ソニーEマウント用の交換レンズ、タムロン「28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)」(以下、タムロン 28-75mm)は、いわゆる「大三元レンズ」の標準ズームである。大三元レンズは各社特に力を入れて作るレンズだけに、どのレンズも高性能でその実力は折り紙付き。しかし、一口に高性能といっても、その高性能にもいろいろと個性がある。今回は、人気のレンズであるタムロン28-75mmの個性と使い勝手を実写で試しつつ、ソニーの純正大口径標準ズーム「FE 24-70mm F2.8 GM(SEL2470GM )」(以下、ソニー 24-70mm)と使い比べて個性の違いをレポートしていきたい。
解像力を実写チェック! 撮り比べてわかった個性
純正のソニー 24-70mmと比べた際の設計上の特徴としては、タムロン 28-75mmは28mmをズームのスタートの焦点距離にしている点が挙げられる。28mmスタートの場合、24mmスタートに比べ設計が楽になるという利点がある。28mmスタートに不満を感じるユーザーもいるかもしれないが、28mmにしたことでフィルター径を67mmにでき、大幅な小型軽量化に成功している(もちろんタムロン 28-75mmの軽量コンパクトなボディサイズの要因はそれだけではなく設計上の工夫も大きいのだろうが)。また、タムロンは自社のF2.8のEマウント用広角ズームの終わりを28mmとし、この28mmスタートという点をカバーしている。
では早速、実写を交えつつ、両レンズの個性の違いを明らかにしていこう。
まずは「解像」を見てみる。広角端/望遠端で撮り比べているので、画角が異なる点には留意しつつご覧いただきたい。
※本記事に掲載の写真はリサイズしております
広角端の解像チェック
<タムロン 28-75mm/広角端28mm>
<ソニー 24-70mm/広角端24mm>
上の写真は田園風景を撮影したものだ。ピントは遥か遠くに見える真ん中の建物に合わせている。焦点距離は双方広角端、開放F2.8、ISO100、露出はカメラ任せで撮影。
詳細に見ていくと、解放F2.8の真ん中部分については、ほぼ互角と言っていいだろう。周辺部に関してはソニー 24-70mmのほうがしっかり解像できている印象だ。
望遠端の解像チェック
<タムロン28-75mm/望遠端75mm>
<ソニー 24-70mm/望遠端70mm>
双方望遠端で、その他の設定は先ほど同様。ピントも広角端同様に真ん中の建物に合わせている。
中央部を比べてみると、タムロン 28-75mmのほうがややシャッキリしているように感じる。また、周辺部に関してもタムロン 28-75mmのほうがシャッキリしているようだ。今回の実写より、タムロン 28-75mmは広角側よりも中間域~望遠側に重点を置いていることがうかがえる。
MTF曲線から見える描写傾向
ではここで、レンズの履歴書ともいえるMTF曲線を見比べてみよう。
まずは広角端だ。タムロン 28-75mmの広角端28mmは見ての通りレンズ中心部から14mm付近で解像、コントラストともに落ちてくる。しかしソニー 24-70mmは解像、コントラストともに大きな落ち込みはない。特にコントラストに関しては、驚くことに上部1.0に張り付いている。
<タムロン 28-75mm>
<ソニー 24-70mm>
次に望遠端を見てみよう。MTF曲線を見比べてみると、タムロン 28-75mm、ソニー 24-70mm双方波のうねりが気になるように見えるが、実は標準ズームレンズの望遠端は一概に1.0に張り付いていれば良いというものでもない。1.0に張り付いているということはコントラスト、細かい解像ともに良いということなのだが、そのぶん画が固くなる傾向にある。また、こうした1.0に張り付いた性能は、望遠~超望遠のレンズに求められるもので標準領域をカバーするレンズは画のつなぎを良くするため多少うねりも必要になってくる。
それを踏まえたうえで改めて見比べてみると、タムロン 28-75mmはレンズ再端の部分が、キュッと上に上がっている。これは狙って上げたのか、 それとも設計の関係なのか定かではないが望遠端付近であまり性能が落ちないようにしている意図がくみ取れる。
対してソニー 24-70mmは全焦点域で高性能を狙い、70mmもおそらくは狙ってなだらかに曲線を引かせたのではないだろうか。この曲線であればボケ味もキレイであろうことが予想される。
<タムロン 28-75mm>
<ソニー 24-70mm>
タムロン 28-75mmに関して、筆者は上記のほかにも焦点距離を変えシーンも変え撮影したのだが、特に60mm付近の描写に非常にキレの良さを感じた。筆者がこのレンズを使うなら中間領域を積極的に使っていきたいと思う。
タムロン 28-75mmの使い勝手をチェック
次はタムロン 28-75mmの使い勝手をチェックしていきたい。
なんといってもこのレンズは、F2.8のズームでありながらとにかく軽い!
