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伊達公子選手、プロ引退 ─ 頼れる相棒・100-400mmで現役最後の日に迫った

日本女子テニス界を牽引し続けてきた伊達公子選手が、ついにプロとしての現役生活に終止符を打った。その引退試合とセレモニーを取材した時事通信社の写真記者に直撃。レンズ選びのこだわりや撮影への思いをたずねた。

報道カメラマンの現場2
2017.9.12 伊達公子選手、感謝の言葉で終止符
数々の記録を打ち立ててきた伊達公子選手がついにプロ生活の幕を下ろした。引退セレモニー終盤、後輩たちから贈られた寄せ書きを胸に、関係者らに歩み寄ろうとするシーンを背景がボケすぎないよう留意しつつ、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM で切り取った。その高い操作性と敏捷なAFが描いた “レジェンド” の晴れやかな表情。描写結果も十分に納得できるものだ。
キヤノン EOS-1D X EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM 絞りF5 1/250秒 ISO2000 WB:オート

「写真の力」を信じてペン記者から異例の転身!

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「私でいいのでしょうか……」
取材は、藤原和紘さんの居心地の悪そうな面持ちでスタートした。理由はすぐに判明した。報道記者としては中堅と呼んで差し支えない経歴なのだが、写真記者に転職して2年弱。いわば “新人カメラマン” だったからだ。

「ペン記者を目指し、志望どおりの職に就けました。ただ、甲府支局での勤務が転機になりました。支局ではペン記者が写真も撮らなければならないケースが多々あり、そうした中で写真の奥深さや可能性に身をもって気づかされたのです。そこで、転属願いを提出し、幸いにも写真記者に転属できました」

現在、Jリーグやプロ野球、事件・事故、政治・経済まで、森羅万象にレンズを向けている藤原さん。テニスの撮影は「今回が初めて」。ここで、担当となったときの裏話も明かしてくれた。

「たしか8月上旬ごろ。取材登録が必要なため、上司からジャパンウイメンズオープンの撮影を打診され、『初めてですけど、やります』と即答しました。その段階では、まだ伊達公子選手が引退を発表していませんでした。後日、取材予定の試合が彼女のラストマッチであり、同時に引退セレモニーも開催されると知り、正直モチベーションが高まりました」

引退セレモニーを主眼に置き、超望遠ズームをセット

撮影にあたり、藤原さんがレンズ選びで一番に重視したのは、どんな状況にも対応できる利便性の高さであり、実際メインレンズに選んだのが、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM だった。 「迷いはありませんでした」

レンズ選びで真っ先に候補に挙がる1本

「先代と比べ、II型(EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM)は描写性、操作性など全体の性能がだいぶ向上していますね」と満足げな表情を見せる藤原さん。手持ち撮影のときは手ブレ補正機構ISをONに。高画質でズーム比も4倍と画角の自由度が高く、スポーツだけでなく国会の本会議場の撮影などでも便利に使える。

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伊達公子選手ラストマッチ取材の撮影機材

今回はセレモニーを念頭に、まず EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM をチョイス。ゲーム撮影用に EF300mm F2.8L IS II USM と EF400mm F2.8L IS II USM を用意。ヨンニッパはエクステンダー EF1.4×III を装着して使用した。

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〈カメラ〉EOS-1D X(別件で出動中だったためここには写っていないが、EOS-1D X Mark II と EOS 5D Mark III も携行した) 〈レンズ〉EF24-70mm F4L IS USM、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM、EF300mm F2.8L IS II USM、EF400mm F2.8L IS II USM、エクステンダー EF1.4×III 〈その他〉スピードライト600EX-RT、メモリーカード 32GB(1枚)/ 16GB(3枚)/ 8GB(1枚)、ノートPC、一脚

 

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Lレンズならではの描写性に納得
「なんといっても優れた画質性能が嬉しい」と藤原さん。解像感の高さ、逆光特性の優秀さなど、その描画力に全幅の信頼を寄せている。やや暗い開放F値も「高感度画質の良好なフルサイズ機との組み合わせなら問題ありません」。

 

