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アフリカ女性のエンパワーメントを加速させる“フェムテック”の可能性を探る

テクノロジーを用いて女性特有の悩みを解決する商品やサービスが“フェムテック”と呼ばれて世界で注目を集めています。アメリカのリサーチファームFrost & Sullivanは、2018年の調査で、その市場は2025年までに5兆円の市場規模になると予測。しかし、その一方で、アフリカ諸国では、女性の生理用品でさえ満足に普及していません。だからこそエチオピアの現状に詳しい太田みなみ氏は、現地女性の初歩的な悩みに応えられる月経カップや布ナプキン、吸水ショーツに注目しています。政府開発援助(ODA)をはじめとするジェンダー支援にも関わる太田氏に、エチオピアにおける生理の問題を伺いながら、アフリカ市場での“フェムテック”の可能性について探ります。

 

お話を聞いた人

太田みなみ氏

グランドスタッフとして勤務していた航空会社を、出産を機に退職。兼ねてから関心を持っていた国際協力の世界で仕事をしたいと、大学院にて国際協力学を専攻し、エチオピアをフィールドに「初等教育中退後の学習機会の検討」をテーマに研究。修士号を取得後、アイ・シー・ネットに入社。現在は、ビジネスコンサルティング事業部に所属し、民間企業の海外進出支援業務に従事しながら、ODAをはじめとするジェンダー支援にも関わる。

サブサハラ・アフリカの女性人口は約5.5億人、今後はさらに増加

 

開発途上国の中でも、特に開発が遅れているとされる後発開発途上国(LDC)は、2021年8月現在、全世界に46か国あります。そのうちの33か国が、アフリカのサハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ地域の国々です。世界の面積の18%を占めるにも関わらず、サブサハラ・アフリカ全体のGDPは、世界の2%程度。紛争も絶えず、貧困や飢餓に苦しめられ、保険医療や教育などさまざまな分野で課題を抱えています。国連の世界人口推計(2019年版)によれば、今後、十数年間の人口増加の大部分は、サブサハラ・アフリカ地域で生じ、2019〜2050年の間に、人口が11億人増加し、世界人口の増加の約半分は、この地域が占めるようになると予測されています。

 

アフリカの人口増加のグラフ(国際連合経済社会局:世界人口統計2019版)

 

一方で、2017〜2019年には、GDP成長率が3%前後の安定した成長を見せるようになり、2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたものの、2021年には、3.3%に回復する見込みです。人口増加や経済成長の点から見て有望な市場であることは言うまでもありません。新興国でスマートフォンが急速に普及したように、一気に最先端技術を活用する社会に進化する「リープフロッグ現象」が起こる潜在力の高さも指摘されています。多くの課題を抱えながらも市場としての可能性を秘めるアフリカ市場で、太田氏が今、注目しているのが、先進国を中心に世界で広がりを見せる“フェムテック”関連製品です。

 

「フェムテックとは、FemaleとTechnologyを組み合わせた造語です。月経、不妊、妊娠産後ケア、更年期など、女性の健康に関わる課題をテクノロジーを用いて解決する製品やサービスが総じて“フェムテック”と呼ばれています。その中でも生理に関する製品のニーズが、アフリカにあると考えています。使い捨てナプキンの使用が一般的ではないアフリカなどの途上国では、生理中の女性の多くが、自作の布ナプキンやボロ布などを利用して対処しています。その点で、布ナプキンや、吸水ショーツ、月経カップといった、きちんと洗浄すれば何度も使える製品は、現地の生活との親和性も高いはずです」

 

使い捨ての生理用品に慣れた日本人にとっては、毎回洗浄する手間を面倒に感じますが、生理用品が流通せず、経済力も乏しいアフリカでは、生理のたびに購入する必要がないサスティナブルな製品の方が、需要があると太田氏は言います。生理は、基本的には初潮を迎えて閉経するまで、ほとんどの女性に毎月訪れるものです。再利用可能な生理用品は、ゴミ処理システムも整備されていないアフリカで取り入れやすい。その上、サブサハラ・アフリカの女性人口は約5.5億人です。その65%が生理期間にあたる10〜55歳であることから、潜在市場の大きさは、容易に理解できるでしょう。

