2025年9月27日、CAPAとFIA WECのコラボによる「FIA 世界耐久選手権 富士6時間耐久レース」撮影セミナーを開催。CAPA「流し撮りGP」審査委員長を務める日本レース写真家協会会長・小林稔先生の指導のもと、9名の参加者が富士スピードウェイでサーキットを疾走するマシン撮影に挑戦した。この撮影セミナーの様子をレポートする。
一脚を使った超望遠の流し撮りにチャレンジ
富士スピードウェイに集合した9名の参加者は、ピットビルにあるメディアセンター内のセミナー会場で小林稔先生から撮影前のレクチャーを受けた。一般観戦エリアから撮影するうえでの注意点や撮影のポイントを説明した後、「流し撮りをするとき、いきなりシャッタースピードを1/60秒、1/30秒と遅くする人がいるが、慣れないうちは無理せず1/500秒から始めてはどうだろうか」とのアドバイスに参加者たちはうなずいていた。

- 特別講師・小林稔先生
- 自動車専門誌や一般誌における国産車・外国車の新車試乗記の撮影、メーカーのカタログ、自動車ショーなどアウトドア、スタジオを問わずクルマとモータースポーツの写真を撮り続ける。現在、SUPER FORMULA、SUPER GTのオフィシャル・フォトグラファーを務め、ルマン24時間レースなど国内外で年間20レース以上を撮影する。日本レース写真家協会 (JRPA) 会長。
参加者たちは、いずれもサーキットでの撮影経験者。愛用のカメラと超望遠レンズ、貸し出されたLeofotoの防水カーボン一脚、Nextorageのメモリーカードを持って撮影に臨んだ。



まずは肩慣らし! GR Supraコーナーで練習走行を撮影
午前中は、「富士6時間耐久レース」に出走するドライバーたちの練習走行を撮影。GR Supraコーナーの立ち上がりを正面ぎみに捉えたり、加速するマシンをサイドから狙えるポイントだ。参加者は思い思いのポジションを選び、GR Supraコーナーを走り抜けるマシンにレンズを向け、シャッターを切った。





GR Supraコーナーでは、多くの参加者が縁石を踏みながらカーブを曲がるマシンを撮影。次々と現れるマシンにファインダーをのぞく目は真剣だ。曇りがちの天気で光線はフラット。そのため、車体のスポンサーロゴがしっかり写り、正攻法の流し撮りがキレイに決まる。



午後は逆光ぎみのダンロップコーナーでドラマチックなシーンを狙う
14時20分からは「WEC富士6時間耐久レース」の予選。練習走行とは異なる緊張感のある走行が期待できる。マシンが競り合うシーンを撮るため、ダンロップコーナーへ移動した。マシンが減速しながら右へ左へと曲がるS字カーブで、さまざまなアプローチが楽しめる。




ダンロップコーナーのイン側から捉えるポジション。ここからはS字カーブを抜け、上り坂を加速するマシンを後ろから撮影できる。逆光となるため、車体はシルエットになりがちだが、輪郭が明るく写り、マシンのシルエットを印象的に表現できる。
予選は70分ほどで終了。撮影を終えると、コースサイドを後にセミナー会場へ向かう。お互いの撮影結果を報告しあっているのだろうか、楽しげに言葉を交わす参加者のみなさんは、満足そうな笑顔を浮かべていた。




小林先生&参加者の作品とコメント
小林稔先生の作品&コメント

最良の結果を出すためには縦位置も活用する
100-500mmのレンズだと一般観戦エリアから横位置でマシンを大きく捉えるのには焦点距離が足りなかったので、縦位置で撮影。マシンは画面上部に寄せ、下側にコースサイドの緑を広く入れることで画面を構成しました。限られた条件下で最良の結果を残す工夫をすることも大切であると知ってもらいたいと思いました。
参加者の作品&コメント

ノートリミングで完成した構図を目指す
いろいろな世代の方と意見交換することができ、非常に有意義でした。小林先生からのアドバイスに従い、「ノートリミング」「撮って出し」「どう撮るか」を念頭に置いて撮影しました。
小林稔先生のコメント
ピントもフレーミングもよく決まっています。1/80秒という難しいシャッタースピードですが、フロントがキッチリと止まっているのは、たいしたものです。車体の後ろは流れていますが、GTカーはこれで良いと思います。


カメラの最新機能を積極的に使うことも大切ですね
小林先生からカメラの最新AF機能を有効に使うと良いと聞き、これまで積極的には使ってこなかった全域AFなどにも挑戦し、良好な結果が得られました。セミナーで学んだことを生かして、今後の技術向上に向けてがんばります。
小林稔先生のコメント
撮影前のレクチャーで話したとおりに速いシャッタースピードを使っており、ブレがなく、シャープです。カーブに入る所をうまく押さえています。午前中は曇っていたこともあり、光がよく回って車体がキレイに撮れています。


