機材レポート

昭和テイストが魅力のマニュアルレンズ「KISTAR」をポートレート撮影で試してみた!

2019年7月5日(金)〜7日(日)の3日間、東京・原宿のデザインフェスタギャラリーで「オールドレンズフェス Vol.3」が開催された。

「オールドレンズフェス」は見て、触って、買えるオールドレンズの体験型イベント。3回目となる今年は体験ブースを大幅に拡大。復刻レンズやマウントアダプターの各種体験、オールドレンズのレンタルサービスなど、購入前に実際に試すことができた。イベントではモデル撮影タイムも設けられ、レンタルしたレンズで撮影会に参加することも可能。また、昨年と同じくオールドレンズで撮影した各写真展や中古レンズ販売も行われた。オールドレンズに精通したスタッフも揃い、初心者でも安心して参加できる、まさにオールドレンズ三昧の3日間となった。

▲会場の様子。写真手前は会場入り口にブースを構えた三宝カメラ

 

“昭和な感じの写り”を目指すユニークなレンズメーカー「木下光学研究所」

今回のオールドレンズフェスで気になったのは木下光学研究所。同社はもともと産業用レンズの設計・試作を本業としているとのことだが、木下 勉社長のレンズ好きが高じて、一昨年から写真用レンズの製作を開始。あえて収差を残し、昭和な感じの写りをするレンズを目指しているというユニークなレンズメーカーだ。

▲カウンターの上には「KISTAR 35mm F1.4」(写真左)、「KISTAR 55mm F1.2」(中)、「KISTAR 85mm F1.4」(右)の3本のレンズが並べられていた。

 

▲レンズマウントはいずれもKCYマウント(ヤシカ・コンタックス互換マウント)で、マウントアダプターを使うことで各メーカーのカメラに対応する。

金属鏡筒には絞り値や撮影距離が刻印されている。レンズは高屈折レンズや非球面レンズなどを極力使わずに設計されており、「ピッチ磨き」と呼ばれる昔ながらの研磨方法で磨かれている。さらに反射防止コーティングは、マルチコートではなくシングルコートが施されている。

 

KISTAR 85mm F1.4

「KISTAR 85mm F1.4」は、特徴である絞り開放時の柔らかさをギリギリのところで再現したレンズだと言う。金属鏡筒なだけに重量感はあるが、バランスは悪くない。ピントリングは滑らかで、フィルムカメラの操作感を思い出させてくれる。

F1.4の開放絞りは、ミラーレスカメラなら液晶モニターで露出とピントを確認しながら撮影できるものの、この焦点距離ではソフトになり過ぎてしまい、ピントの山が分かりずらくなってしまうのだそう。

<実写>

肌の調子が滑らかな描写で、発色はやや黄色味を帯びている印象。しかし、確かにピント合わせが難しい。ポートレート撮影でも三脚があるといいだろう。

 

KISTAR 55mm F1.2

「KISTAR 55mm F1.2」は、名玉「トミノン55mm F1.2」を復刻した標準レンズ。当時のレンズには鉛などの重金属が含まれているため、今ではそれらを使用することができない。そのため、「KISTAR 55mm F1.2」にはエコガラスが使われているのだそうだ。

<実写>

「KISTAR 55mm F1.2」は、背景のボケ具合が絶妙で、立体感が感じられる描写だった。ピントが合ったときには、いかにもマニュアルの単焦点レンズらしいシャープ感がある。「KISTAR 85mm F1.4」と同じコーティングが施されているそうだが、「KISTAR 55mm F1.2」のほうがナチュラルな印象がある。55mmという焦点距離は手頃で、ボディもコンパクトなので扱いやすい。

 

KISTAR 35mm F1.4

2018年に製作されたという「KISTAR 35mm F1.4」は、設計したときには絞り開放からシャープ過ぎてしまったそう。開放でもしっかりと収差が残って滲むようにするのに苦労を重ねたそうだ。

 

<実写>

「KISTAR 35mm F1.4」の描写は、「KISTAR 55mm F1.2」に比べるとシャープな印象だが、やはり微妙なピント合わせには苦労する。アップの撮影では、適度に遠近感が強調されるようで、表情も違って見える。

※撮影はいずれもソニーα7II、ISO200、F4。モデル:めめ猫妖怪さん。

 

月産10本程度の小ロット生産。今後は他社との協業も?

木下光学研究所のレンズ「KISTAR」は、東京都福生市で設計され、あきる野市の工場で生産されている。すべて自社内の技術者が行っているため、月産10本程度の小ロット生産となっている。そうした味わいのある手作りレンズだけに価格は安いとは言えないが、今後は他社との協業も視野に入れつつ、安い価格でレンズを作っていきたいと木下社長は語ってくれた。

▲直販サイトで販売されているレンズに標準装備されているメタルリアキャップ。マウント同様ロック機構が付いているので、ゆるんで外れる心配がない。

 

▲オールドレンズフェスでは、「KISTAR」が会場特価にて販売されていた。