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イゴール選手はカメラマン顔負け! チームカメラマン・沙倉しずかさんが明かす2025シーズンのレース撮影裏話

モデル、SUPER GT「ANEST IWATA Racing」チームカメラマンの “二刀流” で活躍中の沙倉しずかさん。チームカメラマンとしては2年目となった2025年の撮影活動を振り返っていただきました。

沙倉しずか

まずは、よくある質問に答えます!

こんにちは! モデルなどのお仕事をしながら、サーキットではSUPER GTで「ANEST IWATA Racing」のチームカメラマンとしても活動している沙倉しずかです。

沙倉しずか

ときどき、「レースアンバサダーをやっていたときと今では、どちらが大変ですか?」と聞かれることがあります。レースアンバサダーは、寒くても暑くても大雨の中でもコスチュームの高いヒールをはいて、足が痛くても、いつも笑顔でいなければいけないのが大変でした。

一方、チームカメラマンはスニーカーとはいえ、どんな天気でも重い撮影機材を持って休みなく歩き回ります。私は納品に時間がかかることが多く、レース期間中はほとんど眠れないこともあり、どちらも違った大変さがあります。

また、「撮るのと撮られるのではどちらが好きですか?」と聞かれることもあります。シンプルに写真を撮る・撮られるという意味であれば、撮る方が好きです。「仕事としてどちらが好きか」という意味であれば、撮る側は経験が浅く不安が大きいのと、もともと表に出るのが好きでこの仕事をしてきたので、撮られる方が好きと言えるかな、と思います。

そんな不安いっぱいのチームカメラマンですが、無事に2年目を終えることができ、ホッとしています。 2025年も「ANEST IWATA Racing」でたくさんの経験をさせていただきました。

チームにとって初めての表彰台を撮るプレッシャー

沙倉しずか

そのひとつが開幕戦での初の2位表彰台です。このことは前回の記事でも少し触れましたが、ずっと応援してきたチームだからこそ、心からうれしく、ゴール前にはいろいろな感情が込み上げてきました。

だけど、「こんなシャッターチャンスを逃すわけにはいけない」 というプレッシャーによって、すぐ現実に引き戻されます。チェッカーを受けた歓喜の瞬間、ピットに戻ってくるドライバーさんとそれを迎えるチームの人たち、そして一度も撮ったことのない表彰式。

これから目の前で起こるであろうこれらの瞬間を、しっかりカメラに収めなければいけないという緊張感。「ピットでの熱い応援はどう撮れば伝わるかな?」「ドライバーさんが対面する瞬間の表情はちゃんと撮れるかな?」「表彰式では何mmのレンズが必要かな?」など、いろいろなことが頭の中をぐるぐるしていました。

サーキットで起こるほとんどのことは一瞬で、やり直しがききません。ピントが狙いと違う人に合ってしまうなど、何度も悔しい思いをしましたが、この場面ではなんとか収めることができました。

写真のバリエーションを増やすことを意識した一年

沙倉しずか

2025年の目標の一つに「写真のバリエーションを増やすこと」がありました。最初の頃は、撮れ高の保険としてシャッタースピードを速くし、マシンをガチガチに止めて撮ったり、イゴール選手でも安田選手でも使えるように、フロントガラスに表示されるイニシャル表示が見えないバックショットを多めに撮っていました。

そこから1年かけて少しずつ、レンズの広角側での撮影や、テレコンを使った撮影、スローシャッターでの撮影、手持ちフィルターを使った撮影などを試していきました。すると、苦手意識のあったマシン撮りが、いつの間にか撮るのが楽しいと感じられるようになっていました。

最低限のバリエーションは増やせたので、あとは実際にSNSで写真を使ってくれる人の意見を聞いてみたいと思い、第7戦のオートポリスで、イゴール・フラガ選手に「どんなマシンの写真が好きですか?」と聞いてみました。

