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いままでありがとう、カシオ! コンデジ黎明期を支えたカシオがデジタルカメラの歴史に幕

2018年5月15日、カシオ計算機が公式WEBサイトでデジタルカメラの生産終了を発表した。コンパクトデジタルカメラ市場からの撤退は、5月9日に行われた2018年3月期の決算発表の中で表明されていたことから、今後の動向が注目されていた。

 


CP+2017のカシオブース。

 

カシオ計算機(以下カシオ)は、1995年に世界で初めて液晶モニターを搭載した一般向けデジタルカメラ「QV-10」を発売した、デジタルカメラの先駆者でもある。「QV-10」の発売当時、すでにデジタルカメラはいくつか存在していたが、撮った写真を液晶モニターによってすぐに確認でき、またパソコンに画像を取り込めるという新しさは、Windows95やインターネットの登場もあって、当時はカメラファン以外にとっても魅力的な入力機器となった。レンズ部分を回転させることができるデザインも斬新で、ファインダーをのぞく従来のカメラとは異なり、撮影スタイルにも大きな影響を与えたモデルだ。

カシオQV-10
「QV-10」はデジタルカメラの普及に大きく寄与したものとして、国立科学博物館が主催する平成24年度重要科学技術史資料(未来技術遺産)にも登録されている。

 

「QV-10」で現在のデジタルカメラの礎を築いたカシオは、その後も数多くの新しいコンセプトの製品を発売してきた。2002年には初代EXILIM(エクシリム)として超薄型のカードサイズデジタルカメラ「EX-S1」発売。名刺入れに入るほど薄く小さいカメラの登場は衝撃的だった。

カシオEX-S1
ちなみにブランド名のEXILIMはラテン語の「並外れた」「驚き」を意味する「Eximius」(エクシミウス)と、英語の「Slim」(スリム)を合体させた造語で、究極の薄さのデジタルカメラという意味が込められている。その後エクシリムは、高倍率モデルや高速連写モデルなど細分化を進めながら進化し、100以上のモデルを展開した。

 

カシオのデジタルカメラをさらに印象付けたのは、ボディの液晶画面とフレーム部分が回転する “エレメントスタイル” を採用したEXILIM TRシリーズだろう。2011年に登場した「EX-TR100」は、香港の人気モデルが自撮りに使ったことがきっかけとなって、中国や台湾を中心にアジア圏のSNSで話題となり、爆発的なヒット商品となった。

カシオ EX-TR100
「EX-TR100」は、中国では “自拍神器(自撮り神器)” と呼ばれるまでになり、日本でも中国からの観光客が買い求めるなどしたため、供給不足となってプレミアム価格がつくほどだった。また、後継機種の「EX-TR150」(2012年発売)も事前予約の段階で予定の生産台数に達したため、発売前に日本国内向けの生産・販売の終了を告知するという異例の事態になった。

 

レンズとモニターが分離する「EX-FR10」(2014年発売)の登場も衝撃だった。アウトドアでの使用を想定したアクションカムのようなモデルで、EXILIM Outdoor Recorder(エクシリム・アウトドアレコーダー)というシリーズで展開。その後、円周魚眼レンズ搭載モデルや高感度モデルも登場し、同社のスマートウォッチとの連携も図られた。

カシオ EX-FR10
CP+2015のカシオブースでは、自撮り棒との組み合わせなど「EX-FR10」のさまざまな活用法が紹介されていた。

 

2017年10月に発表された「G’z EYE GZE-1」は、腕時計のG-SHOCK風デザインとともに、優れた対衝撃性、対低温性、防塵防水機能を備えたタフネス性能が特徴のカメラ。ウェアラブルカメラやアクションカムといった競合とは一線を画した新ジャンルの製品としてアピールしていた。

カシオ G'z EYE GZE-1
「G’z EYE GZE-1」本体には液晶モニターが搭載されておらず、別売りの液晶コントローラーやスマートフォンで操作するスタイル。

 

ワールドワイドで見ると、中国市場の動向の影響は小さくないだろう。中国で爆発的な売れ行きを見せていた “自拍神器” のTRシリーズだが、高性能なカメラ機能を搭載したスマートフォンの登場と普及がコンパクトカメラとの差を縮め、差別化を難しくしたというのが撤退の要因の一つになったと思われる。

カシオは2008年にカメラ機能を重視した携帯電話「EXILIMケータイ」を国内で展開し、携帯電話との親和性を一足早く進めていた。その後、携帯事業から次々と日本企業が撤退していったこともあり、スマートフォン市場ではiPhoneをはじめ、サムスンやファーウェイの製品がカメラ機能を年々向上させてきた。

コンパクトデジタルカメラを中心とするレンズ一体型デジタルカメラの出荷台数は、2008年に世界で約1億1000万台を出荷したのがピーク。しかしスマートフォンのカメラ機能が高性能化したことなどにより出荷台数は年々減少し、2017年は約1330万台まで落ち込んでいる(出典:カメラ映像機器工業会/CIPA)。2007年に創業50周年を迎えた当時、カシオの連結決算は6300億円で、デジタルカメラや携帯電話事業がそれを牽引していた。2018年3月期決算ではデジタルカメラ事業の売上高は、前年同期比で34%減の123億円(赤字49億円)となっている。

カシオはデジタルカメラの新製品を投入するも市場の大幅な縮小により低迷を余儀なくされ、コンパクトデジタルカメラ市場から撤退することで赤字体質から脱却を図ることとなったが、今後は独自技術、ノウハウを活用した新しい事業領域創造へ向けて、BtoBでの展開を続けていくこととなる。製品を目にする機会は減ることになるが、どんな分野で活躍し続けるのか、その動向に注目したい。

 

※修理等のアフターサービスについては、同社規定に基づき、これまで通り対応するとのこと。

 

 

〈文〉柴田 誠