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回転ズームのスムーズさも◎
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM のズーム回転角は約90°。先代の直進ズームに比べ、思いどおりの画角にスピーディーにセッティングできるのがお気に入り。ズームリングのトルクを調整できるクラッチ機構も重宝するという。

 

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測距エリア選択モードを切り替える
人物インタビューで瞳にピントを合わせる際などは「1点AF」、スポーツは「領域拡大AF(上下左右)」を選択。切り替えはAFフレーム選択ボタン(1)を押し、M-Fnボタン(2)を押す。どのEFレンズも「AFは俊敏で正確!」。

 

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肌身離さないのはPCも同じ
藤原さんは撮影中も常時PC を携行し、写真の送稿や突然のアーカイブ検索などにもすぐ対処できるようにしている。会社から貸与されたノートPCにちょうど合う小型バッグは、ハンガリーのアップルストアで購入したもの。もともとはペン記者時代からの習慣で、写真記者に就いてから「輪をかけて肌身離さず持ち歩くようになりました」とのこと。

画質と操作性、総合力で選んだLズーム

「距離感や撮影ポジションなど、およその見当はついたものの、現場に立たないとわからないことも少なくありません。で、特に幅広い焦点域のズームを選択。日中撮影で明るさが見込め、かつ背景に観客を入れる絵柄を想定し、F4.5-5.6でよいとの判断も働きました」

100-400mmズームを真っ先に選択しただけに、てっきりズームレンズ派と思いきや、意外にも「単焦点レンズ好き」。曰く、「決まった画角に合わせてタイトにフレーミングしたいんです。そうしないと修行にならないというか、写真が上達しないじゃないですか(笑)」

そして9月12日。東京・有明テニスの森公園のコートの一角に陣取った藤原さんはもどかしく感じていた。朝から雨が降り続き、伊達選手の1回戦が予定よりだいぶ延期されていたためだ。
「初めてのテニス撮影だったので早めに現場入りしたこともあり、3〜4時間くらい待ったかもしれません。そうそう、われわれ写真記者にとってはレンズの防塵・防滴性能も心強い。結局、雨は噓のように上がり、ついに試合が始まった。ゲーム自体はヨンニッパやサンニッパで狙い、その後の引退セレモニーは主に EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM と使い分けました」

藤原さんは撮り逃した瞬間もあったと反省しつつ、次の課題へと昇華させていく。その傍らには「代えがたい相棒」と称するEFレンズの姿がある。
「現場の状況が事前に掴めないケースの多い報道分野では、この100-400mm II型の有効性は絶大なんです」

決定的瞬間を逃さないための、この機材・この設定

藤原さんが EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM を選んだ理由と、おもにスポーツ撮影の現場で活用しているカメラの設定を聞いた。

カメラバッグの中には意外な工夫や秘密兵器が!

より効率的な取材のために、藤原さんのカメラバッグの中には意外なモノが…。手作りの秘密兵器も見せてもらった!

アイテムごとに分けられた機材庫

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EF400mm F2.8L IS II USM や EF500mm F4L IS II USM などのレンズケースが並ぶ機材庫。共用のカメラバッグや一脚、三脚なども置かれている。管理上、予備のカメラボディやレンズは別の場所に保管しているという。

伊達公子選手 現役最後の日に迫った超望遠ズームレンズ

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キヤノン EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM
フルサイズに対応する超望遠ズームレンズ。1998年12月に発売された「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」の16年ぶりとなる後継機種で、ズーム方式を従来の直進式から回転式に変更し、防塵防滴構造を新たに採用。画質、操作性、手ブレ補正効果など、性能も大幅に向上している。

プロフィール

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時事通信社 編集局 映像センター写真部 藤原和紘さん
1983年、香川県生まれ。2008年入社。ペン記者として東京本社運動部に2年間勤めた後、甲府支局に3年半勤務。写真記者への転属を志望し、運動部への復帰を経て現部署に異動。趣味は映画鑑賞とスキューバダイビング。自宅にワインセラーを備えるほどのワイン好き。

 

 

〈協力〉東京写真記者協会 〈取材〉金子嘉伸 〈取材撮影〉山田高央