機材レポート

もう望遠ズームはいらない!? M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3のスゴイ機動力と描写力

オリンパスから登場した「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3」は、35mm判換算24mm相当の超広角から、400mm相当の超望遠域まで1本でカバーするマイクロフォーサーズ用の16.6倍ズームレンズ。一般的な高倍率ズームレンズが、28mmから300mm前後をカバーするなかで、ワイド端をより短く、テレ端をより長く作られた意欲的なこのレンズの操作感と描写性能を見てみたい。

▲2019年3月発売のM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3。2019年7月9日時点の実売価格は94,760円。

 

ズーム倍率が高いうえに描写性能も高い優れモノ

オリンパスではM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3を「旅行に最適な小型・軽量16.6倍ズームレンズ」と謳っている。超広角から超望遠まで1本でカバーできるので、このレンズ1本あれば、ほとんどの被写体にアプローチできる。大きさは77.5mm径×99.7mm。やや太く、全長が長めなので、PENシリーズよりも、しっかりグリップできるOM-Dシリーズと組み合わせるとバランスがよい。重さは455gあるが、超望遠400mm相当までカバーするレンズだと考えれば、非常に小型・軽量だ。

 

超望遠まで一気にズームできてチャンスを逃さない

神社を散策している際、まっすぐ伸びた参道の先で参拝客が交錯する様子を178mm(356mm相当)で捉えた。いつもであれば、レンズを標準ズームから望遠ズームに付け替えて撮らなければならないカットだが、被写体に気づいた瞬間、ズームするだけでフレーミングが決まった。この便利さは一度味わうと忘れられなくなる。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F8 1/400秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

■16.6倍ズームの画角変化

 

▲ズームリングを12mmから200mmまで回す(回転角度は約90度)と、レンズが大きく前に繰り出し、全長は2倍近くまで伸びる。1段繰り出しの構造だが、がたつくこともなく、スムーズに繰り出される。ズームロック機構はないが、レンズが自重で伸びることは少ない。

 

ワイド端の歪曲収差がしっかりと抑えられている

高倍率ズームレンズはどうしても歪曲収差が大きくなりがちで、特にワイド端で建物を撮るときは直線部分が歪んで困ることがある。しかし、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 では自動的に補正されるので、歪曲収差を気にせずに撮影できる。写真はワイド端12mm(24mm相当)で撮影した酒造所の建物。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F18 1/80秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

PROレンズ並みのコーティングでフレア・ゴーストを軽減

レンズ構成枚数の多いズームレンズでは、逆光撮影時のフレア・ゴーストが目立つケースがある。このレンズには、M.ZUIKO DIGITAL PROシリーズと同等のZEROコーティングが施され、ゴーストやフレアを抑え、クリアな描写を実現している。写真は頭上の太陽をフェリーのファンネル(煙突)上部に重ねて撮ったもの。フレアやゴーストが出やすい条件だが、あまり目立たない。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F5.6 1/6400秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

10コマ/秒の高速連写でピントを外さない

AF性能は、OM-D E-M1Xのインテリジェント被写体認識AF機能(鉄道モード)を使い、列車を撮影して確認した。AFモードはコンティニュアスAF(C-AF)。時速約80kmでカーブを曲がってくる快速列車を10コマ/秒で連写した。3本の列車を連写したが、いずれも途中で被写体を見失うことはなく、すべてピントは良好であった。他のシーンでも、AFの速度と精度、いずれも満足できるものであった。
 

オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 シャッター優先オート 1/1000秒 F7.1 −0.7補正 ISO640 WB:5300K

 

▲時速約80kmで向かってくる快速列車をOM-D E-M1Xのインテリジェント被写体認識AF(鉄道モード)で連写した20枚。写真は10コマ/秒で連写したものから、5コマ/秒相当になるように1枚とばしでセレクトした。焦点距離は124mm(248mm相当)。

 

圧縮効果を狙った超望遠撮影にも瞬時に対応できる

長い直線区間。間にいくつも踏切があり、遠ざかる電車の手前を、横断する人の姿が面白く、テレ端200mm(400mm相当)で捉えた。電車と人物、離れている複数の被写体間の距離感が短く感じられる圧縮効果を生かした表現になった。広角域から超望遠域までズームリングの操作だけで出会った被写体に様々なアプローチができるのも、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3のメリットだ。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F8 1/320秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

