「写真は進化する」をコンセプトに、2018年9月5日に発表されたキヤノンのフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」。ニコンZシステムの発表から間を置かずに登場した「EOS Rシステム」が目指すものを、発表会の会見から読み解いてみよう。
■REIMAGINE OPTICAL EXCELLENCE
会見の前に流されたEOS Rイントロダクションムービーより。ムービーやカタログには「REIMAGINE OPTICAL EXCELLENCE」という言葉が象徴的に登場する。
■撮影領域のさらなる拡大を目指す
「EOS R」の発表会は、キヤノン株式会社代表取締役社長 COOの真栄田雅也氏(中央)、キヤノンマーケティングジャパン株式会社代表取締役社長の坂田正弘氏(右)、キヤノン株式会社ICB製品開発センター所長の海原昇二氏(左)らが出席して行われた。
真栄田氏は「EOS R」の導入について、「撮影領域の拡大」を目指して、EOSの基本思想である快速・快適・高画質を実現するものであると繰り返し語った。キヤノンの「EOSシステム」には内径54mm・フランジバック44mmのEFマウントをベースに、35mm判フルサイズイメージセンサー対応のEFレンズ、APS-Cサイズのイメージセンサーに最適化するよう開発されたEF-Sレンズ、ミラーレスカメラEOS M用に開発されたEF-Mレンズ、EFマウント仕様ではあるが、動画撮影に特化したEFシネマレンズ(CN-Eレンズ)などが存在する。RFマウントの登場は、今までは作ることができなかったレンズを開発し、「撮影領域の拡大」を実現するための選択だったということが示された。
■EOS Rを支える3つの要素
キヤノンの強みとして挙げられたのが、レンズ、映像エンジン、センサーを自社で開発・生産している点だ。高画素のセンサーだけがあっても高画質は得られないし、レンズの光学性能を活かすためには画像処理エンジンが不可欠ということ。「EOS Rシステム」の高画質は、新開発のRFマウントレンズに加えて、最新の画像処理エンジンDIGIC8、約3030万画素のフルサイズCMOSセンサーの三位一体によって支えられている。
■撮影領域の拡大を実現するためにミラーレス化が必要だった
「EOS Rシステム」の特徴として4つのポイントが挙げられた。EFマウントから継承した内径54mmの大口径マウント、ミラーレスによって得られるショートバックフォーカス、そして新マウント通信システム、豊富なEFレンズ資産の活用だ。「撮影領域の拡大」を実現する理想のレンズ設計のために、ショートバックフォーカスを得られるミラーレス化が必要であり、それによって高度なマウント通信システムが実現できたと言える。またマウントアダプターを開発することにより、70本を超えるEFレンズを「EOS Rシステム」で使うことができるようになっている。
■従来システムもフルラインナップで提供
「EOS Rシステム」は、次の30年に向けて伝統と技術を継承し、新たな可能性を追求するものであるという紹介があった。1987年3月に誕生したEOSシリーズは、世界初の完全電子マウント方式を採用したAF一眼レフカメラとして、交換レンズのEFレンズとともに昨年30周年を迎えた。そして銀塩とデジタルの双方を合わせたその累計生産数が、2017年9月20日に30年をかけて9,000万台を達成した。またEFレンズは、10月12日に累計生産数1億3,000万本を達成したという背景があるからだ。
キヤノンにはEF、EF-S、EF-Mといくつものレンズシステムがあるが、「EOS Rシステム」が登場してもそれらをフルラインナップで提供していくことに変わりはないことも示された。
■RFマウントはフルサイズだけではない?
「EOS R」とRFレンズの特徴として挙げられたのは、高画質・高性能AF・操作性・動画性能の4点。12ピンの電子接点を採用する新マウント通信システムにより、通信速度が飛躍的に向上している。フォーカスや絞り、手ブレ補正、諸収差などのレンズ情報を、瞬時にカメラ側へ伝達することで、高画質化に大きく貢献している。
キヤノンが求める高画質を支えているのは、新マウント通信システムによって得られるさまざまな情報とそれを処理する映像エンジンの性能ということになる。まさにキヤノンの強みであるレンズ、映像エンジン、センサーが一体となることで、それらの相乗効果が生まれ、高画質が実現されているのだ。質疑応答では、RFマウントはフルサイズに特化したものなのかという質問があったが、EFマウントにもAPS-Cセンサーに特化したFE-Sレンズがあることを挙げ、フルサイズ以外の開発にも含みをもたせた。
■AFエリアは約88%×約100%をカバー
「EOS R」に搭載されているフルサイズのセンサーは、各画素が撮像と位相差AFの両方を兼ねるデュアルピクセルCMOS AFとなっている。AFエリアは撮像面の約88%(横)×約100%(縦)をカバーし、世界最速0.05秒の高速AFを実現。また、AFの低輝度限界は、世界初のEV−6を達成し、暗いシーンでの高精度な合焦を可能にしている。
■コントロールリングとマルチファンクションバーを新搭載
「EOS Rシステム」で新たに採用された「コントロールリング」と「マルチファンクションバー」は、操作性を大きく向上させるものとして注目される機能だ。「コントロールリング」と「マルチファンクションバー」には、ISO感度やホワイトバランスなど、使用頻度の高い機能を割り当てることができ、ファインダーから目を離すことなく設定の変更や操作を行えるので、撮影に集中することができる。ただし、従来のシステムになかったものだけに、使いこなすには慣れが必要だろう。
「EOS R」では、動画性能も大きく向上している。これらもレンズ、映像エンジン、センサーが三位一体となることによって得られた「撮影領域の拡大」の実現といえるだろう。
■なぜフルサイズなのか?
「EOS R」のターゲットユーザーは、フルサイズカメラを使うユーザーと、APS-Cカメラを使うユーザーの両方と定めて国内の販売戦略を展開していくと、坂田氏から説明があった。キヤノンによると、フルサイズセンサー搭載カメラの80%以上のユーザーが、次の機種を選定する際にもフルサイズを選ぶ、また、APS-Cカメラユーザーが買い替え・買い増しする際には、70%のユーザーがフルサイズを希望する、というデータに基づくものだ。あくまでカメラユーザーを前提としており、スマートフォンからのステップアップといったことについては触れられなかった。
■F2.8ズームレンズも開発中
発表会で示されたRFレンズロードマップ。4本のレンズと4つのマウントアダプターのほかには、F2.8Lズームの開発が行われているということにとどまった。どのようなレンズがどんな順序で登場するのか、キヤノンの本気が示されるのを待ちたい。
■今後の展開
さまざまなジャンルの14人の写真家が「EOS R」を紹介していくことが発表された。EOS Rシステムの感想を語るスペシャルムービーが、ブランドサイトで紹介されている。
キヤノンでは、カメラやレンズがその性能・機能を十分に発揮し、最良の状態で使用できるようにする「あんしんメンテ」を実施している。「EOS R」は製品を分解し、内部の状態まで細かく検査・清掃、再調整を行い、製品本来の精度・機能を回復する「あんしんメンテオーバーホール」に対応することが発表された。
EOS Rシステムにいち早く触れることができるセミナー&体験会「EOS R SYSTEM PREMIUM SESSION」が、2018年9月15日(土)の東京・品川会場をはじめとして全国11か所で開催される。写真家や開発者によるセミナー、実機撮影体験などが行われるほか、ステッカーやクリアファイルなどの来場特典もある。
〈写真・文〉柴田 誠 〈写真〉青柳敏史