ハッセルブラッド・ジャパンが、ポートレート撮影講座を2018年11月17日に開催した。講師を務めたのは、ハッセルブラッドグローバルアンバサダーでブロンカラーアンバサダーでもあるSails Chong(セールス・チョン)さん。中国のトップウエディングフォグラファーとして活躍しているかたわら、シンガポールやインドネシアでワークショップを開催。CP+2018のハッセルブラッドブースでもワークショップを行なっていたから、ご存知の方もいるに違いない。独創性あふれるポートレートを撮影しているチョンさん。彼のダイナミックなポートレートはどうやって作られているのか、これまでの作品と実際の撮影現場を通して、その秘密を披露してくれた。
撮影の前にチョンさんの写真に対する考え方やこれまでの作品が紹介された。無名のフォトグラファーがどうやってステップアップしてきたかということが熱く語られた。注目すべきは、さまざまな作品を見てそれらを分析し、データベース化して自分の作品のアイデアに取り入れていることだった。
ワークショップでは、実際に撮影の様子を解説を交えながら披露した。今回はストロボを使ったポートレート撮影ということで、ベリーダンサーの動感をストロボで捉えた作品、また多重露光による作品作りなど、5パターンの撮影が行われた。別々に撮って後で合成した方が合理的にも思えるが、ワンカットで捉えられるならチャレンジしていくのがチョンさんの撮影スタイル。カメラとストロボの機能を理解しているからこそできる撮影だ。
キーライトになるストロボの位置決めのポイントや向きについてのレクチャーが行われる。多重露光では背景を黒くしたいため、ストロボがカメラに向けられる。そこで、レンズフードに黒のパーマセルテープを貼る。できるだけ余計な光がレンズに入らないようにという配慮だ。
また、撮影と同時に動画で記録することも普段の撮影スタイルだという。ハッセルブラッドの中判カメラの上にはアクションカムが装着されていた。
最初はまず、ダンサーの動きを捉えた撮影。ダンス本来の自然な動きをストロボで捉える基本の撮影だ。
次に行われたのが布とダンサーを組み合わせた多重撮影。布を撮影してすぐに布を降ろし、同じ場所でダンサーを撮影するというもの。赤い布が幻想的な作品に仕上がっている。
3つ目がモデルと仮面をそれぞれ撮影して合成した作品。ストロボの発光間隔をセットして、壁に掛けた仮面を撮影してからモデルを撮影するというもの。こちらも仮面とモデルの対比が印象的な作品になった。
4つ目がディスプレイの映り込みとモデルを組み合わせた作品。モデルとディスプレイの位置を微妙に変えながら、カメラ位置を決めていく。大きさの違うダンサーを1つの画面に収めることに成功した。
最後は、ワンショット撮った後にモデルに衣装替えをしてもらい、同じダンサーが違う衣装で画面に収まるというアイデアにチャレンジ。約5分の間にモデルに着替えてもらうというアクロバティックな撮影だったが、わずか数回の撮影でイメージした作品を撮ることができた。
その後に行われたのはレタッチのデモンストレーション。レタッチでは、撮影した作品の中からもっともイメージに合ったものを選び出し、バランスを整えたり、動きを演出する手順などが披露された。身体をひねった時にできたシワを消したり、腰から下を伸ばしてバランスを整えたり、布を変形させて膨らませたりして、作品をイメージに近づけていく作業が手早く行われていく。レタッチをしながらも詳しく解説が行われた。
先にライティング機材をアップグレードして、次にカメラのシステムを揃えるのがいいと語るチョンさん。カメラのシステムを変えるのはお金がかかるし効率が悪いが、ライティングを変えるのは簡単だというのがその理由だ。自身ももう一度チャンスがあったらストロボから揃えたいと語った。
ライティングをグレードアップさせる方法の一つとして「ストロボを使ってフイルムで撮る」のが効果的だとチョンさんは話す。現像が上がってきたらそれを分析する。仕上がりを確認できるまでの時間差があるのがいい。また、フィルムで撮るときには、緊張感とともに儀式感があるから、撮る方も撮られる方もシャッターを切るときの心構えが大きく違ってくると言うのもオススメする理由の一つだ。
半日のワークショップだったが、密度の濃い内容だった。
〈写真・文〉柴田 誠
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