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シベリア収容所の知られざる内側に迫る 野町和嘉写真集『シベリア収容所1992』

野町和嘉さんの写真集『シベリア収容所1992』が発売された。

野町和嘉写真集『シベリア収容所1992』

■収録内容 (タップ/クリックで拡大します)

 

野町さんがシベリアにある2か所の収容所を訪れたのは、ソビエト連邦が崩壊した翌年のこと。以前のこの国は、浮浪者や無職の既婚女性など市民を強制連行できる法律があり、労働力として活用していた。囚人は8時間労働が課せられ、交代制で終日稼働していたそうだ。

女性刑務所には託児所もあり、収監後に生まれた幼児などが預けられている。愛くるしい表情を浮かべる子どもたちだが、この何人かは成人して収容所に戻ってきてしまうという。

ページ後半、男性収容所に場が移ると雰囲気が一変。カメラに射るような視線を送る男たちが多く、実際、取材者が人質に取られた事件も起きている。野町さんはカラーとモノクロを使い分け、囚人たちの日常や不意に見せる感情の機微を写し込んでいく。

今回、写真集にまとめたのはウクライナへの侵攻で、受刑者から兵士を募っているとの情報を得たからだ。国家とは、国民とは何か。対岸の火事ではなくなるかもしれない。

野町和嘉写真集『シベリア収容所1992』

体裁 A4判変型・112ページ
価格 3,300円(税込)
発売日 2022年10月24日
発行元 クレヴィス

 

野町和嘉 (Kazuyoshi Nomachi)

1946年、高知県生まれ。杵島隆に師事した後、1971年にフリーの写真家となる。1972年のサハラ砂漠への旅をきっかけにアフリカを広く取材する。1980年代後半からは、過酷な風土を生き抜く人々の営みと信仰をテーマとして舞台を中近東、アジアに移し、長期の取材を続ける。2000年代以降は、アンデス、インド等を中心に取材。『サハラ』『ナイル』『メッカ巡礼』『チベット』など多くの写真集が国際共同出版される。東京、ローマ、ミラノ、台北ほかで『聖地巡礼』展を開催。土門拳賞、芸術選奨文部大臣新人賞などを受賞。2009年紫綬褒章受章。日本写真家協会会長。
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〈文〉市井康延