AF・連写性能や画質面をパワーアップし、完成度を高めたフルサイズ一眼レフカメラ「ニコン D850」。その最高性能を、どう引き出して撮影に役立てればいいのか? 風景・自然の被写体をテーマに利用術を探ってみたい。
ニコン D850
目次
<画質の良さを大活用>
階調補正機能やカスタマイズで最高画質を得よう
4575万画素のD850の画像をパソコンで拡大して見ると、木々の解像感や質感が余すところなく捉えられているのがよくわかる。プリントサイズでは長辺1mを超えるような大プリントで真価を発揮してくれるはず。それほどの画質クオリティを持つD850ゆえ、ピントやブレ対策はこれまで以上に細心の注意を払って撮影したい。大きくて重たい三脚を使用するのが最善の方法ではあるが、望遠撮影で発生しがちな微少ブレは中型のカーボン三脚でもミラーアップ+電子先幕シャッターを利用することでほぼ解消できる。被写体ブレも大きな問題だが、ISO800程度でも解像感や色再現、ノイズ感が目立って劣化することはないので、揺れる花などは積極的に感度を上げて撮影するとよいだろう。
解像感はよほど大きなプリントにしないかぎりD810との差は感じないだろうが、色の艶やかさや淡い色の再現性は目を見張るものがある。青い雲海に混じる朝焼け色のような自然が持つ繊細な色合いを捉えてくれる。ただ色を誇張しようとしてWBを曇天にしたり、見た目以上にメリハリを出そうとしてコントラストを高めにすると淡い色合いは簡単に失われてしまう。誇張のないホワイトバランス設定や階調が生きるコントラスト設定を心がければ、D850が持つ “色を捉える力” を十分に引き出せるはずだ。明暗差が大きい場面ではアクティブD–ライティングを「強め」や「より強め」にすれば幅広い階調を得ることができる。
淡い色調・広い階調を引き出す
アクティブD-ライティング、カスタムピクチャーコントロールで豊かなトーンを引き出そう
アクティブD-ライティング活用で色彩の対比を美しく
空と雲海では明暗差が大きい場面だが、アクティブD-ライティングをより強めにすることで、朝焼け空と雲海の色彩対比を美しく描写できた。雲海の中に朝焼け色を映して淡く橙色に染まる部分が捉えられており、淡い色彩再現に優れている印象だ。
ニコン D850 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II 絞り優先オート F11 1/1.3秒 -0.7補正 ISO400 WB:5000K 三脚使用
淡い色や階調感を出すときはカスタムピクチャーコントロールを[-1]に設定
風景撮影のピクチャーコントロールは「風景」モードのようなメリハリのある描写が好まれるが、コントラストが高いため、ハイライトやシャドーの描写、および淡い色再現は苦手である。カスタムピクチャーコントロール設定により、コントラストを−1することで、淡い色再現や階調特性を引き出せる設定にしている。
4575万画素の超高精細画質
できるだけ三脚・レリーズ・電子先幕シャッターを使ってブレなし撮影を心がけよう
3635万画素のD810では三脚とレリーズを使い、ミラーアップをすれば大抵の場面でブレを防ぐことができた。4575万画素となったD850ではシャッター幕の走行による振動も無視できず、電子先幕シャッター(ライブビューのサイレント撮影)を使用する機会が大幅に増えた。特に望遠でアップ気味に狙うときは電子先幕シャッターが欠かせない。
徹底的なブレ対策で4575万画素の緻密な画質を引き出した
ブナの樹肌や木の葉の精緻な解像感はさすが4575万画素のD850という描写力を見せてくれた。そのためには正確にピントを合わせ、三脚を使ってブレを防ぐことは欠かせない。さらに風が止むのを待って被写体ブレを防いでシャッターを切った。
ニコン D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 絞り優先オート F16 2秒 補正なし ISO200 WB:晴天 三脚使用
高感度画質の良さを活用
通常の風景でISO1600、アクティブD-ライティング使用でISO800を目安にすると非常に高画質な写真が得られる
ISO1600を超えると背景のボケなど平滑な部分にノイズが浮くが、風で止まらない花などはブレてしまうより止めることを優先してISO1600で撮影することもある。なるべくISO800に留めればアクティブD-ライティングの使用にも無理がなく、クオリティの高い仕上がりを得られる。ISO3200でも適正露出で撮影すればノイズ感は少なく、超高感度での星空撮影にも対応できる。
高感度画質が良いのでアクティブD-ライティングも使いやすい
ライトアップされた紅葉を明暗差が大きいのでアクティブD-ライティング「より強め」で撮影した。ISO800で「より強め」で撮影しても、シャドーにノイズが目立たないのには驚いた。
ニコン D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 絞り優先オート F11 3秒 +0.7補正 ISO800 WB:5000K 三脚使用
<ライブビューで撮影範囲を広げよう>
チルトモニターを徹底活用! スマホ併用でもっと便利に!
