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独占インタビュー! ライカギャラリー代表兼アートディレクターが語るライカの100周年と未来

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
ライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクターのカリン・レーン=カウフマンさん。手にしている100周年記念写真集『100 Leica Stories』の制作にも関わった。

ライカギャラリー・インターナショナルの代表として、世界28か所のライカギャラリーの運営を統括するカリン・レーン=カウフマンさん。アートディレクターでもある彼女が「ライカI」誕生100周年記念イベント「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」のディレクションを担当した。しかしそれだけにとどまらず、世界12のライカギャラリーで順次開催されている写真展「In Conversation」のディレクション、100周年記念特別ドキュメンタリー映画「Leica, A Century of Vision」のキュレーションも担当し、100周年記念写真集『100 Leica Stories』も手がけた。

ドバイを皮切りにミラノ、ニューヨーク、ドイツ・ウェッツラー、上海の5都市を巡ってきた100周年記念イベント。最後の開催地となる東京で何を感じているのか、短い時間ながら直接お話を伺うことができたので、その様子をお伝えしよう。

都市ごとに違う形で開催した「ライカI」誕生100周年記念イベント

── 「ライカI」誕生100周年を記念した写真展やイベントの構成・ディレクションをするにあたって、この100年間のライカや写真の歴史について振り返ったことと思います。それを通して、どのような感想や印象を持たれましたか?

今回のイベントでは、非常に多岐に渡り関わっています。ワクワクすることもあれば、大変なこともたくさんありました。ライカにはカメラやレンズだけではなく、プリントのアーカイブも非常にたくさんあります。その膨大なアーカイブの中からアイコニックな写真を見つけるというのが、本当に大変な作業でした。

著名な写真家のものだけではなく、若手の作品もたくさんあります。名前はまだあまり知られていないけれど作品は素晴らしい方もいらっしゃいます。多くの作品の中からユニークなストーリー、何かを物語っているような印象的な画像を見つけていくのは大変でしたが、ワクワクする作業でもありました。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
ライカの写真文化を担うカリン・レーン=カウフマンさん。どの質問にも真摯に答えてくれた。

── これまでドバイ、ミラノ、ニューヨーク、ウェッツラー、上海、東京の各都市で「ライカI」誕生100周年記念イベントが開催されてきました。

このイベントを6つの都市で開催してきましたが、国によってイベントの性質をそれぞれ変えています。例えばドバイは「ハイエンドラグジュアリー」をテーマに、オペラのステージでディナーをするといった展示会でした。より小さなコミュニティに向けたハイエンドなイベントにしました。

それと対照的なのがニューヨークです。会場は市内のミート・パッキング・ディストリクトというエリアで、ここにはライカのショップやギャラリーもあります。ストリートで何千人、何百人という人が参加できる、そんなオープンなイベントにしました。

── それぞれどのような反応があったでしょうか? また、それに対してどのような感想を持たれましたか?

どの都市でもライカに対する愛情に満ち溢れていて、世界中に広がったライカのコミュニティのあたたかさに非常に胸を打たれました。私たちは常に「ドイツから世界に向けて」ということをコンセプトにしています。ウェッツラーの本社には地球儀があって、ウェッツラーが赤いドットで示されているのはご存知ですよね。

これだけの皆さんが「ライカが好き」と言ってくださる理由は、1つには、ライカの本社がきちんとそれぞれのコミュニティをケアしていること。そして我々にとってユーザーの皆さんが大事なんですよ、いつもありがとうございますという風に感謝を常に伝えてきたこと。こうしたことからコミュニティが広がってるのだと思います。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
好評のうちに終了した「ライカI」誕生100周年記念イベント「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」東京会場の様子。

── 6つの開催地はどのように選ばれたのでしょうか? その中でドバイを最初の地に、東京を最後の地に選んだ理由をお聞かせください。

真夏のドバイは気温が45〜50℃くらいになりますから、夏にイベントをやるのはちょっと暑すぎます。それで、1月のドバイから始めようということになりました。あとの順番はスタッフと話して決めたのですが、ウェッツラーをニューヨークと上海の間に入れるのは、割と早い時期にすんなりと決まりました。

東京を最後の場所にしたのは、2005年に世界で初めてオープンしたライカ直営ストアが東京だということや、日本とライカとのこれまでの歴史や関係性から決まりました。始まりと最後はインパクトがあるものですけれど、私にとってはすべての都市のすべてのイベントが、それぞれ思い出深いものです。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」東京会場では、カリン・レーン=カウフマンさんがキュレーションした100点の写真作品が、プロジェクション映像として投影された。

過去の作品から得ることができるものとは?

── 世界中にある約30のライカギャラリーから選ばれた12のギャラリーで開催されている写真展「In Conversation」についてお聞かせください。

まず写真展「In Conversation」の目的ですが、過去の100年間を振り返るだけでなく、今活躍している写真家にもスポットを当てる。しかも今までに世に出ていないシリーズを発表するということを一つの目的にしています。もちろん「ライカ・ホール・オブ・フェイム・アワード」を受賞した名だたる写真家の作品も展示しますが、アイコニックな写真家の作品と今の写真家で、しかも全く公開されたことのないシリーズを組み合わせて展示するというのがコンセプトです。12のギャラリーを選んだ理由は、1年 (12か月) をかけて毎月100周年記念のオープニングをそれぞれのギャラリーでやっていくことにしたからなんです。

In Conversation: A Photographic Dialogue Between Elliott Erwitt and John Sypal
ライカギャラリー表参道では、エリオット・アーウィット&ジョン・サイパル写真展「In Conversation: A Photographic Dialogue Between Elliott Erwitt and John Sypal」を2025年11月30日まで開催中。こちらの写真展もカリン・レーン=カウフマンさんがディレクションしている。

── この写真展シリーズを通じて伝えたいメッセージ、この写真展が今後の写真文化に与える影響や期待などについてはどのようにお考えですか?

