写真の町、北海道東川町を舞台に熱戦が繰り広げられる「写真甲子園」。
今年は過去最多の533校からの応募があり、初出場校も多い大会となった。長い歴史を持つ写真甲子園で、今大会から初のミラーレス機が選手たちに貸し出され、大会期間中、選手の良き相棒になった。3年ぶりのリアル開催となった大会に密着した!
「心」「技」「眼」をキーワードに体力も精神力も必須な3日間の撮影競技
2022年7月26日から29日、新型コロナウイルスの影響で3年ぶりに北海道・東川町で開催された写真甲子園 (全国高等学校写真選手権大会) の本選大会。
今年は過去最多となる533校の応募校の中から各ブロックでの予選を勝ち抜き、本選出場権を獲得した高校写真部が日本一の座を賭けて戦った。今大会は18校 (内1校欠場、1校途中棄権) で6校が初出場を果たし、全員が留学生の学校や、部が結成されてから3か月の学校など、例年では珍しい顔ぶれとなった。
開会式にて審査委員長の立木義浩氏は「作られ過ぎた写真よりも、スマホで普段何気なく撮っているような生き生きとした写真が見たい。縦横無尽に暴れてほしい」と話し、北海道でいかに自分たちの持っている実力を出し切れるかが勝負のカギとなる。
撮影競技中の3日間には2つのテーマが与えられ、それに応じて用意されたステージで撮影を行ない、セレクト、そしてプレゼンテーションという作業を繰り返す。大人顔負けのハードなスケジュールを毎日をこなしていかなければならない。
写真甲子園とは
主なルール
撮影時の記録画質はJPEGラージ・ファインのみ。
クリエイティブフィルターの使用、アスペクト比の変更、画像のトリミングは禁止されており、撮影後の画像加工も一切禁止。
ただ、撮影時のホワイトバランスとピクチャースタイルの変更は可能。また、監督が選手のカメラのファインダーを覗いたり、撮影画像を確認したり、撮影機材に触れたりすることは厳密に禁止されており、選手の自主性を大切にしたアドバイスのみが許される。
使用機材
大会中、参加校にはキヤノンマーケティングジャパンからEOS RPとRF24-105mm F4-7.1 IS STMが各3台、ほかにRF24-240mm F4-6.3 IS USM、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、ストロボなどが貸与される。
撮影テーマ
撮影競技が行なわれる3日間、提出作品には公開審査にあたって2つのテーマが与えられる。 今年は撮影1日目のファースト公開審査のテーマが「きらきら」、撮影3日目のファイナルは 「つながり」。
審査について
審査員は6名。写真家の立木義浩氏、鶴巻育子氏、公文健太郎氏、中西敏貴氏、須藤絢乃氏、鵜川真由子氏。「心」「技」「眼」の3つの要素をもとに、テーマ性、技術力・構成力、表現力・独創性の観点で採点が行なわれる。
いよいよ撮影スタート!
1チーム3名で戦う写真甲子園は、広い撮影エリアを攻略するための作戦、そしてチームワークが重要になってくる。そこに、スケジュールをこなすためのハードな肉体・精神力も求められる。
撮影1日目
撮影地:上富良野町・美瑛町
初日は天候にも恵まれ“北の大地 ”を体感できる 撮影ステージ。広大な撮影エリアを回るため3人 がバラバラになって行動する学校や、相談しながら撮影する学校も。
撮影2日目
撮影地:旭川市・東神楽町・東川町
早朝から長時間に及ぶ撮影で、終わったのはなんと18時!猛暑の中、選手たちは夢中で撮りまくっていた。
大会3日目
撮影地:東川町
最終日の撮影エリアは開催地・東川町。宿舎から自由に撮影をスタートすることができる ので、なかには4時起きで撮影する学校など、最後まで諦めない姿が印象的だった。
セレクト会議
撮影した後は2時間のセレクト会議。 パソコンとプリンターを使って公開審査会に提出する8枚の組写真を作り、 タイトルを決め作品へと仕上げていく。監督の先生は20分間だけアドバイスが可能。ここでも選手3人のチームワークが求められる。
審査会
審査会では審査員や全出場校の前に出て、まず選手が1分以内でプレゼンテーションを行ない、そのあと審査員が講評する。作品の審査は6名の写真家が担当し、選手たちの作品と向き合った。毎年、立木氏の厳しくも温かいコメントに選手が一喜一憂する場面だ。
作品を講評する言葉の中に、選手を鼓舞する厳しいワードが混じり、選手たちも日を追うごとに「写真の見せ方」をブラッシュアップさせていた。
さて、選手は最終日のファイナル審査会でどのような作品を仕上げてきたのだろうか。
次のページで各学校作品と本戦大会の結果を紹介する!
