PLやNDなどの風景に使うフィルターだけがフィルターではない。写真の色と雰囲気をアップさせてくれる「個性派フィルター」が、いま続々と増えている。その描写や使いこなしをプロ写真家に教えてもらった。新しい写真のヒントがここにある!
目次
- ソフトな光で映画のワンシーンのように「ブラックミスト」
- あえて解像度を低くしてにじませた不思議な世界「アルプスパンチ!」「なついろパンチ!」
- シャープな光のラインを発生させる「Streak Blue / Orange / Green」
鈴木さや香さん愛用のマルミ「アルプスパンチ!」「なついろパンチ!」
高解像化だけが写真として正しいわけではない
カメラの画質や写りが良いということが、必ずしも撮り手の思いを写真に反映できているわけではない。カメラは著しい進化を遂げ、カメラの性能に引っ張られるかのように、写真は低ノイズ、高解像度化されてきた。その一方で、若いユーザーたちがフィルムカメラという文化に親しみを持ち、あえて写りに特徴のあるオールドレンズを購入している。デジタルカメラは高解像度の写真、フィルムカメラは味のある写真と二分化してしまったかのようにも見える。
そんな背景を持つ現代に現れた、あえて解像度を低くするにじみの強いフィルターが「アルプスパンチ!」と「なついろパンチ!」だ。このオモチャやお菓子のような名前のフィルターは、最新の高解像度なデジタルカメラに装着したとしても、まるで壊れたカメラや変わったレンズで撮影したような妙な描写を演出してくれる。
ピントは合っているのかどうかわからないほどぼやけ (カメラやメーカーによってにじみ具合が異なる)、それぞれ緑と青の色味が強くなる。さらに、フレアやゴーストをふんだんに取り入れられ、写真に光をより感じられるフィルター設計となっている。
光の角度や向き、時間帯などで見え方ががらりと変わる「アルプスパンチ!」
参考価格 税込 6,860円 (46mm) 〜9,310円 (67mm)
サイズ 46mm、49mm、52mm、55mm、58mm、67mm
2つのフィルターは、対のように同時発売されたが、実はまったく構造は異なっている。「アルプスパンチ!」はグリーンが全体を覆い、広角レンズなら中央部は黄色く、周辺部は青色を帯びる。これは特殊コーティングで色を作っているためで、ガラス2枚の両面コーティングにより、フィルター同士の反射でゴーストやフレアを起こしやすくしている。
望遠になればなるほどにじみが強くなり、小さく写した被写体はさらに鮮明さを失っていく。また緑に傾倒しながらも、赤や濃いピンクなどの補色の色味が強く出るのも面白い特徴となっている。これにより従来のホワイトバランス設定のみで緑に傾倒した写真とは、大きく異なる写りとなる。
強い順光でも、色を優しく落ち着かせてくれる
季節外れのアジサイを順光で撮影。強い西日を受けると、影が黒く落ち込んでしまうが、アルプスパンチ! の緑ににじむ特性により、影も緑に落ち着くため、柔らかいイメージで撮ることができた。
撮影条件で色がかなり変化する
強い逆光の路地で使用。元々ホワイドバランスは「日陰」で7500Kほどになっていたが、アルプスパンチ!の色味が加わりさらに黄色く輝いた。鮮明さが消えたことで、意図していない部分に視線を持っていかれない効果もある。
フィルターなし |
アルプスパンチ!使用 |
夏を思わせるブルーで写真を彩る「なついろパンチ!」
参考価格 税込 7,750円 (46mm) 〜11,970円 (67mm)
サイズ 46mm、49mm、52mm、55mm、58mm、67mm
一方「なついろパンチ!」はブルーの色味が写真全体を覆う。特殊な色ガラスで色を出しており、アルプスパンチ!とは色の出方が異なる。
色ガラスとソフトフィルターをサンドイッチ状に挟む3枚構成で、この色ガラスは青を強調しながらもほかの色の波長バランスを極端に損なわない特性を持ち、「アルプスパンチ!」とはかなり違う写りの写真となる。
白く飛び気味の空に色を加える
薄い曇り空で、ところどころ夏の日が差していた。こういう日は、逆光気味だとさらに空が白く飛んでしまう。しかし、なついろパンチ! を使うことで、うっすらと空に青色がのり、密度のある写真にすることができた。
グレーや影の多い被写体に使用すると効果的
「なついろパンチ!」は青い被写体に使用するよりも、グレーや影の多い被写体に使用するとその効果がよくわかる。道路や壁、木の葉や影など青い色味で統一化することにより、カラフルな色に視線が行かず、より空気感を表現しやすい。
フィルターなし |
なついろパンチ!使用 |
写真を撮るという行為を楽しめる不思議なフィルター
両者ともリアルな自然の色とはかけ離れた色味となるため、これらを使用するときは、自分の見方をイメージ世界に切り替える必要がある。
そもそも、加工ができる時代にこんなフィルタ―は必要なのか? という疑問を感じるかもしれないが、撮影する瞬間がすべてであると考えられると、写真に潔さと満足感がにじみ出てくる。それが、写真を撮るという行為をさらに楽しいものにしてくれるはずだ。自分と瞬間、そして偶然をていねいに結んでくれる不思議なフィルターをぜひ試してみてほしい。
鈴木さや香さんが試してほしいフィルターの組み合わせ
マルミ StarScape
参考価格 税込 4,410円 (49mm) 〜13,440円 (82mm)
サイズ 49mm、52mm、55mm、58mm、62mm、67mm、72mm、77mm、82mm、M100
マルミ DHG レトロソフト
参考価格 税込 2,200円 (37mm) 〜4,620円 (77mm)
サイズ 37mm、40.5mm、46mm、49mm、52mm、55mm、58mm、62mm、67mm、72mm、77mm
夜景の不要な街明かりなどを抑える「StarScape」と、オールドレンズのような風合いの「レトロソフト」を組み合わせると、日中でもある程度にじみを得ながら、透き通るようなブルーが強調された写真を撮ることができる。「StarScape」は黄色やオレンジなどの光害だけを吸収し、赤をきれいに表現できるため、透明感を感じる写真になる。
※参考価格は記事公開時点の量販店価格です。