日は夕日がきれい」と感じなければ撮影はしないし良い写真も生まれない。撮影実習では、ちょっとした心の動きにカメラを向けてほしいと伝えていた。
「時間帯」「3D感」「瞬間性」「希少性」言語化から導き出された4つの撮影ポイント
自身の作品を見せて生徒たちに問うが、そこは強豪写真部。考えながら出した答えは、ほぼゆ~とびさんの狙いどおり。さすが! 生徒たちの言語化によって、① 時間帯 ② 3D感 (立体感) ③ 瞬間性 ④ 希少性 が多くの良い写真には組み込まれていることがわかった。そして、これらが写真撮影で意識するポイントとゆ〜とびさんは解説。
4つの撮影ポイントを意識しながら「渾身の一枚」を撮ろう
撮影実習の場所は、生徒たちがゆ~とびさんを連れていきたいと選んだ3か所 (各30分程度)。どこも八丈島の自然や歴史を感じる場所で、ゆ~とびさんも前日に自身の撮影を兼ねてロケハン済み。実習といっても基本的には各々で撮影し、渾身の一枚を狙う。時折、ゆ~とびさんがきれいな光の場所を教えたり、悩んでいる生徒に声をかけたり、生徒を被写体に撮影したりとフレンドリーに進められた。
撮影① 八丈植物公園
高校から徒歩5分、島特有の植物を楽しめる広大な公園。ガジュマルやゴムの木など約100種の熱帯・亜熱帯植物を有する。ゆ~とびさんはこれらの植物に感動していたが、生徒はいつでも行ける見慣れた場所。さあ、何を撮る?
■沖山さんの作品
撮影② 南原千畳敷
夕景が人気の撮影スポット。冷えた溶岩が黒い岩となって形成された台地が続く。火山岩の向こうには海原が広がり、その奥には八丈小島、そして振り返って陸地を見れば八丈富士の大パノラマ。しかし、生徒たちは下ばかり見ている。
撮影③ 陣屋跡の玉石垣
大里地区にある玉石を使った美しい石垣。遠島申し渡しで八丈島にやってきた流人たちが海岸から玉石を運び上げ、六法積みと呼ばれる独特の技法で造られたとされる。高校から車で10分ほどだが、初めて訪れたという生徒もいた。ここではゆ~とびさんを被写体に撮影する場面も。
■中川さんの作品
露出の仕組みを理解! 全員がMモードで撮影
撮影実習スタート。みんなで移動しながら最初こそ同じ被写体を撮っていたが、しばらくするとカメラを向ける方向はバラバラに。そして、チラッとモードダイヤルに目を向けると「M」。隣にいた生徒も「M」。……6人全員がマニュアル露出 (Mモード) で撮っていた。
写真部顧問の田崎先生に話を聞くと、特にMモードで撮影するような指導はしていないそうだが、先輩から後輩へ、代々その撮影設定が受け継がれているという。しかも、被写体やシーンを問わずMモードだと。生徒たちに露出の話を振ると、絞りとシャッター速度の関係をきちんと理解して撮影している。また写真プリントを見て、Mモードを使いこなしていると感じた。
先生との事前打ち合わせのときに、「八丈島という環境で育ったからか、構図や色彩のセンスを持っている生徒が多い」と話していた。部員全員が高校から写真を始め、1年生は入学から5か月ほど。シャッターボタンを押せばきれいに写る時代で、感性だけでもうまい写真は撮れるが、生まれ持った感性に撮影技術がプラスされればそれは最強である。これが写真強豪校たるゆえんと理解した。
どう仕上げたいかで用紙を選ぶ
昼食を挟んで、午後はプリント講義。講師はエプソン販売の吉田貴之さん。顔料・染料などプリンターの説明から、効率的なプリントの手順、写真用紙の種類や選び方、さらにはICCプロファイルや鑑賞距離の話まで、がっつり45分。なかでも生徒たち、だけではなくゆ~とびさんも興味津々だったのが用紙について。
“プリントして言語化する” これが一連の上達のコツ
撮影の次は、写真展クオリティーに作品を仕上げるプリント講義。エプソン販売の吉田さんが講師となって、ここではゆ〜とびさんも生徒。終始、真剣に聞き入っていた。
