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初めて明かされる開発秘話が熱かった! カメラグランプリ2023贈呈式レポート

カメラ記者クラブが主催する「カメラグランプリ2023」の贈呈式が、2023年6月1日「写真の日」に都内で開催された。

カメラグランプリ2023贈呈式レポート

 

会場には「カメラグランプリ2023」大賞をはじめ、レンズ賞、あなたが選ぶベストカメラ賞、カメラ記者クラブ賞の各賞を受賞したメーカー7社の代表者と選考委員、雑誌代表者が集まった。カメラ関係者が一堂に会するのは、「写真の日」のイベントならではのことだ。

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「カメラグランプリ2023」実行委員長の永原耕治さん (『風景写真』編集長) が、各賞の受賞理由と選考経過を説明した。

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カメラ映像機器工業会 (CIPA) 事務局長の伊藤毅志さんが祝辞を述べた。CP+が4年ぶりにリアル開催できたこと、GWには観光地に多くの人が笑顔で戻ってきて、かなり平常化してきたと感じていること、また、新製品の登場もあって4月の出荷統計が伸びており、市場も戻りつつあると感じていると語った。

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TIPAのチェアマン、トーマス・ガーヴァースさんからのビデオメッセージが披露され、いよいよ各賞の贈呈式がスタートした。

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大賞「ソニー α7R V」

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液晶モニターとAIプロセッサーに奮闘、次の製品の開発もスタートしている

α7R Vはテクノロジーに非常にこだわりを持って世の中に出すことができました」と語ったのは、受賞盾を受け取った大島正昭さん (ソニー イメージングエンタテインメント事業部 事業部長)。やっと製品に投入することができた4軸マルチアングル液晶モニターが感慨深かったとコメントした。どうしても小型・薄型にしなければいけないというソニーとしての思いがあり、何度もダメ出しを繰り返してようやく実現できたのだそうだ。また、この機種から搭載された「AIプロセッサー」のチューニングに苦戦したエンジニアの労をねぎらった。すでに次の製品の開発がスタートしていることも明らかにした。

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良いAIモデルができても、すぐにカメラが良くなるわけではない

開発秘話を披露したのは、「α7R V」のAI機能の開発を担当した水上暁史さん (ソニー システム・ソフトウェア技術センター ソフトウェア技術第4部門 カメラプラットフォーム2部 部長)。搭載にあたっては、ユーザーの持つクリエイティビティを最大限に引き出したい、撮りたい人が構図やストーリー作りに集中できる究極の性能を目指すという思いがあったのだという。専用プロセッサーを載せるのはコストもかかるため、どういう価値があるのかを検討していったのだそう。また、高速処理をすると消費電力が大きくなってしまうことが大きな問題だった。最終的には回路の工夫やAIモデルの軽量化、各部の電力最適化などで達成したことが語られた。

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「良いAIモデルができたからといってすぐにカメラが良くなるわけではありません。高い解像力とピント精度、色精度の作り込みなどに苦労しましたが、フィールドテストを繰り返し、納得する形で製品に仕上げることができました。」とコメント。これからもどんどん進化する世の中のAI技術をAIプロセシングユニットにも取り込んでカメラの進化に繋げていきたいと、今後の抱負も語られた。

レンズ賞「OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」

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これからもマイクロフォーサーズの長所を生かした製品を開発していく

レンズ賞受賞の喜びを語ったのは杉本繁実さん (OMデジタルソリューションズ 代表取締役社長兼CEO)。オリンパスから独立して3年目のOMデジタルソリューションズは新会社としてはもちろん、「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」は新ブランド「OM SYSTEM」でも初めての受賞となり、喜びもひとしおだとコメントした。「このレンズは風景からマクロ、あらゆる環境でストレスなく使っていただける望遠マクロレンズです。おかげさまで発売後は大変好評です。まだの方はぜひ体験してほしいと思います」と語り、これからもマイクロフォーサーズの長所をしっかりと生かした製品を開発していきたいと、これからの想いも語った。

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手持ちでの高倍率撮影を実現するため全域AF対応は必須だった

