機材レポート

待ちに待った高級コンデジ「GR III」はさすがの完成度だった!【じっくりレビュー】

フィルムカメラの時代から、高性能なレンズや高品位なボディで人気の高かったリコーのGRシリーズ。それは“高級コンパクトカメラ”の先駆け的な存在であった。デジタルカメラの時代になっても、プロユースにも堪え得る高画質と、スナップシューティングに最適な小型軽量ボディを両立したGRシリーズは、他のコンパクトデジカメとは一線を画する存在感を示してきた。

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3月に発売されたばかりのGRシリーズ最新モデル「GR III」。実売価格は12万390円。内蔵フラッシュは非搭載になったが、ボディの幅はフラッシュ内蔵のGR IIよりも7.6mm短い109.4mmに。これは1.7型センサー機のGR DIGITAL IVとほとんど変わらない幅(差は1mm以下)である。

 

今回紹介する「リコー GR III」は、GRシリーズの基本コンセプトを継承しながらも、前モデルのGR IIからレンズやイメージセンサー、画像処理エンジンといった主要デバイスを一新。そして、優れたレンズの性能がフルに生かせるよう、APS-CサイズのGRシリーズで初めて手ブレ補正機構”SR(Shake Reduction)”も搭載された。

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2005年、1/1.8型CCDセンサーを採用する「GRデジタル」が発売された。その外観デザインを含めた“小型軽量”の基本コンセプトは、この「GR III」にも受け継がれている。

 

また、直感的な操作が可能なタッチパネル機能なども搭載され、操作性や機能性の高いモデルへと進化している。一方で、各操作パーツ(ダイヤルやボタン類)の形状や配置は、シリーズを通してあまり大きな変更は見られない。

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細部で変更点はあるものの、主要な操作系は踏襲。背面の右上に配置される「ADJ.レバー」も、GRシリーズではお馴染みの操作パーツである(主要機能の呼び出し・設定、露出補正調整などに使用する)。

 

ここからは、各特徴を詳細に見ていこう。

 

手ブレ補正機構”SR”を新搭載

今回のGR IIIには、有効画素数約2424万画素のAPS-CサイズCMOSセンサーが採用されている。前モデルGR IIのセンサーも同じAPS-Cサイズだが、その有効画素数は約1620万画素。より高画素なカメラになったぶん、通常であれば微細なカメラブレが目立ちやすくなってくる。

 

ところが、GR IIIはGR IIよりもボディを小型化しつつ、撮像センサーシフト方式の手ブレ補正機構”SR(Shake Reduction)”が搭載された。これにより、3軸方向のブレに対応でき、シャッター速度換算で4段(CIPA基準)の補正効果を実現している。

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ペンタックスブランドの一眼レフでもお馴染みの、手ブレ補正機構”SR(Shake Reduction)”を搭載。とっさのスナップ等で、手ブレを抑えた鮮明な画像が期待できる。

 

まあ、今回のGR IIIも含め、歴代のGRシリーズには28mm相当の広角単焦点レンズが採用されているので、標準や望遠のズームレンズよりは手ブレは目立ちにくいだろう。とはいえ、先ほど述べたとおり、前モデル以上の高画素カメラになっているので、手ブレ補正機構の搭載のメリットは大きい。

 

実際に手ブレ補正のあり・なしで撮り比べてみたところ、手ブレ補正なしだと1/8秒や1/15秒くらいでもブレが目立ちはじめるが、手ブレ補正ありだと注意しながらシャッターを切れば1/2秒くらいまでシャープに写すことができた。

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夕暮れ空を背景に、ライトアップされる五重塔を手持ち撮影。画質面を考慮すると、できるだけISO感度は低めに抑えたい。ここでは、ISO400に設定し1/4秒というシャッター速度になった。しかし、手ぶれ補正機構”SR(Shake Reduction)”のおかげで、数カット撮影したすべてがシャープに描写できた。/リコー GR III 絞り優先オート F2.8 1/4秒 WB:白熱灯 ISO400

 

高解像な新開発GR LENSとローパスセレクター

高画質の決め手は、何といってもまずレンズ性能である。GR IIIに搭載される新開発のGRレンズは、18.3mm(35mm判換算で28mm相当)という焦点距離や、F2.8の開放F値は従来と同じだが、4群6枚の薄型光学系を新採用。高屈折率低分散ガラスや、高精度ガラスモールド非球面レンズを最適に配置し、歪曲収差や色収差を極限レベルまで抑制することで、高いシャープネスを実現している。

 

さらに、前述の手ブレ補正機構”SR(Shake Reduction)”を応用して、光学ローパスフィルターの効果を調節する「ローパスセレクター」機能も搭載されている。露光中にセンサーを微少に駆動させることで、偽色やモアレを抑制するのである。この機能をオフにして解像感を優先させる、逆に弱や強に設定して緻密な規則的パターンの被写体に偽色やモアレが発生するのを抑制する。……というように、撮影者の狙いや被写体に応じた使い分けが可能になるのだ。

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偽色やモアレが気になるケースでは、ローパスフィルターの効果を利用したい。ただし、高解像なGRレンズの真骨頂は、ローパスフィルター効果オフで味わえるだろう。

 

<ローパスセレクター:オフ>

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きらびやかな祭りの神輿。各部を彩る金属細工の細かい模様が美しい。そういった細かい部分までシャープに描写するため、ここではローパスセレクターをオフに設定して撮影している。/リコー GR III 絞り優先オート F5.6 1/100秒 WB:オート ISO200

