ソニーEマウント用の交換レンズ「タムロン17-28mm F/2.8 Di III RXD (Model A046)」(以下タムロン17-28mm F2.8) は、同社 の大口径標準ズーム「タムロン28-75mm F/2.8 Di III RXD (Model A036)」(以下タムロン28-75mm F2.8)と同じく“使用頻度の高いズームレンズだからこそコンパクトに”というコンセプトのもと作られたレンズだ。そのコンセプト通り、手に持ってみると驚くほど軽く、驚くほど小さい。その軽量コンパクトぶりは、最初手にしたとき「本当にF2.8通しの広角ズームレンズなのだろうか?」と疑ってしまったほどだ。
上述のように、同じコンセプトで作られたタムロン28-75mm F2.8とのつながりも良好で、フィルター径はタムロン28-75mm F2.8と共通の67φ。ボディデザインや手触りも共通の質感で、利便性を考えればこの2本は揃えて使うことをおすすめしたい。
ユーザーの使い勝手を考えた割り切りと設計の“妙”
さて、このレンズの特徴的なところだが、上述でもお話しした通りまず、この軽さと小ささに驚かされる。F2.8の広角ズームと言えば大きく重いというのが相場でここまで軽量コンパクトなF2.8の広角ズームレンズはなかなかお目にかかれない。
それゆえ、常に持ち歩いていても苦にならず様々なシーンで使いたくなる。これも先にお話ししたが、フィルター径が67φとF2.8広角ズームとしては非常に小さく、高価なフィルターやしばしば撮影に使われるフィルター(C-PLフィルターやNDフィルター)などを購入する場合、昨今のF2.8広角ズームレンズで主流になっている82φや77φに比べるとかなりお得に買い求めることができる。
手ブレ補正機能はレンズ本体には搭載されていない。最近はボディ内に手ブレ補正を搭載したカメラが多くなったことや、ボディ内手ブレ補正の特徴として広角側の補正に効力が高いといったことなどを考慮し、レンズは軽量コンパクトさと光学性能にこわだり手ブレ補正を搭載せずに開発したのではないだろうか。言い方を変えると、昨今、ボディ内手ブレ補正機能が非常に優秀になったので、いっそ手ブレ補正はすべてボディに任せレンズの設計をもっと自由に、ユーザーフレンドリーにしてみよう!という考えが垣間見られ、筆者はそこにタムロンらしさを見る。
設計は17mmスタートとしたことで口径は小さくとも広角側の性能を確保。望遠端は28mmとズーム域はやや控えめだが、そのぶん28mmまでズーム全域で一貫した使い勝手の良さを確保している。
タムロン17-28mmはどんなレンズなのか? 実写でチェック
タムロン17-28mmはどんなレンズなのか?さっそく実写してみよう。
まずは広い画を撮影してみよう。テストに使ったカメラはソニー「α7R Ⅳ」。6100万画素と驚異的な画素数を誇るカメラで解像テストにはもってこいである。
中央部と周辺部両方を拡大してみよう。
<中央部>
<周辺部>
中央部は解放でもしっかりと解像できているようだが、周辺部はわずかに像の流れを感じる。しかし、解放でこの程度であれば非常に優秀な部類に入ると筆者は思う。解放F2.8ではカラーフリンジが少し多いようで気になったが、一段絞ったF4ではかなり改善される。周辺のエッジの立ち上がりは早く、F5.6も絞ればエッジが立ち、F10もしくはF11でピークではないだろうか。
次に、カラーフリンジを見てみよう。解放F2.8で撮影した場合、透過光でカラーフリンジ(軸上色収差、倍率色収差、またはカメラ側に起因するもの)が出てしまうのは仕方がないことで、そのカラーフリンジがどの程度なのかが問題となる。
画面上部を拡大してみよう。
<F2.8>
<F4>
タムロン17-28mm F2.8はボディからの補正が受けられるので、倍率色収差補正が効いており、あまり大きな倍率色収差は見当たらなかった。補正でほぼ見えなくできるということは、そもそもの倍率色収差は少ないのかもしれない。しかし、拡大画面のようなパープルフリンジはいかんともしがたく、こればかりは絞って抑えるしかない。本レンズの場合、上述の通り一段絞るだけでかなり軽減される。この辺りは設計の「妙」であろう。