開発秘話を披露したのは、製品開発リーダーの弓削一憲さん (OMデジタルソリューションズ 研究開発 製品開発リーダー)。フィールドマクロやアウトドアシーンでも楽しめるレンズを目指したと言い、手軽に高倍率の撮影が可能で、1日持って歩いても疲れない機動性を実現したいと考えたのだそうだ。「マイクロフォーサーズの強みを生かした唯一無二の望遠マクロレンズ」を開発コンセプトに、全域でAFに対応する2倍のマクロレンズを目指した。また、しゃがみ込んだり、ひじをついたりして撮ることの多いマクロ撮影時特有の構え方でのブレ分析も徹底に行ったと開発の苦労を語った。

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また、開発当時には2倍以上の撮影ができるマクロレンズでAF対応したものはなかったことから、手持ちで高倍率撮影で全域AF対応というのは必須だったことも明らかにされた。「幅広い範囲でAF性能を確保することは技術的に課題が多くあり、商品性としてのバランスをとることに苦労しました」とその苦労を語った。「これまで、高倍率撮影ではMFレンズやベローズを使ったりとハードルが高かったと思いますが、かなり手軽に撮影できるようになりました。OM SYSTEMのボディと組み合わせることで、深度合成やフォーカスブラケットなども可能になり、表現の幅が広がります」と使い勝手の良さもアピールした。

あなたが選ぶベストカメラ賞「パナソニック LUMIX S5II」

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ミラーレスカメラの発売から15年、当初はここまで普及すると思っていなかった

あなたが選ぶベストカメラ賞をLUMIXとして初めて受賞した「LUMIX S5II」。「コロナ禍で萎縮してきたメンバーの気持ちが、受賞の一報を受けて一気に開花し、社内がパッと明るくなったことも感謝したいと思います」と受賞の喜びを語ったのは、津村敏行さん (パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション 副社長執行役員 イメージングビジネスユニット長)。「あなたが選ぶベストカメラ賞を初めて受賞したことを本当にうれしく思います。ミラーレスカメラを出してから15年目を迎えましたが、ここまでミラーレスカメラが普及するとは思いませんでした。今やメインがミラーレスカメラのような時代になったことを喜ばしく思います」とコメントした。

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ペンタ部のファンは搭載されない可能性もあった!?

今回、プロだけでなく一般のユーザーから評価してもらえたことがうれしかったと、中村光崇さん (パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション イメージングビジネスユニット ハード設計部 プロジェクトマネジメント課 主任技師) が開発秘話を披露。開発で重視した「画質」「AF」「手ブレ補正」の3つを小形のボディに凝縮するためには、熱対策が課題だったのだそうだ。

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「ペンタ部にファンを入れるという、非常にチャレンジングな開発になりました。ただ、初期のモックアップでは外観の評判が悪く、ファンを搭載しないという判断も必要じゃないかというところまでいきました。しかし最終的にはデザイン面でも一見ファンが入っているとは気づかないようなものになったと思います」

静止画ユーザーにも受け入れられるフォルムを目指した結果なのだそうだ。エンジニアのこだわりで、熱のシミュレーションを繰り返し、音声に影響するファンの音の対策には、電気関係のメンバーも含めて検討したという。

カメラ記者クラブ賞【企画賞】キヤノン EOS R50

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「EOS Kiss M2」のコンセプトを受け継ぎ上位機種に負けない性能を盛り込んだ

塚谷栄理さん (キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 ICB製品開発センター シニアプロジェクトマネージャー) が、「EOS R50」受賞の喜びと開発秘話を披露した。ベストセラー機「EOS Kiss M2」のコンセプトを受け継いで、EOS Rシステムのエントリー向けカメラとして製品化したそうで、カメラは難しいという先入観から脱出して、写真も動画も満足してもらえるよう開発したとのこと。また、マウント部が太くて大きいRFレンズを付けてもしっかり握れることを目指して取り組んだという。

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「EOS Rシステムの中では当時、一番下のモデルとして開発をスタートしました。小さくて可愛いカメラですが、グリップ性にもかなりこだわっています」とのこと。グリップだけでなく、上位機種に負けない性能を盛り込んでいるので、触ってみてもらいたいそうだ。

