全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園2025」が、2025年7月29日に北海道東川町で開幕した。8月1日まで繰り広げられる4日間の戦いを、現地からレポート。熱い後半戦の模様をお伝えする。【前半戦はこちらから】
大会3日目 (7月31日)
ファースト公開審査会
大会3日目は、午前9時に1回目の公開審査会でスタート。発表する作品のテーマは「いま、ここ」だ。このテーマをストレートに解釈してもよいが、ひねってみるのももちろんOK。どこまで自分たちの良さが生かせる方向に拡大解釈できるかがポイントといえる。
くじ引きで決めた順番で2校ずつ、プレゼンテーションと8枚組みの作品を発表。野村恵子さん (代表審査委員) 、中西敏貴さん、須藤絢乃さん、鵜川真由子さん、浅田政志さん、大森克己さん (ゲスト審査委員) の写真家6名が講評を行なう。
これまでの大会では司会から指名された審査委員が講評をしていたが、今年は審査委員6名が話し合った結果、フリートークで行なう形式となった。最初こそ順に発言していたが、進むにつれて審査委員どうしのやり取りも激しくなっていく。
予選時の応募作品と比較して、自分たちの良さが出ていないといった講評も多かったが、「いや、これはこれでアリじゃないですか?」といったフォローもあるなど、選手たちには後半の撮影ステージに向けて参考や励みになる内容が多かった。
1回目の公開審査会だったが、今回は優勝経験校が18校中4校、また連続出場も多い顔ぶれとあって、個人的には高いレベルで拮抗しているように感じた。
ちなみに審査は、テーマ性やコンセプトの「心」、技術力や構成力の「技」、表現力や独創性の「眼」を各審査委員がそれぞれ10点満点で採点する。きれいに撮れた写真を揃えただけでは高い評価は得られない。発表した8枚の組写真が、選手の表現意図とひとつのストーリーとしてつながっているか、それが伝わってくるかが厳しく問われる。
【第3ステージ】東神楽町
緊張のファースト公開審査会を終えたばかりの選手たちは、慌ただしく昼食をとると東川町の隣・東神楽町へ。広い田園地帯で何を撮るか迷いそうだが、選手たちはある程度プランを練っているのか、足早に町内へ散っていった。追いかけると、民家を一軒ずつ訪問して住民のポートレートを撮る選手もいれば、公園や小学校に狙いを定めている選手もいた。

【第4ステージ】東川町
そして撮影ステージは大会のホームグラウンド、東川町へ。設定されたエリアは中心街から少し離れた田園地帯。家と家の間が遠く、選手たちは被写体を求めてひたすら歩く。

機材メンテナンス
選手たちの撮影機材は、貸与された「EOS RP」と「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」など。数千枚を撮影し、プロ並みにカメラを酷使する選手もいる。その撮影を支えるべく、キヤノンマーケティングジャパンからメンテナンスのプロたちが出張。選手から機材を預かり、食事を済ませる間にセンサークリーニングや点検を行なう。
大会4日目 (8月1日)
【第5ステージ】東川町
例年通りに朝10時のゴールのみが設定され、各々の時間に宿舎を出発。夜明けとともに始動した高校が多いようだった。設定されたエリアは、町を貫くメインストリート・旭川旭岳温泉線に沿った中心街。写真甲子園の選手が回っていることは大半の住民が知っているので、撮影がしやすいステージともいえるが……。泣いても笑ってもこれが最後の撮影のチャンスだ。

そして午前10時、カウントダウンとともに撮影終了! 選手全員で恒例の記念写真。北の空に向かって精一杯ジャーーンプ。
ファイナル公開審査会
全撮影ステージが終了して、選手たちは2回目のセレクト会議へ。2つ目の提出作品のテーマは「まなざし」。そして15時から2回目にして最後の公開審査会が行なわれた。形式は1回目と同じで、発表の順番のみが変わる。
1回目では「予選のときの良さが出ていない」という講評が多く、それを踏まえて自分らしさや思い切りの良さが表れた作品をまとめてきた高校も目立った。審査委員も写真の技術よりも、選手たちの意図を汲み、やりたいことが表現できているのかを見ているように感じた。ただし褒めるだけではなく、マイナス要素は選手たちに意図を尋ねたり、厳しく指摘したりする場面もあった。これは講評がフリートーク形式になったメリットではないだろうか。
表彰式
ファイナル公開審査会後、審査委員6名による審査が行なわれ、表彰式へ。優勝、準優勝が各1校、優秀賞5校、敢闘賞11校、このほか特別賞が選ばれる。
全国518校の頂点に立ったのは、北陸信越ブロック代表・中越高等学校 (新潟) 。2年連続9回目の出場にして初優勝だ。また「選手監督が選ぶ特別賞」も受賞した。
中越高校はファイナル公開審査会で発表した作品「セブンティーン」で頭ひとつ抜けた印象はあったが、どこが優勝してもおかしくない接戦だった。結果は以下の通り。
- 優勝・選手監督が選ぶ特別賞
- 中越高等学校 (新潟)
- 準優勝・町民が選ぶ特別賞 (ファースト)
- 豊川高校 (愛知)
- 優秀賞
- 宮城県白石工業高校 / 茨城県立笠間高校 / 和歌山県立神島高校 / 大阪府立生野高校 / 愛媛県立新居浜工業高校
- 町民が選ぶ特別賞 (ファイナル)
- 東京都立八丈高校