F2.8の明るい広角ズームということで、星空の撮影も活躍の場であろう。
暗闇でレンズを操作しながらの撮影だが、ピントリングの位置もわかりやすく、またピントのピークもつかみやすいため星空の撮影を行いやすいレンズだと感じた。天の川にもしっかり色が出ており、レンズそのものの「透かしの良さ」もうかがえる。
コントラストを見てみよう。
ひと気のなくなった砂浜を日の沈んだ直後のブルータイムに撮影。水面の反射はレンズのコントラストを見るのに適した被写体だ。風で少し水面が揺れてしまったが、それでもきちんと空を反射した水面を再現してくる。また、色ノリも良いようだ。
ディスト-ションを見ておこう。
上述の通りボディからの補正が得られるため、ディストーションにも補正がかかっている。が、上の写真を見た限りディストーションもおとなしいようでカメラの補正で容易に収まっているようだ。
スナップ撮影で軽快に使える魅力を再認識
続いてスナップの画を一気に見ながら解説していきたい。
F2.8のアドバンテージは、トワイライトタイムから始めるスナップでより威力を発揮する。明るいレンズは、薄暗くなっていく街を撮影していてもシャッタースピードに余裕があるため画に自由度が増す。
また、こうしたスナップの撮影では、タムロン17-28mm F2.8の軽さがものをいう。小さく軽いこのレンズは、動きを軽快にしてくれるため大きく重たいレンズとは違った早いテンポで撮影することができる。
今回、撮影地に選んだこの場所は、スナップの基本「あ!いいな」と思う被写体があふれていた。そうした被写体を、ファインダーを覗いてはシャッターを切り、リアモニターを覗いて低いアングルからと様々なアングルから撮影していく。
この軽さは、本当に驚くほどでF2.8の広角ズームであるということを忘れさせる。そして、一緒に持ち歩いていたタムロン28-75mm F2.8との組み合わせもつながりが良く、同じように軽いため2本同時に持ち歩くことが全く苦にならなかった。また、スナップの撮影で改めて感じたのだが、ボディの手ブレ補正がよく効いているため、動きの激しい筆者のスナップ撮影でもしっかり画が止まっていた。
軽快なテンポで撮影をするにあたって少し不満な部分もあった。それはAFの速度だ。スピード感が必要な軽快なスナップ撮影において、AFの速度が遅いと「ん?」という「間」が生まれる。その「間」が、テンポを崩してしまい軽快さを消してしまうことがあった。ただ、遅いといっても、「純正と比べてほんの少し」の遅さであって極端に遅いというわけではない。
α7R IVとの相性は? 手ブレ補正の効き具合をチェック
最後に手ブレ補正の効きを見ておこう。手ブレ補正はレンズ本体にはないため、ボディにすべて委ねることになる。つまり、タムロン17-28mm F2.8とα7R IVのマッチングを検証するカタチだ。
少し反則気味ではあるが、今回は筆者がいつも使っているカメラバッグの上に置いて撮影することにした。筆者が使っているバッグは、aostaというブランドの「フォンタナⅡ ISリュック」というリュックタイプのバッグで、バッグに鉄骨が入っており非常に丈夫な作りになっている。このバッグを選んだ理由は、もちろん万が一に備えて丈夫なものを…ということもあるのだが、鉄骨のおかげでバッグの上に直接座ることができるからだ。そして、三脚の使えないような場所の場合、今回のようにこのバッグの上にカメラを置き撮影を行うこともある。
焦点距離は17mm、絞りはF10で撮影画面中央部の文字を拡大して検証する。
17mmの手ブレ補正が必要となる焦点距離は、1/焦点距離秒ということで、1/17秒。正直、この時点ですでに結構ブレを起こしてしまう焦点距離である。1/17秒の一段分は1/8.5秒(四捨五入で1/9秒)、二段分は1/4.25秒(四捨五入で1/4秒)、三段分は1/2.125秒(四捨五入で1/2秒)、四段分は1.0625秒(四捨五入で1秒)、五段分は2.125秒(四捨五入で2秒)、6段分は4.25秒(四捨五入で4秒)となる。今回は、撮影の都合上1/17秒から開始とすることができなかったが、始まりは1/17秒よりもさらに厳しい1/6秒からスタートとなった。
