フィンテックや物流をはじめ、さまざま分野で活用されているブロックチェーン。その存在感が製薬業界でも高まってきました。大手企業やスタートアップ、国際機関がブロックチェーンの活用を通して、医薬品のサプライチェーンや安全性を向上させようとしています。
市場調査を行うMarket Satsville社によると、ヘルスケア分野でブロックチェーン技術を導入するスタートアップ企業への投資が右肩上がりで成長中。その市場規模は2021年で約4億9000万ドル(約627億円※)、2027年には約36億6190万ドル(約4686億円)に達すると予測されています。
※1ドル=約100円で換算(2022年5月31日現在)
医療記録の管理や医薬品におけるサプライチェーンの管理、偽造医薬品の防止など、ブロックチェーンが製薬業界にもたらすメリットはさまざま。例えば、医薬品のサプライチェーンの管理において、ブロックチェーンが薬の製造元や原材料の調達、輸送などに関する情報を追跡することで、透明性のある物流手段を確保することが可能。結果的に医薬品の安全性の向上につながります。
ブロックチェーンの価値はそれだけではありません。この技術は偽造医薬品対策としても注目されています。世界保健機関(WHO)によると、先進国で入手可能な医薬品の約1%が偽造品であるうえ、途上国の中には30%を超える規模で偽造品が蔓延している国々もあるとのこと。ここでも、ブロックチェーンのトレーサビリティが役に立つと言われているのです。
製薬業界へのブロックチェーンの導入を巡り、世界中の民間企業でさまざまな動きが見られます。アメリカやイギリス、中国、エストニアなどのブロックチェーン先進国では、すでに数多くのプロジェクトが進行しており、例えば、アメリカでは2020年にIBMやKPMG LLPなどのテクノロジー関連企業が、アメリカ国内の医薬品の検証と追跡を目的とした実証プログラムを実施しました。また、同国では大手製薬企業25社のコンソーシアム「MediLedger Pilot Project」が発足しており、製薬業界向けのブロックチェーンの構築が進められています。
ヘルスケア分野のスタートアップへの投資も活発。アメリカでは2018年に、医療データ向けのネットワークを構築するスタートアップのAkiriが約1000万ドル(約12億8000万円)の資金を調達しました。一方、中国では政府がヘルスケア分野へのブロックチェーンの導入を積極的に支援。同国のさまざまな都市がブロックチェーンのスタートアップに投資しています。
日本やオーストラリア、シンガポールなどもブロックチェーン先進国に続こうとしていますが、偽造品の流通といった製薬業界が抱える課題はグローバルな問題であるため、途上国の動向からも目が離せません。アフリカ諸国はIT技術を駆使して医療の問題を解決しようとしています。世界各国がこの分野で研究開発や投資を加速させてくることでしょう。
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