優勝 北海道知事賞
大阪府立生野高等学校
左から吉田允彦先生、白石琴乃さん、難波歩さん、渡辺大翔さん。大会について「いろいろ悩んだけれどチームワークで撮影することができた。この3人で来ることができて良かった」と笑顔を見せた。審査委員長の立木氏は「モノクロ写真がうまい。日ごろの鍛錬が生きていて、東川町ならではの写真がある」と評価した。
『いつまでも』
準優勝 北海道新聞社賞
沖縄県立沖縄工業高等学校 『生きる』
キヤノンスピリット賞
審査員講評:明るくて広大な“夏の北海道”のイメージにとらわれる事なく、撮影ができている。組写真の表現が上手く、作品に物語を感じることができた。光を意識したユーモアのある写真がアクセントになっている。
「優しさとたくましさがこの地には根付いていた」
選手/平良有理佳、小林沙樹、屋比久樹里
監督/新垣純
東川町長賞
富山県立富山中部高等学校 『最後の地球人』
審査員講評:初戦の時からやってきた“自分達の世界”が表現されている。作品の中に深読みさせたり、考える余地を与えたりする写真が魅力的だ。見る人に突きつけるものがあった。
「最後の地球人が僕を見つめている」
選手/羽根千絵、中陣凜子、土屋森路
監督/川井裕幸
美瑛町長賞
北海道岩見沢東高等学校 『Blood』
審査員講評:日頃から練習している技術が生きている作品。間接的な写真だけではなく、見る人にイメージを膨らませる仕掛けがあるので、想像力を掻き立てられた。
「自分のルーツについて考えた」
選手/河原昌寛、小泉清志郎、宮本陽和 監督/村中秀樹
富良野町長賞
東京都立八丈高等学校 『かんじるもの』
審査員講評:写真の構図が面白いし、いい表情を撮っている。組写真の中に可愛らしさや不気味さなど、ギャップのあるバラバラな魅力がある。素敵な写真だけではなく、リアルな人間が表現されている。
「つながりって形が無いものなんだな」
選手/小宮山夏実、沖山礼哉、奥山ゆめ
監督/田崎公理
東神楽町長賞
愛知県立小牧南高等学校 『My style』
審査員講評:北海道の緑色と制服のイメージが相まっている。ありきたりな“青春”を表現したのではなく、構成力や美意識が光っている。寄りと引きのバランスが心地よい作品。
「北海道には声、音、におい、味、色があった」
選手/伊藤芽生、石田希颯、小田那津子
監督/堀﨑美和
旭川市長賞
沖縄県立嘉手納高等学校 『大切な時間~story』
審査員講評:元気やノリ、勢いが溢れた作品。北海道なのに沖縄を感じる事ができる点が、他の学校には真似できない事。写真が面白いことをもっと伝えてほしい。
「一度会ったら兄弟。みんなで過ごしたつながり」
選手/岸良愛天音、玉城樹希弥、眞榮田愛梨
監督/仲村ちはる
敢闘賞
北海道札幌稲雲高等学校 『ほかほか北海道』
「8枚には収まらない素敵な出会いがあった」
選手/百々柚花、丸子さくら、宇野鈴菜
監督/鈴木克幸
仙台市立仙台工業高等学校 『変わる 変わらない~コロナ禍になっても~』
「今のまま、ありのままを撮影した」
選手/佐竹恵人、伊藤咲光、日下志遠
監督/福島隆嗣
埼玉県立戸田翔陽高等学校 『いつまでも』
「この日常が続いてほしい」
選手/野口紗英子、岩井優志、魚谷桃花
監督/嘉成駿介
埼玉栄高等学校 『継ぎ~手から手へと伝わる歴史~』
町民が選ぶ特別賞(ファイナル公開審査会)
「心を繋ぐ120年続く装飾工業」
選手/樋口愛唯、森田夏未、後藤晴香
監督/上村亮太
神奈川県立逗葉高等学校 『一期一会』
「きっともう会えないけど“またね”と手を振った」
選手/石井うらら、中村りあん、大橋桜花
監督/鬼頭志帆
豊川高等学校 『木曜、10時、旭川』
「“なか”は暖か、ここは田舎さ」
選手/物部煉太郎、渥美満優子、中野龍
監督/水野勝之
大阪府立工芸高等学校 『この先に』
「静かな北海道で、家族への愛情を感じた」
選手/北口一香、飯田紗月、松尾春華
監督/梅澤和寛
山口県立下松高等学校 『運命~命を運ぶ~』
「今日も彼らは命を運ぶ」
選手/清水優心、松本七海、吉川桜優
監督/田中星子
済美高等学校 『「えつこさん」てよんで』
町民が選ぶ特別賞(ファースト公開審査会)
「素敵な出会いにありがとう」
選手/松村愛梨、アフザールマリナ、日野向日葵
監督/福岡稔
大会を終えて
感染症対策の影響で例年とは違い、簡略化された大会となり、生徒同士の直接的な交流が避けられ、参加できなった2校 (内1校欠場、1校途中棄権) は来年の大会に招待されることが決まった。
全国から「写真が大好きな高校生」が一度に集結する大会は少なくなってきている。そんな中、自分と同年代が頑張る姿や「同一条件」で生み出される作品を通しての交流は、地元では味わうことのできない良い刺激になったのではないか。
通常個人での戦いである写真だが、写真甲子園で は3人で戦う。チームだから撮れた写真があることや、3日間写真漬けになった経験をぜひ今後も生かしてほしい。北海道で選手たちの「暴れた」姿はプロそのものだった。
レポート/中丸ひなこ
取材協力/キヤノンマーケティングジャパン株式会社