アイコニックな写真家から学べることはたくさんあると思います。写真は未来に向けてどんどん変わっていく部分もありますが、変わらない基礎となる部分は、アイコニックな写真家の昔の作品から得ることができるのではないでしょうか。

例えばエリオット・アーウィットの作品は、何時間もベストな瞬間が訪れるのを待ってシャッターを切るという撮り方だったと思います。その瞬間を捉えるためには、ただ単にシャッターを押すだけではなく、カメラの絞りやシャッター速度などをコントロールしながら、最適に撮るにはどうすればいいのかということを非常によく理解していました。そこから生まれた芸術性だったのではないでしょうか。

しかもフィルムは36枚しか撮れませんから、その瞬間に集中しないといい写真が撮れないわけです。デジタルカメラで何百枚も撮るのは簡単なことかもしれませんが、家に戻った後に膨大な作品の中から選ばなければいけない。その労力も大変ですが、たった1枚、集中して撮った写真の方がより多くのことを語っている場合もあるのです。若い写真家には、今この瞬間にどれだけ意識を集中できるのかということを昔の作品から学んで欲しいのです。

In Conversation: A Photographic Dialogue Between Elliott Erwitt and John Sypal
エリオット・アーウィット&ジョン・サイパル写真展「In Conversation: A Photographic Dialogue Between Elliott Erwitt and John Sypal」より。
カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」東京会場のプレスカンファレンスにて、「In Conversation」出展写真家のジョン・サイパルさん (右) とカリン・レーン=カウフマンさん。

ライカギャラリー誕生50周年記念展も計画中

── 来年、ライカギャラリーが誕生から50周年を迎えるとお聞きました。50周年に関連した写真展やイベントなどは予定されているのでしょうか?

もちろん、50周年を記念した特別な展示を計画しています。現在、それぞれのギャラリーに3人の写真家を推薦してくださいと伝えたところ、およそ20か国のギャラリーから、トータルで50人の写真家が集まりました。それぞれのギャラリーで以前展示したことのある写真家の中から、ライカらしさが感じられる3人です。女性や若い方もいますし、著名な方もいらっしゃいます。

次にその50人に「あなたにとってライカモーメント (ライカらしい瞬間) はどんな瞬間でしたか? それを表している写真を3枚送ってください」と伝えています。その中から1枚選んで展示する予定です。写真展はウェッツラーにある本社で、来年の6月に開催されます。なので、50周年を記念した写真展は、さまざまな写真家による50枚のライカらしい瞬間を切り取った写真の展示になります。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
ライカギャラリー表参道は、ライカ表参道店の2階にある。

写真に込められた “ライカらしさ” を伝えていきたい

── 最後に、今後のライカギャラリーの展望や新たな文化事業の予定があれば、教えてください。

ライカギャラリーは、アマチュアの写真は展示しないという印象を持たれているようですが、そんなことはありません。ほかのコマーシャルギャラリーと同じように、著名な写真家の作品を販売するというのも大事な仕事ですし、才能のある若手写真家の作品を展示して売り出していくというのも大事なことだと捉えています。

ライカギャラリーとしてまず1つは、現在の芸術レベルを保持することを目的にしています。「ライカギャラリーは、芸術レベルが高い」という認知を高めることだと思っています。そのためにも、世界的なフォトフェスティバルやアートフェアに出展していきます。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」東京会場のオープニングレセプションでスピーチするカリン・レーン=カウフマンさん。

今後の私の個人的な野望としては、ライカで撮った作品と他社のカメラで撮った作品を一緒に展示して「やっぱりライカは違う」と気づいて欲しいと思っています。ライカのカメラに “ライカらしさ” を込めることはよくありますが、最終的に出力された作品の中にある “ライカらしさ” をもっと伝えていければと思いますし、そこにはまだまだ伸びしろがあると考えています。

ライカのカメラは、ライカらしい個性やスピリッツ、雰囲気を写真の中に込められると思うのです。ほかのカメラでは味わえないけど、ライカだったらなるほどこうなるんだという違いを感じてもらえたらうれしいです。

来年は、シカゴにアメリカで4つ目のライカギャラリーがオープンするのと、上海には中国で初めてとなる大規模なライカギャラリーがオープンする予定です。また、「パーフェクトデイズ」などの映画作品で知られるヴィム・ヴェンダースさんと奥さんで写真家のドナータ・ヴェンダースさんの作品を、ウェッツラーのミュージアムで展示する予定です。ご夫婦の作品が一緒に展示されるのは初めてのことです。

ほかにもまだ計画段階ですが、ヒューストンとストックホルムにもライカギャラリーをオープンできたらいいなと考えています。

── 本日はお忙しいところありがとうございました。

記念イベントはもちろんですが、100周年の記念写真集『100 Leica Stories』の出版にも関わりましたので、こちらもぜひ楽しんでください。

カリン・レーン=カウフマンさんインタビュー
写真集『100 Leica Stories』