植物のシベや水滴などにピンポイントでピントを合わせるのにライブビューAFは頼りになる存在である。画面のどこにでもピンポイントでAFを合わせられるのが魅力だ。通常のファインダーではわかりづらい細部のピントを拡大して確認できるので合焦確率も格段にアップする。
またモニターが上方向に動くようになり、横位置のローポジション撮影が楽になったため、小さな生き物や植物を積極的に撮影できる。チルトモニターは縦位置撮影では役立たないが、スマホのリモート撮影機能を利用することはできる。カメラの上にスマホを載せて、モニタータッチでピントを合わせ、ライブビュー画像を見ながらシャッターを切る。スマホは地面に置いてモニターとして利用し、シャッターはカメラで切れると便利だと思うが、現状ではできない。
タッチ式のチルトモニター
低い位置の被写体を見つけたらいつでもチルトモニターを引き出すクセをつけるくらい活用しよう
操作性で先代機D810と大きく違う点はチルトモニターの装備。低いポジションの撮りやすさが格段に違う。超高画素フルサイズの画質を生かし、ローポジションの風景を楽しんでみよう。
低いポジションで、かつピンポイントに合わせたいときはチルトモニターのライブビューが活躍!
きっちりと水滴にピントを合わせるため、ライブビューAFで水滴を拡大してピントを合わせシャッターを切った。低いポジションからの撮影でもチルトモニターにより楽な姿勢で撮影できる。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F8 1/50 秒 +0.7補正 ISO800 WB:晴天 手持ち撮影
小さな生き物は地面スレスレで撮ると生き生きと写せる
体長約3cmの小さなリュウキュウカジカガエル。普通に撮ると上から目線で見下ろしてしまうので、チルトモニターを活用してカエルの目線近くから撮影した。小さな生き物の撮影にも素早く対応できるので便利だ。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F5.6 1/160 秒 ISO1600 WB:晴天 手持ち撮影
スマホアプリ「SnapBridge」
スマホをもう1つのライブビューとして使うと縦位置ローポジもラク!
高さ15cm程度のサツマイナモリ。上方向にしか動かないチルトモニターでは縦位置撮影には役立たないが、スマホにライブビュー画像を写し出してリモートで撮影ができる。スマホにニコンのSnapBridgeというアプリをインストールしておき、カメラとのペアリングをしておけばスムーズだ。撮影した画像もスマホで確認できる。カメラのレリーズボタンは機能しないので、あくまでもスマホ操作での撮影だ。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F8 1/15秒 +0.7補正 ISO800 WB:5000K 三脚使用
<ファインダーAFで俊敏撮影>
俊敏な撮影を可能にする高性能AFで生き物を写そう
鳥や小動物など速写性を求められる被写体では、素早くピントを合わせられる位相差AFが有利だ。風景撮影でもパンフォーカス撮影では高いピント精度は求められないので、位相差AFで素早くピントを合わせてシャッターチャンスを生かしたい。基本はシングルポイントAFで狙った被写体にピントを合わせることだ。D810はクローズアップ撮影でのピント精度に少々不安があったが、D850ではフォーカスポイントを目に合わせれば、結構な確率でピントを合わせてくれる印象である。海の中の生き物や空を飛ぶ鳥など、動きが速く、背景がすっきりとした被写体ではオートエリアAFも便利である。
どんなAFも100%ピントが合うわけではなく、止まっている被写体なら撮影画像の確認をして必要なら再撮影、動く被写体なら何枚もシャッターを切ってピントのよいものを選びたい。
153点AFシステム
D5同等の高性能AFで瞬時に生き物の姿を撮りきろう
D5と同等の153点AFは、AF専用エンジンを搭載する非常に優秀なもの。十分に高性能なD810のAFから精度、速度がさらに向上しているので、瞬時にピント合わせして撮りたいシーンで威力は絶大だ。
高速高精度なAFで出会った生き物を俊敏に写そう
