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著名写真家の名を冠した写真賞の受賞者が相次いで決定

写真家の名を冠した注目の写真賞「木村伊兵衛写真賞」「土門拳賞」「林忠彦賞」の受賞者が相次いで発表された。写真展や写真集を見て心に残っていた写真家が選ばれると、自分の感性もまんざらじゃないと嬉しくなったりもする。

 

岩根愛さん、高橋智史さん、野村恵子さん

▲左から、第44回木村伊兵衛写真賞を受賞した岩根愛さん、第38回土門拳賞を受賞した高橋智史さん、第28回林忠彦賞を受賞した野村恵子さん。

 

■第44回木村伊兵衛写真賞

岩根 愛『KIPUKA』より

▲岩根 愛『KIPUKA』より

 

第44回木村伊兵衛写真賞は、事前に発表されていた6名の候補から岩根愛さんに決まった。受賞対象作は写真集『KIPUKA』と展示「FUKUSHIMA ONDO」だ。

岩根さんは仕事で行ったハワイで、かつてこの地にも日本人移民がたくさんいたことを知る。その後、盆踊りを通じて福島とハワイの日系人がつながっていく。共に故郷を失った人たちでもある。盆踊りという場を通じて、人の営み、歴史、文化、そして人が生きる上で大切な“土地”の意味を問いかけてくる。

撮影には35mmカメラだけなく、ハワイで愛用されていたコダックのパノラマカメラも使うほか、興味深い写真も発掘している。受賞作品展は2019年4月23日(火)から東京・ニコンプラザ新宿 THE GALLERY、6月13日(木)からニコンプラザ大阪 THE GALLERYで開催される。

 

■第38回土門拳賞

高橋智史『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人びとの願い』より

▲高橋智史『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人びとの願い』より 2017年2月15日・プノンペン

 

第38回土門拳賞は、カンボジアに拠点を移し、市井の人たちと暮らしながらこの国の問題を捉えてきた高橋智史さんが選ばれた。2007年4月からプノンペンに住み、生活や文化、社会問題を取材。近年は強権支配が続く政府に対抗する市民たちの姿や、人権問題を中心に取り組んでいる。

高橋さんは、昨年には『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人びとの願い』を写真集にまとめ、写真展でも発表した。受賞作品展は東京・ニコンプラザ新宿 THE GALLERYで2019年4月16日(火)〜22日(月)に開かれる。賞金30万円が贈られるほか、受賞作品は山形県酒田市の土門拳記念館で永久保存される。

 

■第28回林忠彦賞

野村恵子『Otari - Pre stine Peaks 山霊の庭』より

▲野村恵子『Otari – Pre stine Peaks 山霊の庭』より

 

第28回林忠彦賞は、野村恵子さんの写真集『Otari – Pre stine Peaks 山霊の庭』(2018年11月 スーパーラボ刊)に決まった。野村さんは出会った土地や人を通し、生と死のあわいを見つめ、イメージに定着させてきた。今回、導かれるように行き着いた場所は長野県小谷村だ。

4年ほどかけてこの村に通い、山の自然を敬い、畏れながらもたくましく生きる人々の姿を切り取ってきた。都市では見えづらくなっている命と向き合うこと、命をつないでいくことの在り様を示している。

選考委員長の細江英公さんは、“インパクトのある良い作品。山に暮らす人々や狩猟で撃ち殺された動物たちの姿が印象的で、現代では目にすることの少なくなった直接的な命のやりとりがある”と評価している。

受賞記念写真展は2019年4月19日(金)~25日(木)富士フイルムフォトサロン東京、2019年5月11日(土)~19日(日)周南市美術博物館で開かれる。
 

 
〈文〉市井康延