カメラ記者クラブ賞【企画賞】ライカ M6

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40年前のフィルムカメラが戻ってきたということが評価につながったのでは

ライカ M6」の受賞の喜びを語ったのは、米山和久さん (ライカカメラジャパン マーケティング部)。1971年に発売された「ライカ M5」は露出計を内蔵して話題になったが、そのぶんカメラが大きくなってしまった。それを、メーターを内蔵しつつ「ライカ M3」のスタイルに戻したことが、1984年当時「ライカ M6」がヒットしたひとつの要因だったのではと、初代「ライカ M6」の魅力を説明した。

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「今回は40年前のフィルムカメラが戻ってきたという点が評価に繋がったのだと思います。デジタル全盛の時代にフィルムカメラを選考してもらえた点もうれしく思います。ローテクではありますが、昔ながらのカメラを皆さんに活用していたければと思います」とコメントした。

カメラ記者クラブ賞【企画賞】プログレードデジタル CFexpress Type B GOLD 512GB

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メモリーカードとして初の受賞をきっかけに今後も要望に応えていきたい

受賞したのは「CFexpress Type B GOLD 512GB」だが、企業姿勢も評価されたのではないかと、プログレードデジタルのCEOと電話で喜びを分かち合ったことを語った大木和彦さん (プログレードデジタルジャパン) は、「創業して5年の新しい会社が、メモリーカードとして初めて受賞することができてとても光栄でうれしく思います。それと同時に、非常に重い責任を背負ったと考えています」とコメント。

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メモリーカードとして初めての受賞なので、この受賞をきっかけに、今後も徹底的に追求していくと決意を語った。「こんな性能のカードが欲しい」という要望があればどんどん作っていきたいと、会場のカメラ開発者にも呼びかけていた。

カメラ記者クラブ賞【技術賞】DxO PureRAW

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受賞の喜びをエネルギーに、日本のユーザーに喜んでもらえる技術革新を

DxO PureRAW」はRAWデータを高画質化するソフトウェア。受賞盾を受け取った佐藤昌也さん (DxO Labs SA DxO海外マーケティング部 日本営業所) は「製品、会社がまだ認知されている状態ではないDxOは、まだまだ皆さんに知ってもらう余地があると信じています」とコメント。フランスの本社では新しいソフトの開発を進めているということで、今後も注目して欲しいと語った。

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続いて本社からのメッセージを披露。「フランスの社員一同、ただただ驚き、感激しています。複雑なRAW操作のハードルを下げることで、高画質なRAW編集の認知を広めるものと自負しています。日本で知名度の高い会社とは言えませんが、今回の受賞がDxO製品を広く知っていただくきっかけになると考えています。受賞の喜びをエネルギーとして、日本のユーザーに喜んでいただけるような技術革新に努めていきます」と、これからが楽しみなコメントが伝えられた。

カメラグランプリ50周年に向けて

最後に、カメラ記者クラブ代表幹事を務める柴田誠 (『CAPA』) が「カメラグランプリ」50周年に向けての想いを語らせていただいた。1984年にスタートした「カメラグランプリ」は、今年40周年を迎えた。「カメラグランプリ」発足当時のカメラ記者クラブは20年目で、13誌が加盟。第1回目のグランプリは「ニコン FA」が受賞した。その後、カメラ記者クラブのメンバーが選ぶカメラ記者クラブ賞を第7回 (1990年) の「カメラグランプリ」で新設。今回、原点に戻ってカメラに関するさまざまなアイテムやデバイスにも目を向けて、カメラ記者クラブ賞4機種を選んだ。あなたが選ぶベストカメラ賞は区切りの年である第25回 (2008年) に新設し、レンズ賞をスタートさせたのは第28回 (2011年) からだ。

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「現在のカメラ記者クラブは7誌が加盟しています。私たちも50周年に向けてがんばっていきますので、今後も各社の新しい技術や製品、サービスの登場に期待しています」と今後に向けてのコメントともに、「来年もこの会場でお会いしましょう」と、来年のカメラグランプリに向けての期待を伝えて締めの言葉とした。