水平垂直がきちんと取れていないことはどうかご容赦いただきたい。床に座りバッグを足に挟んだ状態で鉄骨のフレームの上にテストカメラであるα7R Ⅳを置き、両手で支える状態で撮影。まず最初は1/6秒。1/6秒はすでに1.5段分に近い数字である。
<拡大(1/6秒)>
1/6秒くらいではなんていうこともなくきちんと止まる。
続いては1/3秒。1/3秒は2.5段分に値する数字だが拡大して見てみよう。
<拡大(1/3秒)>
1/3秒でもちゃんと止まっている。
続いて0.62秒おおよそ4段分に値する秒数だ。拡大して見てみよう。
<拡大(0.62秒)>
このくらいの秒数になると呼吸をするのを止めて撮影しているが、しっかり止まっている。
続いて1.3秒と数字的には4.5段分辺りの数字である。
<拡大(1.3秒)>
さすがに秒の単位に入ると少しの揺れでも気にかかる。しかもカメラが6100万画素とあってはちょっとのブレでも画に反映されてしまう。何度か失敗したあとコツをつかみ、止めて撮ることができた。
続いては2.5秒と数字的には5段分以上と言っていい数字になるが果たして止まるのか?
<拡大(2.5秒)>
これも何度か失敗のあとコツをつかみ、止まっている画を撮影できた。バッグの上に置いて撮影、というイレギュラーな検証ではあるが、2秒を超える画の手ブレを補正したということは十分な結果ではないだろうか。レンズ本体には手ブレ補正はないがボディ内の手ブレ補正がしっかり効いていることが証明できている。
これ以上は意味がないテストではあるが、ものはついでである。6段分以上の数字「5秒」にもチャレンジした。
↓
↓
<拡大(5秒)>
うん・・・やはりこれは無理だったようである。冷静に考えてみればバッグの上に置いていたとしても両手で支えていることには変わりないので、さすがに5秒は無理であろう。しかし、見方を変えれば5秒のスローシャッターでこれだけしかブレていないともいえる。
結論としては、テストカメラα7R Ⅳのボディ内手ブレ補正機能をタムロン17-28mm F2.8との組み合わせでも有効に使うことができるようだ。
【まとめ】「撮影の軽快さ」が実にタムロンらしい1本
このレンズを使ってみて、まずその軽さや小ささに驚くのだが、使い込んでいくうちに、別の部分が見えてくる。
カバーする焦点距離としては17-28mmと少し短めだが、14mmや16mmを選ばなかった理由として、あまり前玉を大きくしたくなかったのだろうということが理解できる。おそらく67φで作れるF2.8の広角ズームのスタートとしては17mmが限界であったのだろう。
しかし、カバーする焦点域を少し短くすることによりズーム全域で扱いやすい広角ズームレンズになっている。これは、上述した通り設計の「妙」でありユーザーに沿ったレンズ作りをするタムロンらしさが出ているところだと筆者は思う。
また、タムロン28-75mm F2.8とのつながりも考慮に入れての1本であるがゆえ、タムロン17-28mm F2.8とタムロン28-75mm F2.8を2本そろえて使うとタムロンらしさをより深く味わうことができるだろう。
ソニー純正のF2.8の広角ズームと比べた場合、純正レンズの焦点距離は16mmスタートと広角側では1mmの違い(正直、広角側の1mmは大きい)、望遠側は35mmと標準と言われる焦点域までカバーしている。そのほか、AFのスピードや開放~中間絞りの周辺解像は、純正に少し譲る。一方、本レンズは純正にはない味わいや、携帯性を含めた「撮影の軽快さ」があり実にタムロンらしいユーザーフレンドリーなレンズであると言える。あえて価格差の面は触れないが、それを抜きにしてもF2.8の明るい広角ズームをお探しの方は一度手で触れてみることをおすすめしたいレンズだ。