すると「マシンだけじゃなくて、背景が見えている写真、流れてる写真が好き」とのことで、自身のスマホの中から、広角気味のスローシャッターで背景がキレイに流れている写真や、何台か連なっている中でほかのマシンだけが流れているスピード感のある写真を見せてくれました。

沙倉しずか

イゴール選手といえば、ドライビングシミュレーターゲーム「グランツーリスモ」の世界チャンピオンでもあります。「グランツーリスモ」にはフォトモードという機能があって、ゲームに登場するサーキットやフォトスポットで撮影ができるそうです。どの場所で撮ればどういう写真が撮れるというのが、イゴール選手の頭に入っているようで、オススメの撮影ポイントも教えてくれました。もっと早く聞いておけばよかったと思いました。

イゴール選手は流し撮りも上手です。レーシングドライバーの方は動体視力が普通の人より優れているはずなので納得なのですが、少しの時間カメラを持っただけで決めてしまうので恐ろしいです。

沙倉しずか
カメラを構えてマシンを撮影するイゴール選手。

各地のサーキットでたくさんの経験ができた

沙倉しずか

皆さんはマシンを撮るのに好きなサーキットはありますか? 私はオートポリス (大分県) が好きです。理由は、メディア用カメラホールにカメラを突っ込んで撮るというスタイルの場所が少なく、フェンスがない場所を比較的自由に動けるので、いろいろな撮り方を試せてワクワクするからです。

富士スピードウェイ (静岡県) などでマシン撮りをする方なら一度は経験があると思うのですが、空いているメディア用のカメラホールを利用して撮っていると、メディアのカメラマンが前に入ってきて「じゃまだなぁ」と思うことってありませんか?

いざ自分がメディア側になってみると、無数のレンズが向いている間に入るのはなかなか怖いもので、申し訳なさからカメラホールの前を通るときは、少し屈んでスピードを上げて歩くようにしています。どうかご容赦ください… (苦笑)。

とはいえ、どのサーキットでも時間との勝負ですよね。毎回「あぁ…今日も時間が足りない! あと1時間長く走ってほしいー!」と焦りながら撮っています。限られた時間の中でしっかり決めている方々を本当に尊敬します。

各サーキットには、メディア用カメラホールや通用口の場所を記した地図が用意されているのですが、簡略化されすぎていて、知らないと辿り着けないような場所もあります。そのたびにほかのメディアの方に連れて行ってもらっていますが、まだ見つけられていない通用口がいくつもあり、サーキットは奥が深いです。

沙倉しずか

また、鈴鹿サーキット (三重県) とツインリンクもてぎ (栃木県) は、3年ほどメディア経験がないとフェンスの向こう側 (コースサイド) に入ることすらできず、メディア登録1年目の私は撮影にとても苦戦しました…。

メディアの世界は、年配の大御所カメラマンさんがたくさんいて、すぐ怒鳴られるような怖いところだと勝手に思っていたのですが (ごめんなさい)、実際は想像よりとても温かい場所でした。ポンコツな私を気にかけてくれたり、アドバイスをくれたり、撮影ポイントを教えてくれたり、メディアの皆さんには何度も助けられ、本当に感謝しています。

奥深いサーキット撮影での挑戦は続く

サーキットで写真を撮っていると、自分の写真に自信が持てないこともよくあります。夜中に睡魔と戦いながらレタッチした写真を朝に見直すと「どうしてこんな色にしてしまったんだろう…」と思うようなことも多いです。

また、今回の記事を書くにあたって今までの写真を見返してみると「こんな下手な写真をチームに共有していたのか…」と恥ずかしくなるような写真もありました。CAPAの「流し撮りGP」などを見ては、「こういう写真が撮れる人こそチームカメラマンになった方がいいよなぁ」と思うこともあります。

それでも、自分が撮った写真を使ってもらえたときは、少しの自信と大きなやりがいを感じることができ、疲れも吹っ飛びます! 今ある恵まれた環境や周りの方々に感謝し、腕を磨いていきたいと思います。

沙倉しずか