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UHS-III? SD Express? やや混乱気味のSDメモリーカード事情を考える

最近、「UHS-III」という言葉を聞くことが増えてきた。UHS-IIIのSDカードが発売されるのかと思ったら、ちょっと難しい事情があるようだ。次世代SDカードの行方は混乱気味? 何を選べばいいのか考えてみよう。

SDメモリーカード事情

SDカードのより高速な転送規格「UHS-III」「SD Express」

SDメモリーカードは、現在UHS-IIまでのカードが販売されている。UHSタイプのSDカードにはクラスごとに2種類の速度を持つカードが存在し、そのカードの速度は「バススピード・コントローラー」により決定され、例えばUHS-Iなら104MB/sの「SDR104コントローラー」と50MB/sの「SDR50コントローラー」のどちらかを使用する。書き込みに104MB/sを採用すれば高速タイプとなり、書き込みに50MB/sを採用すると普及タイプのSDカードになるわけだ。

現在最速のUHS-IIのバススピードは普及タイプが156MB/s、高速タイプが312MB/sで、これはCFexpressが書き込み1500MB/sを実現しているのに比べ遅いものとなってしまっている。そのため、書き込み最大624MB/sのUHS-III規格と、書き込み最大3940MB/sのSD Express規格が次世代のSDカードとして策定されることとなった。

SDカードにはスピードが2種類ある

現在発売されているSDカードはUHS-IやUHS-IIなどのクラスごとに、普及タイプと高速タイプの2種類が存在している。

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読み込み300MB/s、書き込み250MB/s
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読み込み250MB/s、書き込み130MB/s

CFexpress Type-Bカードの登場でSDカードもより高速化が期待されている

現在一番使われているSDカードだが、超高速なCFexpressカードの登場で、SDカードもより高速タイプの登場が待望されている。

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CFexpressカード (読み込み1700MB/s、書き込み1400MB/s)

下位互換のある「UHS-III」規格、高速だが互換性に乏しい「SD Express」規格

かつて速いと言われたCFカードは読み出し、書き込みともに150MB/sが高速タイプだった。現在のUHS-IIのSDカードからみればずいぶん遅い。そこで生み出されたのが超高速なCFexpressカードで、読み出し最大1700MB/s、書き込み最大1500MB/sを実現した。しかしCFカードとCFexpressカードには互換性がないという問題が生まれてしまった。どれほど高速でも、CFexpressカードはCFカードスロットのデジタル一眼レフカメラには使えないのだ。

SDカードでは、UHS-III規格は下位互換性を確保しているのだが、最高速は624MB/sほど。これはCFexpressカードに比べてずいぶん遅い。そのため、UHS-IIIカードは現在でも販売されていない。

一方、SD Express規格はというと、書き込みで最大3940MB/sを実現できるのだが、こちらは互換性の問題が出てくるのだ。どちらを選ぶかSDカードメーカーも決め手がなくて判断に困っているようだ。

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SDアソシエーションのWEBサイトで転送速度が確認できる。

SD Expressカードは互換性に問題が?

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開発中の「SD Express I SDXC 512GBカード」。

CFexpressより高速なSD Expressカードだが、形状はSDカードと同じなのに、互換性に問題が多いとされている。上の写真は開発中の「SD Express I SDXC 512GBカード」。このカードを実際にベンチマークソフトで計測すると、読み出し892MB/s、書き込み776MB/sと、今までのUHS-II SDカードとは比べ物にならない速さだ。

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「SD Express I SDXC 512GBカード」の速度。 (SD Express専用カードリーダーを使用)

 

さらにこちらのベンチマークも見てほしい。これは「SD Express I SDXC 512GBカード」をUHS-II環境で使用した場合の速度で、読み出しは48MB/s、書き込みは47MB/sと、大変遅くなってしまっている。UHS-IIとの互換性のなさがこうした混乱した事態を招いてしまうため、カードメーカーもSD Expressの発売にいまだに踏み切れないでいるのが現状なのだ。

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「SD Express I SDXC 512GBカード」をUHS-II環境で使用した速度。UHS規格との互換性がないためUHS-I以下のスピードになってしまった。

PCメーカーはUHS-IIIを選択してSDスロットを高速化

一方でPCメーカーは互換性を重視しているためUHS-IIIを選択した。各社の最新ノートPCは、すでにUHS-III SDカードスロットを搭載したモデルが相次いで発売されている。実際、下位互換性がありながら、カードスロットのバススピードが高速になったおかげで、UHS-IIのSDカードを使用しても今まで以上に高速に読み出しや書き込みが行なえるようになり、たいへん使い勝手が良くなっている。これからパソコンの購入を考える場合は「USB4」「Thunderbolt 4」対応Type-C端子を装備しつつ、さらにUHS-III対応のSDカードスロット搭載のものを選ぶのがマストとなるだろう。

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マウス DAIVシリーズのUHS-III対応SDカードリーダー
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MSI CreatorシリーズのUHS-III対応microSDカードリーダー

動画記録用にSDカードを購入するならビデオスピードクラスV60以上が安心

デジタル一眼カメラを使用して動画撮影をする機会が増えていると思うが、ひとことに4K動画と言っても記録方式と画質の設定により記録データの種類はさまざま。ここで注意してほしいのが、最近、特に4000万画素以上クラスのデジタル一眼カメラを使用して4K動画撮影を行なう場合、高画質な方向に設定するとV30のカードでは記録ミスのトラブルを起こすことが多くなっている。高画質設定で撮る4K動画はすでに8K動画と同等の扱いが必要と考えた方がよいだろう。次世代SDカードの姿がはっきりしない現在、SDカードを買うならV60、できればV90のものを選んでおくのが安心だ。

8Kの登場でより高性能なカードが必要に

4K動画記録には設定によりV6 / V10 / V30 / V60のカードを使用できたが、解像度の高い8KではV60 / V90と、より高性能なカードが求められている。

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SDアソシエーションのWEBサイトでは、動画の解像度と最適なビデオスピードクラスの組み合わせを紹介している。

SDカードのマークでスピードクラスがわかる

記録メディアには動画の最低書き込み速度を保証するビデオパフォーマンスギャランティーという規格が存在する。速度を示すマークは「C」(スピードクラス) から「U」(UHSスピードクラス) に、そして現在では「V」マークのビデオスピードクラスがメインになっている。V90は毎秒90MB/sの書き込み保証をするという証なのだ。

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SDアソシエーションのWEBサイトより。

発売中の高速なSDカード

4000万画素以上のデジタル一眼カメラだけでなく、マイクロフォーサーズ機やAPS-C機でも高画質な4K動画記録ができるカメラは多い。安全性を考えるなら、最低でもV60が必要だと覚えておこう。

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サンディスク Extreme PRO UHS-II V90 SDXCカード
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レキサー UHS-II V60 SDXCカード

 

最近見かけるようになってきた「A1」「A2」って何?

A1 / A2の「A」は「アプリケーションパフォーマンス」の略で、アンドロイド携帯に内蔵メモリの代わりにmicroSDカードが使用されたことに始まった。アンドロイドのスマートフォンや、最新のゲーム機器などで、後挿しのmicroSDカードを安心安全に使用できるようにした規格。A2が最新の規格で、A1の2倍の性能を実現している。

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A1はランダムリード1500IOPS、ランダムライト500IOPS
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A2はランダムリード4000IOPS、ランダムライト2000IOPS

※IOPSはハードディスクやSSDなどストレージの性能指標の一つで、ある条件下で1秒間に読み込み・書き込みできる回数のこと。Input/Output Per Secondの略。