人気フォトグラファーのゆ~とびさんと高校生が、地元の魅力を写真プリントで伝える本企画。最終ゴールはエプサイトギャラリーでの写真展開催だ。会期も決まって本格的に準備がスタート。全2回の後半は、ゆ~とび流の展示づくりをレクチャーする。
第2回「写真展に向けての準備 -島の魅力を伝える展示とは?-」
- テーマを決め込むよりも、まずは良い写真を選ぶ
- 正解はない! 見せ方を考えよう
- 見せるためには “きれいな写真プリント” が大切
撮ってからが始まり! 写真展づくりのノウハウ満載
ずばり、写真展開催を目指す人は必見。高校写真部をフィーチャーした本企画だが、今回は写真展の準備や構成などヒントになることが盛りだくさん。
8月中旬、夏休み中に行なったゆ〜とびさんによる撮影&プリント実習から約2か月。写真展の会期も決まって本格的に準備すべく、10月下旬に2回目のレクチャーを実施した。
この日、体調不良や受験、学校行事と重なるなど、参加できたのは4人。少し寂しい人数ではあるが、事前に部員たちが「渾身の一枚」をたくさん撮影し、できるだけ多くプリントしてくれていたこともあり、写真点数は十分。エプソンから提供されたプリンター「EW-M973A3T」は、大量に印刷してもインク切れを起こさず重宝した様子。そして、写真のセレクトから並べ方、用紙選び、展示クオリティーのプリントまで、ゆ〜とびさんと一緒に考えて悩んでひとつずつ詰めていく。
言語化して島の魅力を伝えよう
写真上達のコツは「言語化」にアリ! 前回のレクチャーで学んだ写真の言語化を、展示したい写真プリントを使ってゆ~とびさんに伝えることからスタート。写真の良し悪しのほかに、今回は写真展に向けて島の魅力も盛り込む。この言語化によって、何を伝えたいか、どのように見せたいかなども明確に。そして、エプソンとの事前ガイダンスで提案された展示パターン (A~C) の中から展示方法を決定する。
写真展を開く実感がわく学びのあるガイダンスに
今回のゆ〜とびさんのレクチャーが行なわれる以前に、写真展会場の写真や図面などを画面で見せながらのガイダンスが実施された。ここでギャラリー担当者が部員たちに伝えたかったことのひとつが「展示方法を決める」。
エプサイトギャラリーの横幅約9mの壁面に、どんな大きさでプリントした写真を、どんなふうに展示するのか、3パターンのおすすめの展示案 (下のパターンA〜C) が示された。ここからどの展示パターンが良いのかを話し合って決定することになる。
横一列に並べるだけじゃない! 展示のレイアウトを考えよう
写真展開催が決まったら、その展示スペースに合わせて展示の構成を考える。横一列に並べる展開が主流だが、それだけではない。その例を特徴など織り交ぜて紹介する。
写真提供 : エプサイトギャラリー
■横一列に同一サイズで展開
写真集をめくっていくように、1枚1枚の作品をじっくり見てもらえる。入口から出口までの流れを意識して、並び順を考えると効果的。間に何点かサイズの違うプリントを入れてリズムを作るのもアリ。
■ランダムに並べる
展示にリズムが出る。壁面全体で空気感や作品の世界観を伝えたいときに有効な方法。ランダムに並べつつも統一感を出したいときは、同一サイズにするのがおすすめ。並べ方が無限にあるのが一長一短。
■数枚の組みで展開
テーマが複数、または点数が多いときに適する。グループ展などにも向く。縦横やサイズを統一すると、テーマが違っても全体としてまとまった展示になる。今回は3枚 (大1・小2) で組み写真を作って展開。
このほか、プリントの大小の効果の違いや、「展示用に大きくプリントするからこそ見せられる、表現できるものがある」「床から145〜150cmが集中して見やすい位置とされ、作品を展示するのに適している」といった、展示全般に関する説明もあった。部員からは「壁面だけでなく、もっと八丈島の魅力を伝えられるような展示を考えてもいいですか!」と前向きな質問も飛び出した。学ぶことの多いガイダンスとなった。
展示する写真を選ぶ、並べ方を考える
展示構成が決まったので、それに沿って写真点数や並べ方を決めていく。ゆ~とびさんが意見を伝え、生徒たちに問いながら進められた。写真を撮る作業と比べ見せる作業は迷いがあるようで、沈黙になることも。正解のない作業に悩む生徒たちだが、写真プリントを実際に入れ替え、並び替え、その違いを確認することで納得しつつ、自分の考えも出していた。
