今回はデジタルカメラのファームウエアのアップデート、俗にいう「ファームアップ」に注目したい。ファームウエアとは、簡単にいってしまえばデジタルカメラ本体を動かすプログラム。カメラ本体内部に記録されているが、このファームウエアは書き換えができるようになっている。
これをアップデート(更新)することで、プログラムのバグ(不具合)を修正するにとどまらず、新機能を加えたり、ユーザーの意見を反映させた機能改良が施されたりと、ユーザーにとってはいいことずくめ。最近だと、今年5月にニコンのZ 6/7がVer.2.0になって瞳AFが新たに可能になったことが話題となった。
もちろんハードウェア的には限界もあり、連写速度が上がるなどの向上は望めないが、アルゴリズムの改良によるAF時の合焦までの時間短縮や合焦確度がアップする、というようなことはある。ユーザーメリットは大きいのだ。
そんなファームウエア、意識して見たことがあるだろうか。
ファームアップで4K動画記録に対応する例も
ファームウエアのアップデートの頻度からいうと、非常に多いメーカーがある。それが富士フイルムだ。今回取り上げるのは、同社の「X-Pro2」。発売は2016年の3月なので3年半近く経っているが、記事執筆時点(2019年7月)でも販売されている現行機種だ。最新のファームウエアは、なんとVer.5.00。バージョンアップによりAF関連の向上は元より、4K動画対応や、フリッカー低減機能にもファームアップで対応している。
富士フイルムはファームアップの手厚さでは業界一といってもいいほどで、どの機種もバージョンアップの頻度は高い。ちなみに2018年9月発売のX-T3でさえ記事執筆時点でVer.3.00。X-Pro2以外にファームウエアのアップデートが多かった機種であれば、X-T1でVer.5.51となる。このVer.5.51の公開は2018年の11月なので、販売終了になって以降もファームアップされているのだ。特に上級機ほど、ファームアップの頻度が高い傾向にある。
ファームアップでは、ソニーのα9も負けておらず、現在はVer.5.01(2019年7月25現在)。α9では、さらにVer.6.00への進化も告知されている(今年夏頃)。
ただ、ここで問題なのは、このように新しいファームウエアがメーカーから公開されても、ユーザーが気づき、アップデートを行わないことには全く無意味になってしまう、ということ。なので大切なのは、自分が使っているカメラが最新のファームウエアになっているかをまず確認することだ。そして、ファームウエアのアップデート方法を知っておく。この2つのチェックがとても重要になる。
機種やメーカーによっては大きなアップデートがない場合もある。また、大きなアップデートをしたために生ずる不具合もあったりする。そんなときはそのあと、不具合を修正した小さなバージョンアップが為される場合もある。このようなことがあるので、ちょこちょこホームページを見るなどして、最新のファームウエアがアップされていないか確認しておくといいだろう。
ファームアップによる機能向上の変遷
ここからは、ファームアップの多いX-Pro2を例として、その変遷、機能アップについて見ていこう。公開されたファームアップの回数をチェックすると、これまでに12回のアップデートが行われている。
①Ver.1.01 2016年3月
②Ver.1.02
③Ver.2.00 2016年10月(メジャーバージョンアップ)
④Ver.2.01 2016年11月
⑤Ver.2.10
⑥Ver.3.00 2017年3月(メジャーバージョンアップ)
⑦Ver.3.10 2017年5月
⑧Ver.3.11 2017年8月
⑨Ver.3.12
⑩Ver.4.00 2017年12月(メジャーバージョンアップ)
⑪Ver.4.01 2018年1月
⑫Ver.5.00 2018年7月(メジャーバージョンアップ)
ちなみにこの数字の意味というのはメーカーによって若干異なるが、X-Pro2で見る限りでは、1桁目の数字が変わるときは、大きな機能アップがなされたとき(メジャーバージョンアップ)。小数点以下の0.1台は小さな機能強化が加わったとき、0.01台は不具合(バグ)の解消という感じだ(マイナーバージョンアップ)。では、この12段階のアップデートのなかで大きなバージョンアップであるVer.2.00、Ver.3.00、Ver.4.00、Ver.5.00の要点をまとめてみよう。