1時間目の写真講義でゆ〜とびさんは上達のコツを「言語化にアリ!」と説いていたが、吉田さんも同様に「上達の近道はプリントにアリ!」と語る。プリントして俯瞰して自分の写真を見ることで、PC画面上では気づきにくいこと、仕上がりのイメージ (色や階調など)、自分の癖や被写体の傾向などがわかり、メリットばかりだと話す。
このほか、プリントする際はまずストレートプリントを (調整前の画像をそのままプリントすること)、用紙選びの基本プリントは写真用紙・絹目調で行なうことなどを説明してくれた。
渾身の一枚をプリントして言語化しよう
講評会の前に、「写真をプリントすることの良さ」についてゆ~とびさんがレクチャー。今年子どもが生まれたことで、撮るだけではなくプリントして飾る、普段から目にすることのできるプリントの良さを今まで以上に感じたという。
また大阪で写真展を開き、自分のプリントが大きく飾られたときのエピソードも話してくれた。PC画面では味わえない迫力、SNSとは違った反響など。さあ、今日撮った写真の中から一枚を選び、プリントして言語化しよう。
■ゆ~とびさんの作品
■生徒作品
中川一瑠さん
後藤 稲さん
奥山水月さん
中村 環さん
佐々木美貴さん
沖山美唯沙さん
技術以外に大切なことは? 「撮れちゃった写真」について
講評会では「渾身の一枚」を発表し、良い点と課題点を言語化する。3か所で約1時間半の撮影時間にもかかわらず、個々の視点や作風を生かした作品が出てきた。奥山さんは初めてモノクロに挑戦し、後藤さんはホワイトバランス微調整機能を使って独自の色彩で表現、佐々木さんは誰も気がつかなかった被写体を撮影していた。
そして最後は、今日一日を振り返りつつ、ゆ〜とびさんに質問タイム。
Q. 人を撮るときに意識していることは?
A. きれいな背景 (風景) を先に探して撮っている。
Q. 技術以外に大切なことは?
A. まずは楽しんで撮ること。そして極端に言えば、きれいだな、面白いな、などと思えたら強いと、気持ちや感性の部分について伝える。
一方、田崎先生からは「無意識に撮れちゃった写真の魅力についてご意見を聞けたら」と。「良い質問!」とゆ〜とびさん。考えて撮ると良い写真を撮れる確率は上がるけど、まとまりのいい写真ばかりになりがち。撮れちゃった写真には奇跡や発見がある。日々の練習として、言語化して再現性を上げること、感性のままにいっぱい撮ること、どちらもとても重要と話していた。
授業で使用したプリンター
エプソン EW-M973A3T
カラーインク4色 (CMY+グレー) に加え、顔料と染料の2種類のブラックインクによる豊かな階調描写が特徴。エコタンク方式のインクを採用し低印刷コストなので、インク代を気にせずプリントを楽しめる。写真部の活動にはぴったり。A3ノビ対応で写真展制作にも好適。
八丈島写真展は2024年11月29日よりエプサイトギャラリーで!
ゆ~とびさんが登壇する「CAPA博 2024」でも八丈島の写真を紹介します!
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【応募締切】2024年12月31日 (火)
- ゆ~とび
- YouTubeチャンネル登録者数15.9万人 (2024年10月現在) のフォトグラファー。初心者にも見てわかりやすい撮影テクニックや機材レビューなど、さまざまなコンテンツを発信中。風景、野鳥、夜景を中心に撮影を行なう。
→ YouTube │ → X │ → Instagram
- 東京都立八丈高等学校
- 八丈島唯一の高等学校。全校生徒130名弱の小規模学校ながら、写真部は3 年連続で「写真甲子園」の本戦大会に出場。学校全体として日ごろから、島の魅力を伝えるさまざまな取り組みを行なっている。
→ WEBサイト
第2回は2024年11月20日公開予定。写真展に向けて本格準備!
〈撮影〉平田龍乃介 (八丈写真館)