表彰式後には審査委員から選手たちへメッセージが。
「発表したのは3人の合作だけど、自分が撮ったものだけで8枚組を作って、家族や友達に見せてください。自分の頭も整理できると思います」 (浅田政志さん)
「太陽の光が地球に届くまで8分19秒かかる。みんなが撮った “今” は8分19秒前とも考えられるし、それをまた1/250秒とかで切り取るってかっこいいじゃないですか」 (大森克己さん)
「1回目のテーマが『いま、ここ』でしたが、今もここもずっと続いていきます。時間が経つほど写真は輝いていきます。カメラのある人生は宝物が増えるので、これからも写真を撮ってください」 (野村恵子さん)
最後は開会式でも行なわれた野村恵子さんの掛け声「Here we go!」に、審査委員と選手全員で拳をあげて大会を締めくくった。
【優勝】中越高等学校 (新潟)
ファースト公開審査会 : テーマ「いま、ここ」
「大地と人と」
ファイナル公開審査会 : テーマ「まなざし」
「セブンティーン」
中越高校は、1回目の審査にはモノクロ8枚組「大地と人と」を発表。ドラマチックな光を豊かなトーンで表現し、講評でも高い評価を得ていた。本来は凝ったコンセプトを考えていたそうだが、撮りきれずに監督からダメ出し。「自分たちがかっこいいと思う8枚でいけ」と指示され、このときは優勝を諦めたという。
しかし同時に、メインのテーマである制服シリーズも初日から撮影していた。これは応募作品「オ.イ.ハ.ル」のテーマで、年配の方に自校の制服を着てもらい、まるで本当の高校生のように描いたユーモラスなもの。それと同じことをわずか4日間、まったくアウェイの本戦の場で挑戦したのだ。
僕は初日の夜のホームステイでたまたま中越高校を取材していたので、そのプランは知っていたのだが、実際に誰かに制服を着てもらう様子は目撃できなかった。しかも最終日のゴール直前は3人とも暗い表情だったので、撮れずに諦めたのかなと思っていた (実際には早朝から動いていて睡眠不足だったらしい)。それだけにファイナル公開審査会前に資料で「セブンティーン」というタイトルを見たときは驚いた。

そして、いざ上映されてさらにびっくりしたのは、8枚組の作品に登場する人物がすべて別人だったこと。ただ着てもらうだけでなく、演技をしてもらったり、着替える姿を入れてみたり、ただのコスプレとはひと味違う表現に。短時間でどうやって撮り切ったのか不思議だが、だからこそ混戦の中で優勝を勝ち取ったのだろう。

「セブンティーン」の撮影では主将の木村優花さんがモデルと会話する役を担当。「学生時代のことを質問して、制服を着ていたころを思い出してもらいました。服装だけでなく内面も写るように心掛けました」(木村さん)。
なかには戦争で制服が着られなかったので、こうして高校生に戻れてうれしいという人もいたという。そうして作り上げた場面を小林結芽さんと荒井七美さんが撮影。審査委員が絶賛していたタイトルの意図について、荒井さんは「18歳だと成人してしまうし、その手前、撮っている私たちと同い年になってもらえたらいいなと思いました」と話してくれた。

また出場回数では “大ベテラン” の松田浩明監督は、「写真の技術でいえばうちはトップじゃありませんが、発想と行動力には自信がありました。それを審査委員の方々が評価してくださったのがうれしいし、写真甲子園も次の時代に変わろうとしている気がします」と、優勝という結果よりも、自分たちが認められたことを喜んでいた。
熱戦の様子は、2025年9月20日発売の『CAPA』11月号 Autumnでも紹介。お楽しみに!
〈協力〉キヤノンマーケティングジャパン株式会社
〈レポート〉鹿野貴司