ソニー「α7III」、ニコン「Z 6」、キヤノン「EOS R」、パナソニック「LUMIX S1」の4機種の瞳AFを検証する本企画。今回はLUMIX S1をチェックしていこう。今年に入って登場した新システムのLUMIX Sシリーズだが、瞳認識においてはマイクロフォーサーズGシリーズの瞳認識AFでの実績があるだけに、期待がもてる。顔・瞳のみならず、さらに人体認識機能まで搭載しているのはLUMIX以外にない。AFはあくまでもコントラストAFによるDFDテクノロジー(空間認識技術)で通しているだけに、他とどのくらい違うのかというのも見どころだ。
【その1】どのくらいから瞳AFが効く?
はじめにチェックしたいのは、顔がどのくらいの大きさになったら瞳認識が効くようになるのかのチェック。LUMIX系の瞳認識表示は独特で、顔認識枠に十字のクロスという照準のような表示だ。認識のみしているときには顔認識枠が黄色(複数の場合はメインが黄色、他は白)、瞳認識の照準線が白色で表示され、合焦時には枠も線もすべて緑色での表示となる。瞳認識への切り替えはなく、顔認識に設定されていれば常時効く仕様。瞳認識できない場合は、顔認識の括弧枠だけの場合もある。また人体認識の場合は、人を取り囲むように大きな黄枠が表示される。
<「顔・瞳」認識枠例>
<合焦時>
<「人体」認識枠例>
▲瞳認識は照準のようにクロスで表示されるのが特徴。認識時はどのモードでも黄色の枠、操作で合焦したときには緑色の枠になる。半押しなどAF操作をしていない場合は、合焦していても黄枠表示になる。人体認識では、身体を取り囲むように大きな枠が表示される。
はじめに、顔の占める大きさがどのくらいから顔認識から瞳認識に移行するか、実験してみた。結果、α7IIIよりは敏感ではないが、かなり顔が小さな時点でも反応。EOS R、Z 6と比べるとかなり小さい時点で反応する。はじめは人体認識で、寄ると顔認識と同時に瞳認識も開始される。
<「瞳」認識枠に変化したときの大きさ>
<「瞳」認識枠に変わる直前の「顔」認識枠の大きさ>
▲α7IIIに次いでかなり小さい状態で認識するのがわかる。表示は顔に被るが、線が細いので見づらいことはない。人体認識から顔認識に変化する途中、一瞬だけ括弧枠になっている。今回の条件で顔認識から瞳認識へと切り替わったタイミングを数値化すると、画面の短辺を1として、頭の大きさ(頭の先からアゴ先まで)の比を求めたところ、1:0.113。顔の長さが短辺の約1/10の長さで反応するという感じだ。もちろんこの辺りは条件によって前後する部分なので参考値としておきたい。
【その2】回転や前後の動きへの対応
次に、S1の測距点がどのように追従するのか、移動する人物の流れのなかで、その動きを見てみることにする。撮影条件などは前回に引き続き70-200mm F4のレンズを用い、200mm絞り開放、AF-Cで撮影を行った。連写速度は高速モード(H:AF-Cなので約6コマ/秒)。動きのパターンとしては、カメラ近くで左右に2回転し、そのまま一度カメラから遠ざかり、さらに、腰くらいの引きカットまで遠ざかったら戻ってくるという一連の動きになる。
測距点の推移をチェック
LUMIX S1では、正面では瞳認識まで確実に表示され、回転を伴う動きや後ろ向きでは人体認識が効き、大きく外すことはない。ただ、正面を向いた直後では瞳認識まで追いつかず、ピントが合わない場合もあった。遠ざかっていくシーンでは後ろ姿でもそれを囲む様にフォーカスしていくところはさすがの人体認識。一番遠くの時点では、動きながらのせいか瞳認識表示がなされず、顔認識のみの場合もあったが、ピントのほうは全く問題なかった。こちらに向かってくるときの撮影カットでは外れたカットはなかった。
クルッと回転動作でのピントは?
回転振り向きシーンでの実写カット。ここまでクイックな動きの対応は少し苦手なようで、こちらに向きながらの顔認識枠の登場は少し時間がかかることもあり、ピントを探しているような印象。このような被写界深度の浅い状態では慎重に確認し、ピントを合わせたい。
<撮影カット一覧>※すべての画像はCAPA CAMERA WEBでご覧いただけます
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左右のチェンジ動作
LUMIX S1では、瞳認識が効いているとき、左右で任意の目を選んで変更できるようになっている。初期設定ではジョイスティックの中央ボタンを押すごとに左右が切り替わる。
▲LUMIX S1/S1Rの場合、瞳認識表示が出ているときにジョイスティック中央ボタンを押すと顔認識枠の四辺中央にマークが入り、切り換え中であることを示す。もう1度押すと左右が切り替わり、以降、押すごとに切り替わる。
【その3】様々なシーンへの対応
次に、目に髪がかかってしまった場合や眼鏡をかけている場合など、自然にあり得る様々なシーンでチェック。ポイントとしてはどこから顔認識、そして瞳認識に移っていくのかを見ていく。撮影条件は同じく70-200mm F4のレンズを用い、引いているときは70mm、アップのときは200mmでそれぞれ絞り開放、AF-Cで撮影している。
髪のかかるシーン
顔が全く見えていない時点で、頭を取り囲むように人体認識が効いているのには驚いた。ゆっくり顔を上げてきて、途中ほんの少しの時間、通常の自動認識枠で対応するが、顔が見えてくると片目が隠れているにもかかわらず顔認識、瞳認識が働いた。このようなゆっくりな動きにはすこぶる敏感に反応してくれる。
▲チラッと隠れていた目が見え、瞳認識がOKになったときに撮影したカット。ピントはガチピンで、レンズ自体の解像力の高さにも驚かされる。逆の目はボケているので、瞳認識が捉えた目が逆だったらピンボケになっていたであろうことは想像がつくだろう。
眼鏡のシーン
引いた状態(70mm)で眼鏡をかけてもらったが、アクション中は人体認識で対応、手を離した直後から瞳認識が効くようになり、撮影したカットからもピントの確認はできた。アップ(200mm)では正面気味だと瞳が認識されていたが、横に向くにしたがって迷いはじめ、合ったり合わなかったり、少し不安定になる。ただ、あくまで人体認識は崩さず、その場合は輪郭などコントラストの強いところにピントが引っ張られる印象だ。
<70mmで撮影>
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<200mmで撮影>
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<拡大(手前の瞳に合焦)>
<拡大(フレームに合焦)>
▲70mmでは、瞳認識が効いているときはもちろん、人体認識中でもこのくらいの被写界深度があれば満足いくピントは得られる。200mm時は、他の機種でちょこちょこ見かけた逆の目に合うパターンは、LUMIX S1ではなかった。外す場合は手前の眼鏡フレームに合ってしまうパターンはあった。ピント位置は全体的に比較的安定した印象だ。
次回はこれまで個別に検証してきた4モデルをまとめて比較してみよう。
モデル/朝倉璃奈(ABP Inc.)