展示できる点数は18枚。A4にプリントした候補写真約40枚を机に並べ、まずは半分くらいに絞っていく。ここでゆ~とびさんはテーマを決めるのではなく、一人ずつ展示したい写真を順に選んでいくことを提案。ゆ~とびさんと部員4人で4順して、20枚をセレクト。ただ残りの写真もまだまだ候補。
展示パターンCは大1枚と小2枚の組み写真。大きくしたいメイン写真を選んで、それに合わせて小2枚を組み合わせていく。その際のセレクト基準は「統一感」。時間帯や色味、被写体のほか、上下に並べる3 枚の構図の向きや視線誘導の流れなどを総合的に判断して決める。前工程で選ばれた20 枚で組めないときは、候補外からの写真も検討。
展示できるのは6セット。その並び順を決めていく。3枚1セットの机を移動させ、展示する壁面ごとに分けて、引いて全体を眺めながら鑑賞。壁面を色味で分ける、時間帯で分けるなどのアイデアが出て、その都度、机を並び替えてどれが良いかを検討する。正解はないので、多数決で決めるシーンも多く見られた。
並べる際は「統一感」を意識! 写真をプリントすることでみんなで検討や共有ができる
展示構成を考える際、テーマを先に決めて、それに沿って写真をセレクトする方法もあるが、今回はゆ〜とび流で進められた。テーマよりも良い写真、見せたい写真をまずはピックアップし、それらを元に詰めていく。
これは「高校生ならではの感性を全面に出した写真展にしたい」というゆ〜とびさんの考えからだ。また、今回は3枚1セットの組み写真が複数あるレイアウトに決まったので、1セットごと、または壁面ごとに統一感があれば問題ないという判断である。
とはいえ、答えはなかなか出ない。途中、候補の中に目ぼしい写真がなく、スマートフォンやパソコンに保存してある写真を探すことも。その都度、A4にプリントして並べて確認する。
このように、複数人で検討するときにはプリントは不可欠だ。写真を入れ替えたことによる印象の違いをみんなで議論し、共有しながら行なえるメリットは大きい。また、並べたプリントは客観的に鑑賞でき、展示の全体像や並びの流れを確認するのにも適している。
写真展は箱や面、空間全体で表現するもの。パソコンや頭の中だけで組み立てるよりも、プリントしたほうがより明確に視覚的に判断でき、かつ作業がスムーズに進むと実感した。
写真展と同じように壁に貼って確認しよう
昼食を挟んで、午後はプレ展示を行なう。教室の壁に実際に貼って鑑賞、確認。今回は大プリント1枚+小2枚の構成なので、大きくする写真はA3ノビにプリントして、A3ノビとA4を展示のように壁2面を使って並べてみた。机に平置きして見るよりも、より本番の展示に近いイメージだ。写真を平置きした場合と壁に貼った状態では印象が異なり、これによりまた入れ替えが……。
ここでテーマを発表「自然と高校生の共生」
展示の全体像が見えてきたところで、ゆ〜とびさんがテーマを発表。3枚組のどのセットにも自然と高校生が写っている点に注目した。大人が八丈島に来たら自然しか撮らないし、都内や大阪にいる高校生は街中で高校生を撮ることが多いので、「自然と高校生の共生」がいいかな、と伝えた。みんなは普通かもしれないけれど、この異色の組み合わせはほかと差別化できて、島の高校生ならではの強いテーマだと。
これを導き出せたのは、統一感をメインに写真をセレクトし、並びを決めたから。最初にテーマを決めてしまうとどうしてもテーマに合わせようとして、良い写真は置き去りになりがち。今回はこの方法で進めたのが正解で、高校生らしい展示構成ができたのではと、ゆ〜とびさんは話していた。
展示前にプリントして写真を見ることはメリットしかない!
大切な写真展。個展になればなおさらだし、お金もかけている。いざ会場に展示してみて「イメージと違った……」とがっかりしないためにも、今回行なったプリントして並べて見る、壁に貼ってシミュレーションしてみることはとても有効だ。写真をセレクトする際、自分の写真を客観的に見ることができたり、足りない要素 (写真) の確認ができたりとメリットしかない。
今回は複数人で作業するためA4サイズにプリントしたが、2Lサイズ程度でもプリントしないよりは、したほうが断然良い結果を導き出せる。作品クオリティーの写真を印刷する前に、ぜひ行なってほしい。
顔料プリンターと染料プリンター、展示プリントにはどっちがいい?