 

さまざまな課題を抱えるエチオピアの生理事情

 

ここからは、太田氏が大学院時代から研究フィールドにしていたエチオピアを例に、より具体的に女性の生理を取り巻く現状について紹介します。アフリカでは、生理用品へのアクセスが限られていますが、エチオピアでも生理用ナプキンを購入できる女性は36%程度です。しかも人口の84%が農村部に住んでいるにもかかわらず、生理用品の流通は、約80%が都市部にとどまっています。そのため、やはりボロ布を当てて、洗浄して使い回していますが、適切に洗わなかったり、乾かさなかったりして、衛生状態が悪く、感染症のリスクにさらされている女性も多いのが現状。しかし、不便を感じているはずの女性に、生理用品を供給すればいいという単純な問題ではないようです。

 

エチオピアの都市部の風景

 

伝統的な文化・慣習が、生理を“語れない”タブーに

 

「生理が“不浄なもの”“けがれたもの”という認識が強いので、生理中は宗教行事に参加できず、一部の地域では、食事を準備したり、水を汲むことさえ許されません。初潮を迎えた女性は、結婚する準備ができているという解釈があり、それが児童婚につながってしまう恐れもあります。若い女性の場合は、生理が訪れれば、妊娠できると思われてしまうので、“隠したい”“知られたくない”という気持ちが大きいんです」

 

機能性の高い生理用品が普及していないため、経血が漏れて、周囲に知られてしまうことも多く、性交渉をしたのではないか、妊娠や中絶をしたのではないかと疑われる場合もあります。学校でからかわれて、生理中に学校を休みがちになり、就学の妨げになることも多くあります。文化や慣習の影響で誤った解釈が今も根強く残り、自分たちが生理に関して、どんなことに困っていて、どんな商品があれば、快適に過ごせるのかというようなことを、オープンに語り合ったり発信したりできるような段階ではないのです。

 

エチオピアの農村部の風景

 

制度化されない性教育も影響し、深刻な知識不足に

 

こうした誤解が、いまだに根強い背景には、性教育が全く行われていないという教育の問題も大きいと言います。エチオピアでは、8年間の初等教育が義務教育になっていますが、保健教育のようなものはなく、算数・理科・社会・英語・アムハラ語に、エステティックと呼ばれる美術・音楽・体育の科目があるのみ。性教育が制度化されていません。

 

「そもそも生理について何も聞かされたことがない、何の情報も受け取ったことがない。どうして出血しているのかもわからない、という女性が5割以上います。経血があるので、布を当てるという対処法は知っていますが、体にどういう変化が起こって出血しているのか、どこまでが正常で、どんな異常が発生したら通院しなければならないのかということは、ほとんど理解されていません」

 

 

小学校で学ぶ女子生徒

 

初潮が訪れて初めて生理という現象の存在を知る女性が7割もおり、布などで作った再利用可能な生理用品を、水と石鹸で洗う必要があると理解している女性も4割程度です。せめて、母親などから正しい知識が伝えられればいいのですが、母親も同様の教育しか受けていないため、家庭内での知識伝達にも限界があります。「性教育は、掘り下げていくと自分を大事にすることにつながる」と太田氏は言いますが、生理に対する正しい理解を浸透させ適切に対処できるようにすることは、自分の体を大切にする第一歩になるのではないでしょうか。

 

 

データからは見えない、エチオピアのジェンダー課題

 

生理に関する状況を見ただけでも課題が多いエチオピアですが、世界経済フォーラムの出しているジェンダーギャップ指数は、156か国中97位(2021年)。日本が120位であることを考えれば、さほど低いわけではありません。エチオピアでは比較的女性の政治参画が進んでいることが順位を押し上げているのですが、政治の世界で活躍しているような女性の多くはアメリカに留学できるような富裕層の女性。貧困層の女性が抱える生理などの課題を実感しているわけではありません。エチオピアでは、都市部と農村部の経済格差が大きく、州ごとに民族と言語、文化が異なるので、さまざまな違いや格差と、ジェンダー課題が複雑に絡み合っています。制度面の整理は重要ですが、それだけではアプローチをしにくい課題も多いのです。