撮りたい絵を意識して撮影に臨みました
セミナーに参加して、今まではシャッター速度を遅くし過ぎて、絶好の瞬間を逃していたと感じました。また、カメラの連写性能が上がり、やみくもに撮っていたように思います。今回のWECでは、撮りたい絵を意識して撮影に臨みました。
小林稔先生のコメント
マシンがコーナーでどのようなラインを取るか観察したうえで、どうフレーミングするか、よく考えて撮っていることが伝わってきます。今日は予選でしたが、決勝レースでは、複数の車が絡むデッドヒートもこのように撮れるといいですね。


背景の写り方にも気を配って構図を決定
富士スピードウェイは通い慣れた場所ですが、小林先生からフレーミングの際に、縁石の位置やスポンサーロゴ、車を置く位置を考えて撮る話など、学ぶことが多く、充実した1日でした。この写真はTOYOTA GAZOO Racingの看板を背景にチームのマシン (GR010) を撮ったものです。
小林稔先生のコメント
マシンとそのチームの看板を組み合わせ、画面上に観戦している人々やテントが写っていて、臨場感のある1枚になっています。マシンの前方が広く空いていますが、バランスの良いフレーミングだと思います。


2クラスのマシンが絡むシーンを狙いました
午前中はGRスープラコーナーで練習走行を撮影。WECならではの異なるクラスのマシンが混走するおもしろさを捉えたくて、タイプの違う2台が絡むシーンを狙いました。小林先生に教えていただいた一脚使用時のカメラの振り方が勉強になりました。
小林稔先生のコメント
何をどう撮るのか、よく考えており、基本的な撮り方も押さえられています。シビアなことをいうと、もう少しシャッター速度が速ければ、マシンのフロントまでキチッと止まったよりシャープな写真になると思います。


シルエットが逆光で浮かび上がる瞬間を撮影
撮影前のセミナーで学んだ「何をどう撮るか」を意識して撮影に臨みました。この写真は午後の予選で撮ったもので、ハイパーカーの美しいボディを強い逆光が照らし、シルエットの美しさが浮かび上がるように撮影しました。
小林稔先生のコメント
マシンを画面いっぱいに収める高い技量を持っていますね。美しい曲線を描く車体の輪郭を光で浮かび上がらせるという意図も理解できます。明るさを調節して、マシンのディテールが出したほうがより魅力的な1枚になるでしょう。


マシンを画面の中にしっかりと収める
「光を意識して撮る」と小林先生に教えていただき、これまで意識していなかったので、勉強になりました。モータースポーツ撮影歴は長いのですが、いつも1人で他の人と話さず撮影してきたので、今回、参加者のみなさんとお話しできて楽しかったです。
小林稔先生のコメント
マシンの前後が切れないように画面に収めるという基本が守られているいい写真です。シャッタースピードも1/320秒と適切で、フロントからリアまできれいに止まりつつ、タイヤが回転している様子もしっかり表現できています。


マシンが縁石で跳ねる瞬間を狙いました
アストンマーティン・ヴァルキリーが縁石を踏んで跳ねている瞬間を撮影。レオフォトの一脚、MPQ-404Cの石突が大きいこともあって、流し撮りでレンズを振りやすいと感じました。
小林稔先生のコメント
車がどういう動きをするか、よく観察できており、このマシンが縁石で跳ねることを予測して、その瞬間を見ごとに捉えています。狙いが明確で、本人のイメージどおりに撮れているのだと感じました。


点灯したハザートランプがポイントです
午後のダンロップコーナーでの撮影では、逆光ぎみの光がキレイだったので、後追い撮影を楽しみました。写真は、アルピーヌのバックショット。点灯するハザードランプと広めに入れた縁石がポイントです。
小林稔先生のコメント
撮りたいイメージが明確であることが、作品から感じられます。縁石をどう入れるかまで計算されている点にも感心しました。こうした撮り手の思いが伝わってくる写真が良い写真だと思います。


車体が切れるほどタイトな構図を狙いました
美しい曲線を帯びたマシンの輪郭を見せたい、同時に縁石に載っている瞬間を撮りたいと思い、ダンロップコーナーを抜けてゆく2台を後ろから狙いました。レンズは600mmですが、さらに寄るためにクロップ機能を使い900mm相当で撮りました。
小林稔先生のコメント
後ろのマシンが画面から切れていたので、前のマシンも同じように少しトリミングしたという判断は「アリ」ですが、前のマシンは車体が全部入っていても構わないです。2台の車の位置関係と縁石のブレ具合が良いと思います。

小林稔先生の総評
みなさん、よく考えて撮っていますね。やみくもに撮っている方はいませんでした。作品1枚1枚から何を狙い、何を撮りたいか伝わってきます。基本を押さえたうえで、その先を考えた作品を撮れています。今日の経験を今後の撮影に生かしてください。
〈協力〉FIA WEC、富士スピードウェイ
〈協賛〉株式会社ワイドトレード、Nextorage株式会社