都市を一歩引いて見るような写真のことを、都市遠景写真として、ここでは撮影テクニックをご紹介いたします。建物が密集している都市でも、川の対岸や湾などからであれば全景を撮ることができます。
引き寄せ効果と圧縮効果を生かして都市の遠景風景を捉えよう
望遠レンズには引き寄せ効果や圧縮効果、そして浅い被写界深度といった描写の特徴があります。望遠レンズを使って都市の遠景写真を撮るときには、引き寄せ効果と圧縮効果を意識すると、うまく使いこなせると思います。周囲が散漫だったり、主題の存在感がいまいちだったりするような景色では、引き寄せ効果を利用して一部分に迫りましょう。主題の前後に脇役がある場合は、圧縮効果を利用して前後の距離感を縮めると、どちらも大きく捉えられます。
基本テクニック
都市風景の華やかな部分に注目して切り取る
展望風景と同様に、遠景写真でも都市の景色全てを入れて撮る必要はない。遠景の景色を広く切り取ると、画面に空が占める割合が多くなってしまう。きれいな空や形の面白い雲が出ていれば別だが、曇天や真っ暗な夜空では写真として美しくないのだ。望遠レンズを使って、景色の中の印象的な部分だけを切り取るのがベターだ。
望遠の圧縮効果によってツリーとレインボーブリッジの距離感を埋める
下の写真は、クリスマスシーズンにお台場の全景を撮影したもの。暗い部分が多く、目で見たよりも寂しい印象だ。そこで、中望遠域でツリーを主題に切り取る。縦位置にしてレインボーブリッジと屋形船を取り入れると、距離感が圧縮されて華やかに仕上がった。
84ミリ相当 絞り優先オート(F4 1/1.6秒) ISO200 WB:オート
夕日を受けて赤く染まるマンション群を引き寄せて撮る
強い夕日が出ていたので東側に目を向けると、西日を浴びて赤く染まるマンションが印象的だった。広く切り取ると空や前にある海が入って余白ができるため、マンション群だけを85ミリ相当で引き寄せる。赤い色彩が際立つ写真に仕上げることができた。
85ミリ相当 絞り優先オート(F11 1/30秒) -0.3補正 ISO200 WB:日陰
応用テクニック①
街の様子がわかる程度のフレーミングにとどめる
前ページで華やかな部分を切り取るテクニックを紹介したが、そうした場合も都市や街の様子がわかる程度のフレーミングにするのがコツ。あまりクローズアップしすぎると、都市の雰囲気は伝わらず、その被写体だけを撮ったかのような写真になってしまう。さじ加減が難しいところだが、主題が弱くならない程度に周囲を取り入れよう。
背後にマンションを入れると商店街の写真から街の写真に変わる
谷中銀座の夜を、階段の上から撮影した。商店街をクローズアップしても街のにぎやかさは感じるものの、街全体の雰囲気は伝わらない。そこで背景にマンションと、日没直後の空入れた。マンションが暗いことで、商店街の光が際立つ写真になった。
127ミリ相当 絞り優先オート(F2 1/60秒) +1.7補正 ISO400 WB:オート
応用テクニック②
主題と副題のみのシンプルな構図もアリ
主題と脇役だけのシンプルな構図は、主題を最も強調して見せられ、脇役が入ることで写真としても面白くなる。この際も、都会らしさを盛り込みたい。主題も脇役も都市を感じさせる被写体ならいいが、どちらかが自然のものなら、もう一方はビルなどの都会感があるものにしよう。
月を大きく捉えつつ、都会の風情も盛り込む
天体写真なら月のみを大きく写すが、ここでの狙いは都会の風景として月を捉えること。月だけのクローズアップでは不十分だ。そこで、観覧車に重なる撮影ポジションを選択し、望遠レンズを使ってゴンドラを大きく写し込み、都会らしい雰囲気を与えた。
ガスタンクの丸みを生かして遠くに見える富士山を狙う
ガスタンクの間から顔をのぞかせる富士山に注目。上写真のようにガスタンクをしっかり見せると、富士山は小さく写り、ガスタンクが主題のようだ。ガスタンクの丸い弧を生かしつつ一部をアップで切り取ると、主題と脇役の関係性が明確になった。
241ミリ相当 絞り優先オート(F8 1/125秒) -0.3補正 ISO100 WB:日陰
遠景写真では、何を撮影したいかをしっかりイメージしておかないと、殺風景な写真になったり、主役と脇役が逆になってしまいます。主題や主役をしっかりと意識したフレーミング、構成としましょう。