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日本の「寿司文化」が食糧危機を救う? いま‟コールドチェーン”が世界で求められるワケ

2023/1/18

生鮮食品や冷凍食品などを低温のまま流通させる「コールドチェーン」。世界経済フォーラムは、その技術によって発展途上国における食料供給や世界の食料危機改善につながる可能性について言及しています。寿司文化のおかげでコールドチェーンの技術が発展してきた日本は、どのようなことができるのでしょうか?

 

 

世界が抱える食料不安

2021年に飢餓に見舞われた人の数は、8億2800万人。前年比で4600万人も増えています。しかも新型コロナのパンデミックによって、2020年には健康的な食生活を贈れなかった人が約31億人にも上りました。2022年はロシアのウクライナ侵攻による穀物価格の急騰で、さらに多くの人々が安全に食料を入手できなくなっている可能性があります。

 

この食料不安に追い打ちをかけるのが、気候変動です。猛暑や洪水、干ばつなどによって、作物の収穫量が減ったり、家畜がストレスを抱えたり、漁獲量が減少したりすることが考えられます。

 

だからこそ、今生じている食品ロスをできる限り減らして、生産される食料を品質の良いまま人々に届けることが大切なのです。世界で生産された食料のうちおよそ14%が、さまざまな理由で、私たちの手元に届く前に廃棄されていると推測されています。

 

コールドチェーン技術で食品ロスの減少と住民の収入増へ

そこで期待されるのが、コールドチェーン技術。原材料の調達から生産、加工、物流、販売、消費までのサプライチェーンの全工程において、冷凍や冷蔵などの適切な温度管理を行うことをコールドチェーンといいます。

 

例えばレタスなどの野菜が低温で保管・輸送されれば、収穫後のフレッシュな状態が保たれ、流通の工程で鮮度が失われたり腐敗したりして廃棄されることも少なくなり、栄養価も維持されやすくなるでしょう。また、ワクチンなどの医薬品の物流でも正しく温度管理されることができれば、品質が保持されます。

 

国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)は、先日発表した報告書のなかでコールドチェーンの重要性について指摘。発展途上国で、先進国と同等のコールドチェーンのインフラが整えば、年間で1億4400万トンの食品ロスを防げると推測しています。しかも食品ロスは小規模農家の収入の減少にもつながるため、コールドチェーンでロスが減れば、そのような農家の貧困の解決につながる可能性もあります。

 

実際、ナイジェリアでは54のコールドチェーンのハブ施設を建設するプロジェクトが行われ、4万2024トンの食品ロスを防ぎ、小規模農家や小売業者など5240世帯の所得を約50%増やすことにつながったそうです。

 

コールドチェーン技術が発達する日本

日本はコールドチェーンの技術革新を進めてきた国のひとつ。その背景には、寿司文化があります。例えば、遠洋漁船では漁獲した直後に船上で前処理を行い急速冷凍。スピーディかつ適切に温度管理して流通させることで、鮮度の高い魚を消費者に提供できるようになっているのです。回転寿司チェーンなどで、一昔前に比べてずっと品質の高い魚介類を提供できているのは、そのような技術の飛躍的な進歩と努力があったからに他ならないのでしょう。さらに、回転寿司店ではタッチパネルが導入されるなどして、大手チェーンでは食品ロス率は1%台まで低く抑えられていると言われています。

 

そんな世界でも最先端の技術を有する日本は、発展途上国への技術支援などに貢献できるかもしれません。先に紹介したナイジェリアの例は、まだごく一部であり、多くの発展途上国ではコールドチェーン技術も、そのためのインフラも整っていないのが現状です。

 

国連は、気候変動への影響に配慮して、エネルギー効率が高く再生可能エネルギーを使用した持続可能な食料コールドチェーンに投資するべきだと述べています。世界でその技術をシェアしていくことが、今求められているのかもしれません。

 

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