現在、世界人口のおよそ4分の1を占めるイスラム教徒(ムスリム)。イスラム教の食べ物は、神によって食べることが禁じられている食べ物の「ハラム」(代表例は豚肉とアルコール)と、許されている「ハラル」(例:野菜、果物、穀物、魚介類)に大きく分けられますが、最近ムスリムの間で注目を集めているハラルフードといえば、和食・日本食です。ムスリムが多いアジア諸国などで、ハラルの焼き肉や寿司のニーズが少しずつ高まっています。
市場が拡大するハラルフード
ここ数年、ハラルフードは国際機関のOIC(イスラム協力機構)加盟国を中心に市場価値が上がってきました。統計プラットフォームのStatistaによれば、2021年におけるインドネシアのハラルフードの市場価値は1467億ドル(約19兆円※)で、バングラデシュは1251億ドル(約16兆円)相当とのこと。また、OIC諸国のハラルフードの輸入総額は2000億ドル(約26兆円)と推定されています。
※1ドル=約131円で換算(2023年3月27日現在)
インドネシアはムスリムが世界で最も多い国で、その数はおよそ2億3000万人。その後にインド、パキスタン、バングラデシュが続いており、ムスリム人口が多い国ではその分ハラルフードの需要もあるようです。
大人気の国内ハラル和食店
和食は世界中で認知度が高く、ムスリムからも好まれています。一般的に外国人の間で人気が高い和食・日本食といえば、ラーメンや焼き肉、寿司などがありますが、日本にはそれらのハラル版を提供しているレストランが既に存在しており、長蛇の列になっていることがよくあります。
例えば、北海道の札幌にあるラーメン店「寳龍(ほうりゅう)総本店」は、豚肉やアルコール不使用のハラル対応味噌ラーメンを提供。札幌ラーメンを食べたいムスリム客でほぼいつも満員です。
一方、大阪の難波にはハラル焼き肉が食べ放題の「ぜろはち難波OCAT本店」があり、ハラルの焼き肉店は他にもあるものの、同店は珍しく食べ放題であるため、ムスリムの間でとても人気です。
海外にも少しずつ広がる
海外に再び目を転じると、ハラルの和食レストランは現在のところ海外諸国にそれほど多く存在していません。しかし貴重な存在だからこそ、ハラルの和食レストランはムスリムから重宝されています。
2021年から2022年にかけてアラブ首長国連邦で行われたドバイ国際博覧会(万博)では、回転寿司チェーンの「スシロー」が6か月間の期間限定で初出店しました。初となるハラル対応メニューを開発したこともあって、平日でも3時間待ちの列ができるほど繁盛し、合計17万5000人を超えるお客が来店したそうです。
同店は、アルコールが含まれている通常の醤油やうなぎのタレを使用せず、代わりにそれらを現地調達するなどしてハラルの回転寿司を実現させました。この万博での盛況ぶりを見て、今後はアジア圏を中心に海外の店舗を増やしていく計画のようです。
アジア圏の中では、既にハラル和食が広がりを見せている国もあります。
シンガポールのボートキーにある「Ronin(以前の店名は「Gaijin」)」というハラル和食レストランは、2022年4月にオープン。Facebookなどのソーシャルメディアで絶賛され、予約枠がすぐに埋まってしまうほど人気があります。ハラル対応の焼き鳥や焼き肉を提供するほか、ビーツとひよこ豆のペーストを添えたタコ焼きや、塩漬溶き卵の汁を添えた餃子など、和食とそれ以外の料理を融合させたものもあります。本格的な和食体験をしてもらうために、店内には伝統的な障子や座敷なども取り入れられました。
また、同じくシンガポールで屋台2店舗を展開している「Abang Curry」は、比較的手ごろな価格で提供するハラルの和風カレー店。日本のカレーをシンガポール風にアレンジし、米の代わりに麺を選ぶことも可能。メインに付くソースも3種類から選べ、カレーパンなどのスナックも販売しています。
このように、ハラル対応の和食の人気は今後さらに伸びていく可能性があります。イスラム教徒が多いアジア諸国などには、まだ本格的なハラル和食レストランが少ないため、メニューなどの工夫次第で、高いニーズが見込めるかもしれません。
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