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日本初の外国人向け進学塾の経営者が説く、「外国人材」にまつわる課題

2022/2/10

少子高齢化や人口減少、入管法改正などを背景に、企業や自治体を中心に「外国人材」の起用に注目が集まっています。しかし、実際は「異文化理解の方法がよく分からない」「本当にうまくいくのか不安」といった悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか? そこで今回は、外国にルーツに持つ子どもたちへの日本語教育を行う株式会社NIHONGOの永野将司さんにインタビュー。在日外国人をめぐる現状の課題や、異文化理解のために大切なことをお聞きしました。

 

永野将司株式会社NIHONGO代表取締役。大学在学中にダブルスクールで日本語教師資格を取得。これまでに国内外の大学・日本語学校などで1,000人以上の外国人に日本語を教えてきた。東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2017」ファイナリストに選出されたのを機に、2018年にNIHONGOを創業。日本初となる外国にルーツを持つ子ども向けの進学塾をスタートし、現在は4校にまで拡大。

 

日本語教育の不足が、日本に多くの「言語難民」を生み出している

 

――はじめに、NIHONGOを立ち上げた経緯を教えていただけますか?

 

永野 もともと言語教育自体に興味があったというよりは、ずっと海外に住みたいと思っていて、どの国でも生きていけるように日本語教師の資格を取ったんです。大学在学中から日本語学校の講師として働き始めたのですが、当時はこんなに長く続けることになるとは思ってもいませんでした(笑)。

 

2011年以降、徐々に在日外国人の犯罪や不法滞在がニュースで話題になることが増え、実際に私が勤めていた日本語学校でも失踪者が出たり、頻繁に警察に呼ばれたりする状況が続いていました。体力・メンタルともにキツかったのですが、同時に「本当に彼らだけが悪いのだろうか?」「もっと日本語教育にできることがあるんじゃないだろうか?」と考えるようになりました。

 

大きな転機となったのは、電車の広告でたまたま見つけた、東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2017」です。「日本に住む全ての外国人に、安価で良質な日本語教育を提供することで、言語難民のいない社会を実現する」という思いを込めて応募したところ、応募総数1360名の中からファイナリスト10名に選んでいただきました。「これはもう逃げられないな」と覚悟を決めて(笑)、NIHONGOを起業しました。

 

――「言語難民」という言葉が印象的なのですが、実際に教育現場では何が起きているのでしょうか?

 

永野 外国にルーツを持つ子どもたちの大半が公立学校に行くのですが、端的にいえば1時間目から5時間目まで何も分からず、何もできずにただ座っている状態が毎日続いているのです。圧倒的にサポートが足りておらず、中には日本語が読めないことで知能テストのスコアが悪く、結果として特別支援学級で授業を受けさせる学校もあります。日本人の高校進学率は90%以上ですが、外国にルーツを持つ子どもたちは半分以下だと言われています(正式な統計はない)。さらに、進学できても留年してしまったり、退学してしまったりするケースも少なくありません。すると、日本では低賃金労働をせざるを得ない場合が多いので、負のサイクルから抜け出せなくなってしまいます。

 

――なぜ、日本語教育がうまくいかないのでしょうか?

 

永野 学校の先生などにお話を伺うと、外国人がゼロから日本語を習得するのに1年半〜2年かかると言われているのですが、私の経験からすると3カ月くらい集中的にトレーニングすれば日常生活に困らないくらいの日本語は習得できます。そこまで時間がかかってしまう背景には教育現場における日本語教育のノウハウの欠如や、公平性の観点などさまざまな要因があります。外国にルーツを持つ子どもたちの1〜2学年分の貴重な時間は、日本語を習得できていないことが原因で失われてしまっている現実があります。

 

――お話しいただいた教育現場の課題に対して、NIHONGOではどのような取り組みをしているのでしょうか?

 

永野 私は「トレボルNIHONGO教室」という学習教室を運営しているのですが、2020年に横浜市の公立中学校と協定を結び、生徒がトレボルで学んだ時間を学校の出席時間として扱うことができるようにしました。実際にベトナムから来日した中3の生徒がほとんど日本語を理解できない状態から1年間トレボルで学び、最終的には第一志望の高校に進学することができました。全国でも前例のない取り組みだったので、実現まで数々の壁を乗り越えなくてはならなかったのですが、笑顔で巣立っていく生徒の姿を見て、やって良かったと心から思いましたし、やはり言葉は武器になるのだと改めて認識させられました。

 

「日本は外国人に選ばれなくなる」という危機感を持つべき

 

――近年、「外国人材」への期待が高まっている一方で、異文化理解やコミュニケーションに対する不安を感じている方も多いと言われています。日本語教育の充実が、そういった課題の解決策の一つになりそうですね。

 

永野 そもそも、私は「外国人材」と括ること自体が間違いだと思っています。「外国人材はこう活用しよう」「○○人はこう対処すれば大丈夫です」みたいなノウハウをそのまま実践しても絶対にうまくいきません。なぜなら、一人ひとりのパーソナリティと向き合っていないからです。逆の立場で考えてみてください。海外で「日本人はこうだから」と決めつけられて、自分の個性や内面を無視されたら嫌ですよね?

