キヤノンは、非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズの発売から、今年で50周年を迎える。
■非球面レンズとは?
非球面レンズは、球面ではない曲面形状で諸収差を補正し、光を一点に集めるのに理想的な曲面を持つレンズのこと。面が球面のレンズでは、光を完全に1点に収束させることができずに「球面収差」が発生する。これを補正するには、複数枚の球面レンズを組み合わせる必要があるが、非球面レンズを1枚採用することで、球面レンズ複数枚と同程度の補正効果を得ることができる。
■キヤノンが取り組んだ非球面レンズの歴史
高性能レンズの研究開発に取り組んできたキヤノンは、非球面レンズの開発に1963年から着手。1971年には、非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「FD55mm F1.2AL」を発売。その後も「RF28-70mm F2 L USM」(2018年12月発売) や「RF15-35mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」(2019年11月発売) などに非球面レンズを採用し、高画質を実現してきた。
放送用レンズや半導体露光装置、天体望遠鏡など、幅広い光学製品でも活用されており、国立天文台ハワイ観測所に設置されている「すばる望遠鏡」の主焦点カメラ用補正光学系には、キヤノンの非球面レンズが搭載されている。
■非球面レンズの加工技術
キヤノンの非球面レンズ加工技術は、ガラスを削って磨く「研削非球面」、非球面の金型でガラスを直接プレスして成形する「ガラスモールド非球面」、非球面の金型で球面ガラスの面上に非球面の樹脂を形成する「レプリカ非球面」、非球面の金型に樹脂を充填して成形する「プラスチックモールド非球面」の4種類。レンズの特性や位置づけに応じて非球面レンズを適材適所に配置して、高性能なレンズを提供している。
また、レンズの加工機も独自に開発して、高精度な非球面レンズの製造を実現。設計や加工方法を繰り返し検討し、試作を重ねて非球面レンズの量産技術を確立してきた。
■量産化に向けた取り組み
1971年3月に発売された「FD55mm F1.2AL」は、「研削非球面レンズ」を採用した。1973年には超精密非球面研削機「ALG-Z」を開発してレンズの加工精度を向上させ、1985年には大口径の「ガラスモールド (GMo) 非球面レンズ」の実用化に成功する。1985年12月に「GMo非球面レンズ」を採用した「New FD35-105mm F3.5-4.5」を発売。以降も研究開発を進め、非球面レンズの成形・測定技術はキヤノンの高性能レンズを実現する重要な技術のひとつとなっている。
キヤノンのWEBサイト「キヤノンカメラミュージアム」では、非球面レンズに関する技術や歴史などが詳しく紹介されたコンテンツも公開されている。