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EVで先進国入りを目指すインドネシアの戦い

2022/12/12

世界の自動車産業がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトする中、最近、大きな注目を集めているのがインドネシアです。同国はEV産業の鍵を握る資源・ニッケルの世界最大の生産国であり、それを生かして多くの雇用を作り、先進国になろうとしています。しかし、そこには課題も含まれており、世界各国がインドネシアの動向を注視している状況です。

EVに賭けるインドネシア

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、2019年にEVを推進する大統領令に署名しました。その内容は、2025年までにEVの利用者を250万人まで引き上げるというもの。その実現を目指し、インドネシア国内におけるEV産業の促進、充電ステーションの整備、電気料金の規制、EV購入に際する税金の軽減や財政支援などが盛り込まれています。

 

この施策の象徴的な存在が「グリーン・インダストリアル・パーク(グリーン工業団地)」。3万ヘクタールに及ぶ敷地内は主に水力発電でまかなわれ、交通手段としてEVが整備されるという、環境に配慮した住宅地になる予定です。

 

インドネシアがEVを推進する大きな理由は、EVのリチウムイオン電池の原料となるニッケルの生産量が世界で最も多く、約22%を占めているから。ジョコウィ大統領は国内でニッケルの原料を加工するために、2019年から鉱物の輸出を規制し始めましたが、最近では2022年内にはニッケルの輸出を課税する可能性があるとも報じられています。ニッケルの需要が急増している中、インドネシアは輸出税を導入し、バリューチェーン(価値連鎖。企画や生産など企業の一連のビジネスプロセスにおいて付加価値がいかに生み出されているかを示すフレームワーク)で価値を高めたい意向。このような背景を考慮すれば、2022年4月にヒュンダイ・モーターズ・インドネシアが初の国産EVを発売したことは、同国のEV産業にとって画期的な出来事であると理解できるでしょう。

 

EVは経済成長にとってプラス。インドネシアの人口は約2億7000万人ですが、オランダを拠点とするING銀行によると、インドネシアの自動車生産量はASEAN(東南アジア諸国連合)でタイに次いで第2位である一方、販売台数は年間約65万8000台と第1位です。パンデミックの影響で直近では販売台数が落ち込んだものの、2022年には前年比8.7%増、2023年には1.8%増になる見込み。そんな中でEVの生産が盛り上がれば、販売や修理などの関連産業も活発化し、経済成長率が高まる可能性があるとINGは述べています。

 

EV促進の犠牲は環境?

その一方、懸念されるのが環境への影響。環境保護団体の間では、グリーン・インダストリアル・パークは環境アセスメント(環境影響評価)が杜撰に行われており、ニッケルを採掘しているのは許可を得ていない業者が多いという見方があります。もしテスラといったEVメーカーが「インドネシアのサプライチェーン(供給連鎖)は環境への配慮が足りない」と思えば、彼らは環境意識の高い投資家や消費者を考慮して、インドネシア産の資源を使わないかもしれません。その他にも、「これからEVを所有する人が増えれば、大気汚染は改善されるかもしれないが、交通量や渋滞は減らないのではないか?」や「ニッケルを生産するために森林伐採が続き、住民の土地が脅かされるのではないか?」という懸念があります。

 

このような課題を抱えつつ、国内のEV産業に賭けているジョコウィ大統領。ニッケル輸出の規制を巡り、EUやWTO(世界貿易機構)はインドネシアを「国際貿易のルールに反する」と非難しています。しかしジョコウィ大統領は、輸出を規制することで、外国の企業がインドネシア国内により多く投資し、雇用が創出されることを狙っているので、「われわれは閉鎖するのではなく開かれるのだ」と金融メディア・Bloombergのインタビューで主張し、日本や韓国などに投資や技術支援を求めているのです。豊富な資源を自国の経済発展につなげることができるのかどうか、インドネシアから今後も目が離せません。

 

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