顔料と染料で悩む人は多いだろう。両方にメリットとデメリットがあり、またプリンターによってもその性能や性質は異なるので、展示プリントの場合はまずインクよりも写真高画質プリンターで出力することがマスト。そのうえでインクの特性を理解し、自分の作品に合わせて選びたい。
■顔料プリンター
エプソン プロセレクション SC-PX1V
■染料プリンター
エプソン EW-M973A3T
写真のイメージがより引き立つ用紙を選ぼう
生徒たちがプリントしたA4写真は、全て写真用紙の絹目調。今回の展示では、高光沢紙、絹目調、ファインアートペーパーのマット紙と、傾向の違う3種類を候補として用意した。さらに、1枚1枚用紙を変えてもいいし、全部同じでもOKとのことで、生徒たちをまたまた悩ませた。ゆ~とびさんは「セットごとに決めていこう」と提案する。
自然風景なら光沢紙? マット紙で表現するのも大アリ
さまざまな用紙が販売されているが、大きく3種類に分けられる。ツヤがあって鮮やかな発色が特徴の光沢紙。ツヤ消し加工が施されて落ち着いた印象を与えるマット紙。絹目調は両者の間、抑えられた光沢感でナチュラルな仕上がりとなる。このほか、ざらざらとテクスチャーが強めの和紙も最近の展示では見かける。自然風景だから光沢紙一択ではなく、春霞の雰囲気を出したいならマット紙などと、テストプリントをしつつ柔軟な発想で選んでいこう。
展示クオリティーの本番プリントを作る
最後はエプソンの写真高画質プリンター「SC-PX1V」を使って、本番プリントに挑戦する。とは言っても、展示クオリティーに仕上げる設定どおりに入力していくだけで難しいことはない。前工程で選んだ用紙に合わせて、ひとつずつ正確にプリント設定をしていく。
自然や人だけではない目に見えない感性なども島の魅力として伝えたい
プリントが完成し、これで全レクチャーが終了。ゆ〜とびさんが生徒たちに授業の感想を聞く。積極的に発言し、みんなをまとめていた部長の中川さんは「部員同士でも写真を選ぶことはあるけど、ゆ〜とびさんが一緒だとぜんぜん違った。そこが新鮮で楽しかったです」。1回目の実習は参加できなかった平間さんは「用紙によって空の色味や自然の迫力の印象が変わることに驚きました」。3年生ですでに独自の写真センスを持つ沖山さんは「セレクトや並べ方は難しかったです。写真1枚ではなく、会場や壁全体で見ていくことが勉強になりました」と、それぞれに気づきや発見があったようだ。
ゆ〜とびさんも高校生の発想や感性に刺激されたと話す。また、思っていた以上に部員たちの作品のクオリティーが高くてセレクトは大変だったが、結果、島のみんなにしかない統一感が出せたと思う。そして、感性の部分も島の魅力として伝わるといいな、と。
さらに、みんなが実際にこの写真展を訪れて展示を鑑賞したときにどう見えるか、そこでまた考えてほしいし、見に来てくれたお客さんの反応も見てほしい。それが今後の参考になると、最後まで生徒たちのことを思い、気持ちを伝えていた。
【エプサイトギャラリー特別企画展】
\ゆ~とび×八丈高校写真部/
届け!島チカラ ~自然が織りなす東京都・八丈島の魅力~
2024年11月29日から12月26日にエプサイトギャラリーで開催します (日曜休館)。本企画でまとめ上げた八丈高校写真部の作品と、ゆ~とびさんが八丈島で撮り下ろした珠玉の作品を一堂に展示。八丈島の魅力がたっぷり詰まった、ここでしか見られない特別な写真展です。
ゆ~とび「高校生にしか出せない若くて真っ直ぐな熱のこもった作品展へ、ぜひぜひお越しください!」
2回目の実習が無事終了! 写真部のみんな、お疲れ様でした! 今回は実際にプリント用紙の違いに触れながら、高校生のみんなの感性にも驚かされながら、とてもとても貴重な経験をさせていただきました。朝から夕方までたっぷり時間を使い、楽しく真剣に取り組むみんなの姿勢にたくさんの刺激をもらいました。この熱量は写真展に来てくださる人にも絶対に伝わると思うので、とにかくゆ~とびはより多くの方に来ていただけるように全力で応援します!
そして、猛暑と雨天の中で撮ったゆ~とびの作品も展示しますので、たくさんのご来場お待ちしております。
写真展の概要
開催期間 2024年11月29日 (金) ~12月26日 (木)
会場 エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー
住所 東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F
→ MAP
アクセス JR有楽町駅・国際フォーラム口から徒歩2分 ほか
会館時間 11:00〜18:00
休館日 日曜・祝日
入場料 無料
授業で使用したプリンター
エプソン プロセレクション SC-PX1V
10色の顔料インクを採用した写真高画質プリンター。ブルー領域の階調性と黒濃度の向上によって別格の表現力、作品画質を追求。A3ノビ対応ながら、従来モデルの「SC-PX5VII」(2014年発売) より体積比約68%とコンパクトな筐体も特徴のひとつ。写真展クオリティーの作品づくりが存分に味わえる。
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【応募締切】2024年12月31日 (火)
- ゆ~とび
- YouTubeチャンネル登録者数15.9万人 (2024年11月現在) のフォトグラファー。初心者にも見てわかりやすい撮影テクニックや機材レビューなど、さまざまなコンテンツを発信中。風景、野鳥、夜景を中心に撮影を行なう。
→ YouTube │ → X │ → Instagram
- 東京都立八丈高等学校
- 八丈島唯一の高等学校。全校生徒130名弱の小規模学校ながら、写真部は3年連続で「写真甲子園」の本戦大会に出場。学校全体として日ごろから、島の魅力を伝えるさまざまな取り組みを行なっている。
→ WEBサイト
〈撮影〉平田龍乃介 (八丈写真館)