両レンズ並べてみるとタムロン28-75mmは一回り細いボディだ。重量はタムロン 28-75mmが550g、ソニー 24-70mmが886g。その差336gだがカメラにセットし、ストラップを首にぶら下げてみると数字以上に違いを感じる。軽いからこそ、カメラにセットしていろいろ歩きながら撮影したくなる。
今回は足場の悪い場所や海沿いの道を歩いたり街歩きをしたりしながら使い勝手を見たのだが、この軽さが「もう少し先まで行ってみよう」という気にさせてくれる。手触りについてもズームリングやピントリングのトルク感は軽すぎず重すぎずちょうど良い感じだ。
撮り歩きの途中、ゴーストの発生を夕陽の撮影で見てみた。ゴーストをわざと発生させるには、次の作例のように画面隅に強い点光源を置き、形がわかりやすいように絞り込んでクロスラインに出てくるように撮影するのだが、今回試した限りでは目立ったゴーストは出てこなかった。
余談なのだが、チェックするため上の写真を拡大してみたところ、最初は撮像素子に付着したゴミかと思った写真左上の小さな黒いものがよく見ると秋の夕暮れを飛ぶ小さなトンボであった。こんな小さなものもしっかり解像していたことに驚いた。
<拡大>
海辺を散策中、浜辺で遊ぶご家族がいらっしゃったので、お願いして可愛い坊やを撮影させていただいた。AFモードはAF-Cシングル。細かく動きながらしっかり黒目を追っていた。
うん、いいじゃない! 肌の質感もよく出ている。黒目部分をよく見れば、なんと撮影している筆者と背後に美しい青い海が確認できる。
<拡大>
ただ、この撮影をしているとき、「どうもAFのスピードは純正(ソニー 24-70mm)に一歩譲るようだな……」と感じた。このスピードの違いはAF-Sでも同じで、絞るとよりスピードに違いを感じるようになる。筆者はF3.5あたりからスピードに差が出ているように感じた。
続いて、昭和の趣を感じる街並みもスナップしてみることにした。
次の写真のようにレンガの壁を正面から撮影すると歪曲収差や周辺光量などがわかるのだが、ボディ側の補正がしっかり効いているようで気になる粗は見当たらなかった。
すてきなパン屋さんのすてきな看板娘も撮影させていただいた。あまり大きなレンズではないため威圧感が少ないのか、撮影時は良い笑顔をいただいた。
解放F2.8での望遠端のボケ味についても試してみたが、「芯」が残りやすい緑をバックにしても柔らかくボケている。丸ボケに関しては、もう少しラグビーボール状のものが少ないと良いのだがズームということを考えれば及第点ではないだろうか。
次の写真は広角端で接近して撮影したものだが、こんなに寄れるの? と思うほど寄って撮影できる。1つ前の写真と同じく開放で撮っているのだが、こちらは広角端なのにキレイなボケだなという印象だ。広角端で被写体にうんと接近した画作りを楽しむことができるのは、本レンズの魅力の1つであろう。
【まとめ】驚くほど低価格だが、それが最大のアドバンテージではない
タムロン 28-75mmとソニー 24-70mm双方を使い比べて見えてきたことだが、それぞれ異なるアドバンテージを持っていると言えるのではないだろうか。
性能一辺倒での比較では王道の大三元標準ズームであるソニー 24-70mmに軍配が上がるであろう。ソニー 24-70mmは、焦点域全体で安定した解像の良さがあり、またメーカーtoメーカーということでボディ側からの補正のかかり方やAFのスピードにアドバンテージがある。しかし、レンズの魅力というものはそれだけではないと筆者は思う。
タムロン 28-75mmは、28mmスタートとしたことや設計の工夫で小さく軽く仕上がっている。描写は広角領域の周辺部の解像がもう少しほしいところではあるが、いわゆる「大三元」としての性能は十分確保している。特にこのレンズは中間領域~望遠領域(特に60mm付近)において驚くほどのキレ味を見せるレンズで、そうした点では特徴を持たせた作りになっている。
描写以外で気に入ったのは、タムロン 28-75mmの携帯性の良さである。この軽さは、街歩き写真を撮る人や、重い機材に少々疲れた人にとってはずいぶん助かるはずである。またワイド側の最短撮影距離が19cmと短いことから、工夫次第で本レンズならではの1枚を撮ることが可能だ。記事執筆時点でのタムロン 28-75mmの実売価格は96,250円(税込)と驚くほど低価格だが、上記の理由などから決してそれが一番のアドバンテージではないと筆者は考える