 

「エチオピアの教育は、初等教育8年、前期中等教育が2年、後期中等教育が2年です。初等教育の就学率は、男女での差はほとんどありません。しかし、中等教育以降、段々と差が広がっていきます。日本のように自動進級ではなくて、進級テストを実施することもあり、進級テストに落ちたら、男子生徒は、もう一度チャレンジしますが、女子生徒は辞めてしまいます。女の子が高学歴になったところで、就ける職がないと周囲から言われてしまうこともあります。また、経済成長率は、GDPベースで9%程度の伸び率。失業率も2%と低く、男女差も女性が若干高い程度であまりないのですが、女性が賃金を得て働ける場が国内に多くないため、女性は、中東にハウスメイドとして出稼ぎに行くのも比較的よくある進路です。国内で働くよりも収入が見込めるので、初等教育を離脱する理由にもなっています」

 

水汲みに向かう女性

 

女性特有の課題が未解決だからこそ大きい“フェムテック”の可能性

 

エチオピアの例からもわかるように、生理の問題一つ取っても、さまざまな問題が絡み合っています。当然、先進国の女性を中心に広がっているような“フェムテック”製品の全てが、アフリカ女性のニーズに適したものではないでしょう。しかし、これまでタブー視されてきた女性の「性」の課題に、正面から取り組んでいくという“フェムテック”の本質は、アフリカ女性の現状を変えるきっかけになるのではないかと太田氏は期待を寄せています。“フェムテック”は、単にテクノロジーを用いた便利な製品を流通させるためのカテゴリーというだけではなく、製品を通じて、女性特有の悩みや課題を可視化し、市場を拡大している側面があるからです。

 

「当然、アフリカ諸国に生理関連の商品が、現地の女性の手に届く価格帯で、十分に供給されれば、衛生的に過ごせますし、生理中、学校に行けず、勉強についていけなくなってドロップアウトしてしまうこともなくなります。就学や就業の機会を確保できるというダイレクトな恩恵はもちろんありますが、それ以外にも、生理用品などを通して、女性が自分たちの身体や悩みについて語りやすい状況が生まれたり、製造や流通、販売の各過程で、女性のエンパワーメントになるような能力強化、生計向上などにもつながればいいと思っています」

 

育児をしながら縫製業で働く女性

 

サスティナブルな月経カップや布ナプキンを参入の足がかりに

 

企業が参入する際に、「現地で製造して日本で売る」場合は、縫製業が盛んなエチオピアなら縫製技術などの現地のスキルを活用し、布ナプキンや吸水ショーツの製造が検討できます。製品が女性向けのものになれば、製造現場で女性が雇用されるチャンスが増え、縫製技術を学ぶ機会にもなるでしょう。「日本や他の国で製造し、現地で売る」場合には、シリコーン製の月経カップがコストを下げやすいため、現地女性が購入できる価格で提供できる可能性があります。しかし、それだけでなく、販売流通の面でも女性を関与させれば、生理用品を衛生的に使う方法や、生理に対する知識を、売る側、買う側の両面から補い合うことができるはずです。だからこそ、「製造、流通、販売と全て現地で行う」ことも視野に、製造だけでなく、販売や流通の一部でもいいから、現地女性を関与させてほしいと太田氏は言います。

 

「“フェムテック”製品を購入する女性たちは、SDGsなどの取り組みにも関心がある層だと思うので、製品を通じて、現地女性に貢献できるという面をうまくPRに使ってもらえれば、企業にとってもメリットのある進め方ができます。民間企業の利益を生み出しながら、これまで支援する以外の方法がなかったジェンダーや人権などの分野にアプローチし、現地の女性にも、日本の女性にも裨益できる取り組みになれば理想的です」

 

“フェムテック”は、製品の製造から販売に至る一連の過程に女性たちを巻き込み、利益をあげながら、女性の「性」に関する健康課題だけでなく、ジェンダーや教育などの様々な課題にアプローチできる、新しい市場です。アフリカ市場での“フェムテック”の可能性は、女性特有の課題が未解決のまま、山積されているからこそ大きいと言えるのではないでしょうか。