▼Ver.2.00
ここでは15項目の機能強化、そして5つの改善が加えられている。一番大きいのはAF測距点の変更で、77点/273点だったのが91点/325点に大幅に変更された。そしてAF-Cモードでの使い勝手の向上、フラッシュへの対応なども含まれている。AFに関しては、X-Pro2の登場から半年後に発売された、同じ画像処理エンジンであるX-Processor Pro、そして同じ撮像素子であるX-Trans CMOS Ⅲを搭載するX-T2からのフィードバックが大きいようだ。
▲フォーカス点数切り替えの設定がVer.1の77点と273点から細かくなり、91点と325点に変更された。AF性能と合わせて、これもX-T2からの反映と考えていいだろう。このような機能強化は、ユーザーとしてもうれしいところだろう。
▲富士フイルムはフラッシュに関してはちょっと手薄に感じるところだったが、このファームウエアの直後に発売される新型のフラッシュ「EF-X500」に合わせてカメラ内での設定ができるように機能が加えられた。
★Ver.1.02からVer.2.00への変更内容
01 フォーカス点数が91点(7×13)と325点(13×25)に変更
02 位相差AF精度向上
03 AF-Cで連写L時のAF追従性能を向上
04 AF-Cモード時にレリーズ半押し中にAEが追従するよう改善
05 AF-C連写時に電子シャッターでのAF追従が可能に
06 AF-C連写H時に連写中も被写体を追尾可能に
07 AF-Cで連写L時に単写(1コマ撮影)を可能に
08 瞳AUTO設定時の瞳AFで被写体の手前の瞳に合焦するよう変更
(以前は構図から合焦させる瞳を決定)
09 クリップオンフラッシュEF-X500に対応
→フラッシュの設定方法、撮影メニューのフラッシュ設定の内容が大幅に変更
10 クイックメニューに割り当てることができるメニューを変更
→フラッシュ機能設定、調光補正
11 ファンクションボタンに割り当てることができる機能を変更
→フラッシュ機能設定、TTL-LOCK、モデリング発光
12 オートパワーセーブ機能を追加
13 自動電源OFFの設定時間に15秒/30秒/1分が追加
14 フロントダイヤルの無効化設定を追加
15 OVFでのAFフレーム補正の仕様が変更
16 レンズ交換した際に稀にOVFが適切な倍率に自動で切り替わらない現象を改善
17 ズーム操作によるOVFのブライトフレームの表示更新がスムーズになるように改善
18 電子シャッター使用時の手ブレ補正を改善
19 「FUJIFILM Camera Remote」でリモート撮影時、スルー画転送のコマ落ち現象を改善
20 マウントアダプター使用時に絞り優先で露出が適切にならないことがある現象を改善
▼Ver.3.00
ここでは17項目の機能強化が加えられている。このバージョンアップでは、今までできなかったことをできるように、という要望に応えた項目が多いように感じる。ブラケットでのRAWでの撮影、1/3刻みの低感度側感度拡張、シングルポイントAFの最小サイズの搭載、ブラケット枚数の増加、カードなしレリーズモードの追加など、Ver.2.00になったときの項目とは明らかに性質が異なっていることがわかる。
▲低感度側拡張感度域では常用感度域のような1/3段刻みになっていなかったが、このファームでISO125相当、ISO160相当の1/3段刻みの設定が可能になった。
▲測距点サイズの設定で最小モードが加わり、ピンポイントで使える非常に狭い範囲を選択できるようになった。
★Ver.2.10からVer.3.00への変更内容
01 ブラケットおよびAdv.フィルター撮影でのRAW画像の記録
02 拡張感度にISO125、ISO160を追加
03 長秒側のシャッタースピードを15分まで拡張
04 感度AUTO設定の低速シャッター限界に「AUTO」を追加
05 顏検出AFの高速化
06 AF-Cモードでの合焦表示の改善
07 AFモードの「シングルポイント」に最少サイズを追加
08 「AFポイント表示」の追加
09 「AF-Cカスタム設定」の追加
10 ピント位置拡大中の位置変更
11 VIEW MODEに「アイセンサー+LCD撮影画像表示」を追加
12 EVFの表示タイムラグ短縮 →AF-C中のEVFの表示タイムラグを短縮
13 カスタム1~7の名前設定
