経済成長が目覚ましく、勢いに乗っている東南アジア諸国。現在、日本の中古リサイクル品が、タイをはじめ東南アジアで人気になっています。自社でもリサイクルショップを運営し、かつ、現地の店にも商品を卸すリユースビジネスを展開するほか、企業の海外進出支援もするASE GROUPのCEOである出口皓太さんにインタビューをしました。
●出口皓太/大学卒業後、輸入機械商社に営業職で3年間勤務。その後退職し、ワーキングホリデービザでオーストラリアに渡った後、シンガポールへ。日系電機メーカーで約3年間勤務したのち、縁がありカンボジアへ。その後ASE GROUPを立ち上げCEOに就任。主にタイでのリユースビジネスと、東南アジアでの海外進出支援を担う。
「今後、成長していく」そう思わせてくれる国の勢いが魅力
――まずはASE GROUPを立ち上げた経緯を教えてください。もともと海外で働くことに関心があったのでしょうか?
出口 もともと関心があったわけではないのですが、一つの転機になったのが、19歳の夏休みに「何か思い切ったことをしてみたい」と、1カ月ほどニュージーランドにひとりで行ったことです。当時は英語を話せなかったのですが、それでも身振り手振りで伝えて笑顔でいれば、「面白い日本人がいる」と仲良くしてくれる人や、困ったときに助けてくれる人がいました。しかしこのときに強く感じたのは「言葉がわからない」ことの悔しさ。この経験をきっかけに、帰国後すぐに英会話スクールに通い始め、「いつか日本と海外をつなぐ仕事がしたい」と考えるようになりました。
大学卒業後に勤めた輸入機械商社では、営業職をしていました。先輩方にも恵まれ結果も出せていましたが、「長期で海外に行ってみたい」という気持ちが抑えきれなくなり、思い切って退職してオーストラリアにワーキングホリデービザを使って行きました。
その後、「アジアのハブであるシンガポールで仕事をしてみたい」と思いシンガポールへ渡ります。3年ほど会社に勤めた後、「そういえば東南アジアのほかの国をまわったことがないな」と思い、日本に帰国する前に1か月ほど東南アジアを旅することにしました。
カンボジアにふらりと行き、トゥクトゥクで田舎の砂利道を走っていたときのことです。学校があったのでトゥクトゥクを止めたら、子どもたちがわ~っと寄ってきて、あれよあれよという間に手を握られ教室に連れて行かれたんです。そしてあっという間に子どもたちは席に座って期待に満ちた目でこちらを見ている。だから「こんにちは」とか「ありがとう」とか簡単な日本語を教えてみたんです。そのときの子どもたちのキラキラした目を見ていたら、カンボジアの魅力にハマってしまいました。
そんなときにちょうど、カンボジアでコンサルティング会社立ち上げの依頼があったので、1年間限定で担当しました。そうこうしているうちに、「タイで何か事業をしてはどうか」というお話をいただいたんです。私に何ができるかなと考えてみたところ、「日本の会社に代わってタイで営業や買い付けなど、手となり足となる事業を創り出そう」と思い立ったのが、ASE GROUP誕生のきっかけです。
人気は日本の仏壇! ゼロから10年で成長産業となったリユースビジネス
――現在の主な仕事内容を教えてください。
出口 日本からの進出支援、リユース品(家具や日用品など)の輸入、中古衣類輸入、サイクル店経営、飲食店経営、タイ人パートナーとタイでのリユース品輸入通関、カンボジアでカシューナッツの栽培など、幅広く事業をしています。
――リユースビジネスにおける現状を教えてください。
出口 現在、雑貨や家具などリユース品のコンテナは、タイとフィリピンなどに日本から毎月300コンテナ以上が輸出されていますが、私としてはコンテナがまだまだ足りていないと感じています。
現に、コンテナをおろしているタイ人のオーナーからは「もっと欲しい」と言われているような状況で、かなりの成長産業だと感じています。タイ人の顧客は「価格が安い」「安心できる」「変わった商品を手に入れられる」といったさまざまな理由で日本のリユース品を好んでくれていますし、特にタイやカンボジアは親日の国であることも、受け入れられやすい要因だと考えられます。
――日本の製品では特に何が人気ですか?
出口 家具やキャンプ用品、ぬいぐるみ、楽器などはもとより、タイは仏教徒が多いので仏壇といった仏具も人気です。そもそもタイには日本のように「仏壇」がなく、なじみがなかったのですが、日本人の先輩がゼロから勝機となるマーケットを作り、それがタイで根付いてくれました。
――リユースビジネスの成長に伴い、リサイクルに対する意識もタイでは高まっているのでしょうか?