 

<ローパスセレクター:強>

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夕方の斜光線によって、大部分が日陰になった寺の本堂。だが、屋根の上部は夕陽に照らされており、そこに周囲の樹木の影が映し出されている。その屋根の細かいパターンに偽色やモアレが出ないよう、ローパスセレクターを強に設定して撮影した。/リコー GR III 絞り優先オート F5.6 1/80秒 -0.3補正 WB:オート ISO100

 

多彩な表現が追求できるイメージコントロール

GR IIIには、これまでの「画像設定」と「エフェクト」を統合した、新たな仕上がり調整機能の「イメージコントロール」が搭載されている。その基本となるモードは、スタンダード、ビビッド、モノトーン、ソフトモノトーン、ハードモノトーン、ハイコントラスト白黒、ポジフィルム調、ブリーチバイパス、レトロ、HDR調、の10種類。これらのモードをベースにしながら、彩度や色相、キー、コントラスト、コントラスト(明部/暗部)、シャープネス、調色といった、さまざまな項目が調整できる(モードによって調整可能項目は異なる)。

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「イメージコントロール」の機能は、ADJレバーを押し込んで呼び出す(ADJモードの初期設定で登録されている)。

 

基本10モードをチェックしたが、モノクロモードが充実している一方、カラーモードがやや物足りない…という印象を受けた。ブリーチバイパス、レトロ、HDR調といった少し特殊なモードはあるが、風景やポートレート用のモードがないのである。今後のファームアップでは、そういった“一般的なカラーモードの充実”にも期待したい。

<ビビッド>

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メリハリがあって色鮮やかな仕上がりになる「ビビッド」。この場面では、植物の緑色の鮮やかさが印象的だった。/リコー GR III 絞り優先オート F2.8 1/50秒 WB:太陽光 ISO100

 

<レトロ>

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古い写真のような仕上がりになる「レトロ」。色鮮やかな被写体の色が抑え気味になり、古めかしい色調が得られる。/リコー GR III 絞り優先オート F4 1/50秒 WB:太陽光 ISO200

 

<ハイコントラスト白黒>

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非常にコントラストが高くて、光と影のメリハリが印象的な「ハイコントラスト白黒」。/リコー GR III 絞り優先オート F8 1/160秒 ISO200

 

6cmまで寄れるマクロモードを搭載

前モデルのGR IIは、通常モードで約30cm、マクロモードに切り換えると約10cmの距離までピントが合った(いずれも被写体からレンズ先端までの距離)。この“約10cmまで”という値も、APS-Cサイズのカメラとしては立派である。だが、今回のGR IIIは、通常モードでも無限遠から約10cmまでピントが合う。そして、マクロモードに切り換えると約6cmまでピントが合うようになる(約12cm~6cmの範囲で)。数値上ではわずか4cmの差だが、広角域での数cmの差は、予想以上に大きな絵柄の差となる。

<通常モードで撮影(約10cm)>

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<マクロモードで撮影(約6cm)>

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ビオラの群生の中の一輪に注目し、マクロモードの最短付近で撮影。“画面いっぱい”とはいかないが、かなり大きく写せて、その存在感が出せた。一方、通常モードの最短(約10cm)近くだと、狙った花があまり大きく写せず、その存在感もいまいち。/共通データ:リコー GR III 絞り優先オート F2.8 1/60秒 WB:オート ISO200

 

モニターの明るさを素早く変えられるアウトドアモニター

明るい日中の屋外や、反対に薄暗い夜間や室内――こういった明るさの異なる環境で、液晶モニターの明るさを素早く調節できる「アウトドアモニター」機能を搭載。また、素早く調節できるだけでなく、輝度調整範囲が通常より拡大できるのも、この機能の特徴である。

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「アウトドアモニター」は、イメージコントロールと同様、ADJモードの初期設定に登録されている機能である。ちなみに、このアウトドアモニター機能はペンタックスブランドのフルサイズ一眼レフ、K-1シリーズにも搭載されている。

 

【まとめ】基本コンセプトは踏襲しつつ中身は大幅に進化

利便性の高いズームレンズは採用せず、ひたすら高画質設計の広角単焦点を採用し続ける。ボディデザインや操作性も極力変えない。そして、安易にモデルチェンジはせずに、ファームアップによって機能拡張や完成度を高める。そんなGRシリーズの進化の歴史は、他のカメラに対するアンチテーゼとも言える。

 

その一方で、GRシリーズの大きな特徴である小型軽量をキープしながら、2013年発売のGRで撮像センサーサイズを1/1.8型や1/1.7型からAPS-Cサイズへと大型化。そして、今回の「GR III」では、タッチパネル機能やセンサーシフト式の手ブレ補正機構が搭載された。AFシステムには、速写性と精度を両立するハイブリッド方式が採用されている。

 

また、レンズ一体型のカメラではあるが、撮像センサー前面の光学部材に超音波振動を加えて付着したホコリなどを除去するDR II(Dust Removal II)も新搭載されている。

 

GR IIIの外観だけを見ると「GR IIから内蔵フラッシュをなくして小型化したモデル」という印象を受けるかもしれない。だが、その基本性能や機能は、かなり大きく進化しているのである。

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外部インターフェースにUSB Type-Cを採用。だから、PCやモバイルバッテリーなどと接続して充電することが可能。