14 Exif用著作権情報
15 ボイスメモ機能
16 AEブラケットの機能拡張
→従来の最大±2段、3枚から最大±3段、9枚までのAEブラケット撮影が可能に
17 「カードなしレリーズ」設定の追加
▼Ver.4.00
ここでは9項目の機能強化が加えられているが、このバージョンアップで一番大きいのは4K動画への対応だ。これもやはりX-T2からのフィードバックで、画像処理エンジンと撮像素子が同じであることから対応できたといえるだろう。ファームアップで4Kに対応した例は珍しい。またPCとの連携も強化され、専用ソフトを使ったテザー撮影に対応するようになっている。AF追従性もさらに向上するようアップデートされている。
▲動画設定では、新たに4K動画に対応した。ファームアップでHDから4Kに対応したというのは、新しいカメラに買い替えたに近いほどのインパクトがあるだろう。
▲このスタイルのカメラでPCと接続しての撮影というのはあまりしないかもしれないが、できるに越したことはないだろう。この辺りもX-T2からの反映と考えられる。
★Ver.3.12からVer.4.00への変更内容
01 4K動画対応
02 USB/無線通信によるPC撮影(テザー撮影)に対応
03 動く被写体への追従性を強化
画像認識アルゴリズムの改善により、従来に比べ、被写体への追従性が向上。被写体の動く速度が2倍、サイズが1/2になっても捕捉。
04 RAW現像ソフト「FUJIFILM X RAW STUDIO (Macintosh版)」に対応
05 フラッシュの無線コントローラー制御に対応
06 PCソフト「FUJIFILM X Acquire」を使用したカメラ設定の保存・読み出しに対応
07 instax SHAREプリンターSP-3に対応
08 RGBヒストグラム表示、ライブビューハイライト警告表示機能追加
09 動画撮影中のAFやり直し
▼Ver.5.00
このバージョンアップでは主に5項目の機能強化が加えられているが、新たに加わった機能としては「フリッカー低減」が挙げられる。ファームアップでこれに対応するというのは素晴らしい。あと気が利くところでは、情報表示内容を個別に拡大できるという機能。年配のファンも多そうなカメラだけにこういう気遣いの機能は嬉しいところだろう。AF性能もさらにブラッシュアップされ、低輝度限界の拡大、F11への対応、捕捉性能の強化などぬかりない。
▲室内撮影が多い人などでは、このフリッカー低減機能は結構うれしい実用的な機能のひとつ。ファームアップで対応してくれたのはありがたいところ。
▲標準の文字サイズは、結構小さくて確認しづらいと感じている人もいると思う。そんな人のためにサイズを変更したり、要らないものを表示させなくすることができる機能を実装。これだけで露出設定ミスが少なくなる。
★Ver.4.01からVer.5.00への変更内容
01 撮影モード時の情報表示内容の拡大表示とカスタマイズ設定
02 フリッカー低減機能追加
03 フォルダー選択・フォルダー作成機能追加
04 像面位相差AF性能の向上(新たなAFアルゴリズムにより像面位相差AF性能が向上)
1) 低照度限界を0.5EVから-1EVへ約1.5段分拡張
2) 像面位相差AFが動作する絞り値をF8からF11へ拡大
3) ズーム操作中のAF-C機能が向上
4) 捕捉性能の向上
05 カメラ設定の保存・読み出し機能にカスタム登録/編集の設定内容を追加
【まとめ】ファームアップでカメラが新しくなる感覚
このように、ファームアップでは便利で新たな機能が次々と追加されていく。Ver.5.00というのはかなり極端な例かもしれないが、ファームアップで持っているカメラが新しくなる感覚も生まれるほどで、ユーザーとして悪い気はしない。ただ、時折ファームアップによる不具合なども生じることもある。コツとしては、ちょっと間を空け、評判などを聞きながら具合を見て更新するといいだろう。
また、ボディだけでなくレンズのファームアップも忘れずに。最新ファームウエアの確認やファームアップの方法は各メーカー公式サイトで確認できるので、ぜひチェックしておこう。
▲カメラ本体だけでなく、レンズのファームアップもぜひ確認しておこう。Xシリーズの初期メンバーとなる上の写真のXF35mm F1.4 Rの現在のファームウエアはVer.3.10で、X-Pro2での使用時、OVFのパララックス補正の追従向上がなされている。