 

――確かに。一括りにすること自体が外国人への理解を妨げているのかもしれません。

 

永野 それから、このままでは日本を選んでもらえなくなるという危機感もあります。実際、韓国や中国をはじめとするアジア諸国の平均賃金は上がってきていますし、例えばエンジニアでもアメリカと日本では給料に大きな差がありますよね。治安の良さなど日本が誇れる部分もありますが、外国人から見た待遇面のメリットは徐々に失われつつあります。「外国人は安く雇える」というような認識は、グローバル水準で考えるともう通用しなくなっていると思います。

 

――なるほど、では外国人を雇いたい企業はどのようなことを心掛けるべきでしょうか?

 

永野 あまり深く考える必要はないと思うんです。日本人が働きやすい職場は外国人も働きやすいし、日本人が辞めていく職場は外国人だって辞めていきます。同じ人間ですから、外国人だからといって何かを疎かにしたり、少し待遇を悪くしても大丈夫と考えているなら、その認識から改めるべきです。

 

――日本人にとっても外国人にとっても働きたくなる環境や福利厚生を充実させることが大事なのですね。

 

永野 私の知り合いがいる会社に、給料自体は高くないのですが、社長の奥さんがご飯を作ってくれることが好評で、多くの外国人が働いている会社もあります。福利厚生という言葉が分かりやすいと思うのですが、イメージとしてはもう少し温かいコミュニケーションが求められているのかなと感じます。ただ、それも人それぞれなので、やっぱり一番大切なのはフィードバックの機会を作ることだと思います。外国人にとって働きやすい環境を作りたいなら、今働いている外国人に話を聞くべきですよね。教育現場でも起きていることなのですが、相手からのフィードバックをもらわないので、取り組みが合っているのか合っていないのかも分からない。良かれと思ってやっていることでも、もしかするとすれ違いやエラーが積み重なっている可能性もあるので、もったいないですよね。

 

海外の人材だけでなく、今日本にいる日系人にも目を向けてみる

 

――ここまで、「外国人材」をめぐる課題をいろいろとお話しいただきましたが、外国人が日本で活躍することのメリットについても教えていただけますでしょうか?

 

永野 公式な統計はないので個人的な感覚ですが、低賃金労働や生活保護を受けている方の中に、実は日系人が多いと感じます。僕はそこに日本にとっての大きなチャンスがあると思っています。なぜなら、日系人にはビザの期限がない場合が多いですし、ある程度は共通の文化を持っていることが多いです。今の時代、英語を話せる人は少なくありませんが、日系人の場合はスペイン語やポルトガル語などが母語なので、スタッフとして迎えることができれば新しいビジネスチャンスが広がるはずです。その人たちが、日本語を話せないという理由だけで社会から孤立しているのです。それこそ数カ月間の先行投資で日本語を学習させて雇用し、「いい会社だね」と思ってもらえたら、その子どもやコミュニティの人たちも働いてくれるかもしれません。

 

今は海外から人材をどう呼び込むか? にばかりフォーカスが当たっていますが、今日本にいる外国人にももっと目を向ける企業が増えると良いなと思っています。例えば、日系人の親を雇用し、その子どもの教育を福利厚生で支援する企業があったら、人手不足は一気に解消するのではないかと思うんです。

 

――ありがとうございます。今回、永野さんの話をお聞きして、私たちには「外国人材」に対して多くの思い込みがあるのだと気づかされました。こうした思い込みを少しずつ解消していくことが大切だと思うのですが、すぐに始められることがあれば教えていただけますか?

 

永野 そうですね、日本人が行かないような在日外国人が通うディープなレストランに行ってみるのはどうでしょう? 特に都内であればさまざまな国の店がありますし、店員さんが片言の日本語しか話せないような場所もたくさんあります。そこで店員さんやお客さんのことを観察したり、コミュニケーションを取ったりすると、「実態」に近づくことができると思います。料理も美味しいですし、思い込みを捨てる第一歩としておすすめですよ。

 

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