カメラボディの手ブレ補正で低速シャッターもOK

石仏の脇を流れ落ちる水流を1/8秒のスローシャッターで撮影。焦点距離は80mm(160mm相当)。OM-D E-M1 MarkⅡのボディ内手ブレ補正の効果で手持ち撮影でもブレずに撮れた。ただし、これ以上焦点距離を伸ばしたり、シャッター速度を落としたりすると、手ブレを抑えきれない場面もあった。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F7.1 1/8秒 −1補正 ISO320 WB:オート

 

ズーム全域での近接撮影能力の高さも大きな魅力

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の魅力の1つは、400mm相当までカバーするズーム比の高さだが、もう1つ挙げるとすれば、近接撮影能力の高さだ。それも、ズーム全域で最短撮影距離が短く、被写体に近づける点。

写真はアメリカンデイゴの花をテレ端200mm(400mm相当)の最短撮影距離、約70cmで撮影したもの。このとき、レンズは大きく繰り出され、レンズ先端から花までのワーキングディスタンスは50cmほど。撮影倍率は0.23倍(35mm判換算では0.46倍)とかなり高倍率の撮影ができた。また、ボケが素直なので、花の撮影にもこのレンズは活用できそうだ。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F7.1 1/250秒 −0.3補正 ISO320 WB:5300K

■最短撮影距離での写り方を主な焦点距離で比較

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の最短撮影距離は12mm時に約22cm、レンズ先端からのワーキングディスタンスは約10cm、ズームするに従って、最短撮影距離は伸び、200mm時には約70cmになる。しかし、実写すると広角域ではさらに近づいてもAFが合い、ワイドマクロ的な表現が可能であった。各焦点距離での花の写真は公式の最短撮影距離ではなく、AFが合う、最短の距離で撮影した。 

〈12mm(24mm相当)で撮影〉

〈25mm(50mm相当)で撮影〉

〈100mm(200mm相当)で撮影〉

〈200mm(400mm相当)で撮影〉

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F6.3 1/400秒 −0.3補正 ISO200 WB:5300K(4枚共通)

 

広角でも寄れるから遠近感を強調した撮り方ができる

広角域の最短撮影距離が短いと、表現の幅が広がる。写真は神社の参道に並ぶ店をスナップしたもの。左下のダルマまでの距離はレンズ先端から20cmほど。このダルマにピントを合わせ、12mm(24mm相当)の広い絵で参道の雰囲気を捉えた。近景にある被写体に思い切り近づくことで、遠近感が強調された。
 

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 絞り優先オート F14 1/60秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

高倍率ズームレンズのなかでの位置づけ

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3は、オリンパスの高倍率ズームレンズとして、コンパクトなベーシックモデルM.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6Ⅱ、画質重視のPROモデルM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROに続く、3本目として登場した。

▲OM-D E-M1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3(右)、OM-D E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(左)

位置づけは超望遠400mm相当をカバーする欲張りなレンズだが、性能面に抜かりはない。スーパーEDレンズを2枚、EDレンズを2枚、球面収差の補正能力の高いスーパーHRレンズを1枚、HRレンズを2枚、非球面レンズを3枚使用し、ズーム全域で高い描写性能を実現している。100mmを超える望遠、超望遠域では若干、描写は甘くなるが、各種収差を効果的に抑えていることもあり、コントラストの低下も少なく、十分な解像感を維持する。
 
望遠撮影がメインの方には M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROなどをオススメしたいが、望遠ズームレンズを持っていてもあまり使う機会がない、という方にはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3が向いているかもしれない。標準ズームとしてはやや重量があるが、いざとなれば400mm相当の超望遠撮影ができ、ズーム全域で近接撮影能力が高いので、撮影できるシーンが広がる。
 
筆者が愛用しているM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROのキレの良さに及ばないが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の描写に不満を感じることはほとんどなかった。高い光学性能やZEROコーティング、さらには防塵・防滴性能まで加味するとPROレンズに準ずる高性能レンズだと言える。
 
〈写真・解説〉小田切裕介