地面に下りて餌を探すホントウアカヒゲ。とっさの出会いだったが、ファインダーを覗いて素早くピントを合わせて撮影できた。パッと撮影できる速写性では位相差AFが優位である。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F5.6 1/160秒 ISO800 WB:晴天 手持ち撮影
AFモード・AFエリアモード
静止した生き物を求める構図で撮るならAF-C&シングルポイントAFがベスト
木に擬態しているつもりになっているオキナワキノボリトカゲ。しばらくそのままの姿勢なので、シングルポイントAFで目にピントを合わせた。まぶたに合ってしまうこともあるので、何枚も撮影してピントのよいものを選んでいる。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F4 1/80秒 +0.7補正 ISO3200 WB:晴天 手持ち撮影
刻々とフレーム内を動く被写体では「オートエリアAF」も便利
空を飛ぶ鳥や大海原を泳ぐクジラなど、被写体を追いながら構図を決めるような撮影ではフォーカスポイントを選んでいる余裕はない。オートエリアAFでカメラ任せでも、くっきりと被写体にピントを合わせてくれる。
<フォーカスシフトはこう使う>
注目のフォーカスシフトは「枚数・ステップ幅」設定がカギ
F16まで絞っても、背景までパンフォーカスにならないとき、合焦部の解像感は犠牲にしてF22まで絞るか迷うことがある。またクローズアップ撮影では被写界深度が全然足らずに撮影を諦めることもよくあった。フォーカスシフト機能を使ってピント位置をずらして撮影し、Photoshopで深度合成すれば全体にピントの合ったシャープな作品を簡単に作ることができる。フォーカスシフト撮影した画像をレイヤーとして開き、自動整列、自動合成の手順で合成してゆく。三脚を使って撮影すれば画像のズレは少なく、合成は容易である。ピント位置の違いによって背景のボケ量が異なるため、画面周囲に生じるボケ部分をトリミングしてカットすれば完成だ。
注目機能「フォーカスシフト撮影」
「手前~遠景」のパンフォーカスだけでなく「至近~中距離」を合わせるための利用もとても効果的だ
深度合成というと「広い風景で手前から無限遠までのパンフォーカス写真」がすぐ思い浮かぶかもしれない。だが実際の自然風景写真では、被写界深度を深くしにくいマクロ撮影でより実用的に使えそうだ。ごく至近から深度に収めたい「中くらいの距離の位置まで」を段階撮影+合成することでシャープに描写できる。
深い深度で撮るのが難しいマクロの被写体。フォーカスシフト撮影で撮影して深度合成することで2つの被写体をシャープに写せた
F16まで絞ってもユワンツチトリモチにピントを合わせるとコケがぼけてしまった。ステップ幅8でフォーカスシフト撮影をして、Photoshopで5枚合成するとツチトリモチとコケをシャープに見せることができた。5枚合成に留めたのは背景をぼかしてツチトリモチをすっきりと見せるためだ。
ニコン D850 AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED 絞り優先オート F16 2秒 -0.3補正 ISO200 WB:5000K 三脚使用
「フォーカスシフト撮影」撮影回数やステップ幅の目安について
広い風景のパンフォーカス撮影ではステップ幅1、撮影回数は5枚程度で十分なことが多い。被写界深度の浅いクローズアップ撮影では撮影回数は10枚、もしくはそれ以上必要になる。ただステップ幅が小さいとピント位置の差が小さすぎるので、4や8など広めのほうが適している。フォーカスシフト撮影であることはExif情報には記録されないため、新規フォルダを作成して記録する設定にしておくとよい。
D850 そのほかの便利なポイント
SnapBridgeで位置情報を埋め込める
SnapBridgeでスマートフォンとペアリングしておき、カメラの位置情報 – スマートフォンから取得をONにしておけば、スマホのGPS情報を撮影画像に埋め込める。ViewNX-iのようなソフトを使えば、地図上で撮影地を確認できる。移動しながら撮影することの多い風景撮影において、撮影地情報の管理をしておけるのは大きなメリットだ。ただ位置情報には誤差もあるので頼りすぎは禁物である。
〈写真・解説〉深澤 武