出口 最近では一部のスーパーマーケットで、日用品や使い終わった衣類のリサイクルボックスが出来始めるなど、少しずつですが変化の兆しを感じています。まだまだではありますが、日常生活に少しずつ浸透してきているなというのが現状です。しかし、ごみの分別などに関しては、分別が当たり前の日本と比べると、タイではそれほど広まっていません。これを一般市民に浸透させることが、課題の一つであると感じています。
――タイでのSDGsの浸透について教えてください。
出口 持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)の2021年6月の発表によると、タイのSDGs達成状況の総合スコアは ASEAN10カ国の中でもっとも高い74.2でした。この数値は、165カ国(国連に加盟する192カ国のSDGsの進捗状況を評価、そのうちデータがそろっている国)中43位でした。
私自身、現在JCI BANGKOK(国際青年会議所)のメンバーとして活動をしていますが、周りのタイ人の若い経営者たちもSDGsに対しての意識は高いように見えます。彼らはSDGsに関するセミナーをオンラインで自主的に受けたりもしています。
海外進出リスクに対応するには信頼できるパートナーを見つけることが大事
――ASE GROUPではリユース事業だけでなく、企業の海外進出支援も行っています。なかでもASEAN諸国への進出支援を数多く行っていますが、現在のASEAN諸国の市場にはどのような特徴がありますか?
出口 今ASEAN諸国の市場は、購買力を持った中間層・富裕層が拡大しつつあるため、成長が著しい消費市場として注目されています。リユース品もアンティークや高級ブランドなどの依頼が多くなってきたのも今の特徴です。
――ASEAN諸国をはじめ、東南アジアに進出する際に一番大事なことを教えてください。
出口 信頼できる企業や取引先、パートナーを見つけることです。テナントを所有する大家さんから登記簿が出てこなかったり、ライセンス契約が出来なかったりするなど、思ってもいないことも次々と起きます。また例えばタイでは、人前で叱ることはタブー視されているなど、国によって文化や習慣も異なります。そういったことからも、進出のサポートはもちろんのこと、スタッフの方々との付き合い方もサポートしてくれるパートナーがいれば、より安心です。
――企業などが海外進出する場合、リスクは少なくないということですが、どういったリスクがありますか?
出口 海外進出時には、文化や商習慣の違い、詐欺被害、言語による壁などさまざまなリスクがあります。例えば市場調査をあまりせずに飲食店を出店し失敗した企業や、会社を設立したが従業員に裏切られビジネスごともっていかれてしまった事例もあります。また、日本人から詐欺に遭ってしまった方、タイ人の株主に会社を追い出された方など、いろいろなトラブルが起こっています。
私たちも事業を運営する中で、失敗もたくさんしてきています。例えば、カンボジアで出したラーメン店が人気だからということでタイのバンコクでも店を出したのですが、3年で店を閉めることになりました。カンボジアでは行列が出来ているのになぜだろうと考えてみると、バンコクにはすでに日本食レストランがたくさんあり、その中での出店だったという市場調査の甘さなど、いくつかの原因が上がりました。しかし、成功している企業が多いのも事実です。私たちはこういった自分たちの失敗経験も含め、他社の進出をサポートする際にはより具体的なリスクマネージメントをし、トラブルや失敗を予防、成功に導くのが仕事です。
――コロナ禍の影響について現地での様子を教えてください。
出口 私たちの仕事においては、コロナ禍によって海外進出される企業の件数はかなり減少しており、今は会社や店の閉鎖のお手伝いをしているような状況です。飲食業や観光業はもちろんタイでもダメージは受けています。しかしコロナ禍によって賃貸物件やテナントに空きがたくさん出ていて、そこに出店される方もいますので、捉え方次第ではチャンスと言えるかもしれません。
――ASE GROUPの今後の展望を教えてください。
出口 私たちASE GROUPでは、「Not Take and Give, Let’s GIVE AND TAKE」(人の成功に貢献して自分たちも成功していこう)という経営理念を掲げています。志を持ち、事業を通じて「挑戦」するお客様と一緒にお仕事をすることが、私たちの喜びであり、それが事業となっています。その気持ちを大切にしながら、その輪が広がるよう、今後も力を尽くして支援をしていきたいと考えています。
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