機材レポート

小三元は性能、使い勝手、価格の総合力! パナソニック「LUMIX S PRO 16-35mm F4」レビュー

パナソニックは、LUMIX Sシリーズ用交換レンズ「LUMIX S PRO 16-35mm F4(S-R1635)」を2019年12月25日に発売した。これでパナソニックのSシリーズ用交換レンズは、16-35mm F4→24-105mm F4→70-200mm F4と、16mm~200mmまでF4のズームレンズでつながったことになる。このF4のズームレンズ、いわゆる“小三元レンズ”は、利便性と描写、そして価格をハイレベルでバランスさせることを狙ったレンズだ。

スペックを簡単に記しておこう。

●焦点距離 f=16-35mm
●最小絞り値 F22
●開放絞り F4.0
●絞り形式 9枚羽根 円形虹彩絞り
●撮影可能範囲 0.25m~∞(撮像面から)
●最大撮影倍率 0.23倍
●フィルター径 77mm
●参考価格209,000円

機能面では、フォーカスクラッチ機能を搭載。また防塵・防滴構造になっている。本レンズは長さ99.6mm、重量もレンズ単体で約500gと軽量だ。前玉は出目金ではないのでフィルターの装着は可能である。

 

LUMIX S PRO 16-35mm F4を実写チェック

以下、実践のなかで感じたことを踏まえて本レンズを解説していこう。

解像

解像のピークはF9もしくはF10あたりであろう。解放F4からエッジの立ちは良く、F5.6も絞れば中心、周辺ともにしっかりと解像してくる。筆者はF4通しのレンズであれば解放から使いやすいレンズであるべきだと考えているので、本レンズの特性は歓迎である。

<F4>

パナソニック LUMIX S1 F4 1/2500秒 ISO100 16mm

 

<F4(中心部)>

 

<F4(周辺部)>

中心、周辺ともに解放F値でありながらもシャープな解像を見せている。

 

<F5.6>

 

<F5.6(中心部)>

 

<F5.6(周辺部)>

一段絞ったF5.6では、中心周辺ともにしっかり解像していることがわかる。また、周辺光量もF5.6で安定してくる。

 

<F11>

 

<F11(中心部)>

 

<F11(中心部)>

解像ピークを少し過ぎたあたりになるのだが、被写界深度の深さを必要とする画を撮る場合、このあたりまで絞る方もいるだろう。筆者も自然風景の写真撮影時はF11やF13まで絞って撮影することが多い。昨今デジタルカメラ用に設計されたレンズは、F11やF13あたりで回折現象が現れることがあり、筆者はそれ以上絞って撮影することは少ない。本レンズは、F11あたりではもちろん、F16あたりでも回折現象の顕著な発生は見られなかった。さすがにF22まで絞ると回折現象が現れるため、そこまで絞って撮影することが多い方はカメラ側で「回折補正」を設定することをおすすめする。

 

コントラストとグラデーション再現

ズーム全域でコントラストが高い印象で、ヌケのいいメリハリのある画が撮れる。

パナソニック LUMIX S1 F8 1/500秒 ISO100 +0.3ステップ 35mm

強い点光源(夕陽)を右下に入れた状態で撮影。カラーグラデーションが破綻しないか確認したが、夕暮れ空のゆるやかなグラデーションを破綻なく再現している。また、ヌケのいいメリハリのある画になっている。

 

パナソニック LUMIX S1 F9 1/80秒 ISO200 0ステップ 16mm

日が落ちてからのシチュエーションでも破綻なく美しいグラデーション再現を見せる。夕焼けの赤と宵の青が入り混じるマジックアワーの空を美しく描写している。

 

パナソニック LUMIX S1 F9 1/400秒 ISO100 0ステップ 26mm

本レンズを使っていくなかで、特に青の出方がきれいだと感じた。なんともいえないシットリ感のある青の発色が印象的なレンズである。

 

パナソニック LUMIX S1 F7.1 1/400秒 ISO400 -1ステップ 35mm

もちろん赤系の発色もきれいなグラデーションを見せるのだが、筆者としてはしっとり感のある青の発色が印象に残った。

 

ディストーション

パナソニック LUMIX S1 F5.6 1/6秒 ISO3200 0ステップ 35mm

レンズが持つそもそものコントラストの高さは、水面に映る反射の再現に影響を及ぼす。本レンズは、コントラストが高いため水面が映し鏡のように再現されている。ここでは同時にディストーションにも触れておきたい。ワイド端16mmでは軽いたる型を感じるものの、素直なたる型で編集ソフトでの補正は容易であろう。個人的には次のファームアップではカメラ側からの補正をもう少し強くしてもいいのではないかと思う。ズーム領域を標準領域へ進めていくと、糸巻型にはならず上の写真のようにすっきりと納まってくる。

 

もう1枚確認しておこう。

パナソニック LUMIX S1 F5 1/10秒 ISO6400 0ステップ 33mm

こちらも焦点距離が標準領域まで入った画であるが、こうした赤レンガ倉庫の壁や中央にある橋、水面の反射などで画を構成する場合、大きなたる型や糸巻型のディストーションが発生するレンズだと画がたわんでしまうのだが、本レンズは、上述のような「縦横」の線を大事にする画を撮影した場合でも気になる画のたわみは出てこない。また、強い点光源が画の中にあるのだがゴーストの姿は見当たらない。

 

ゴースト

パナソニック LUMIX S1 F11 1/1000秒 ISO200 +0.3ステップ 35mm

 

パナソニック LUMIX S1 F6.3 1/6400秒 ISO200 -1.3ステップ 35mm

本レンズは、ゴーストの発生が非常に上手に抑えられている。1枚目では画面右下に太陽を配置している。こうした配置では左上に向かってしばしば派手なゴーストが姿を現すことがあるのだが、本レンズでは見られなかった。2枚目も同様で、強い朝日の光は写真のような場所に配置して撮影するとゴースト耐性の低いレンズでは雪原に派手なゴーストが姿を現すことがあるのだが、本レンズはそうしたことが起こらなかった。

 

ボケ味

本レンズは、35mmのテレ端ではなめらかなボケ味を見せる。

パナソニック LUMIX S1 F4 ISO200 1/8000秒 +0.3ステップ 35mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 ISO320 1/80秒 0ステップ 35mm

広角レンズではあるものの、35mmという標準領域をカバーする本レンズは、F4通しながらなめらかなボケ味を見せる。1枚目は枝の部分を見てみると、なめらかなボケ味のおかげでゴチャゴチャっとしたイメージにならずに済んでいる。また二線ボケも見当たらない。2枚目は、最短撮影距離での撮影だが、広角ズームレンズらしからぬボケを見せている。周辺部に軽い口径食は見られるものの、F4通しの広角ズームレンズと考えれば特に気になるものではない。

 

日常を切り取る

パナソニック LUMIX S1 F4 1/8000秒 ISO1600 0ステップ 35mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4.5 1/40秒 ISO1600 0ステップ 35mm

筆者は、街歩きスナップを撮影する場合、あえて広角ズームレンズで撮影をすることがある。広角ズームレンズは最短撮影距離が短い場合が多く、ググっと寄ってメインの被写体を強調しながら撮影したり、画角ごとに背景の入れ方を変えて街並みを切り取って撮影したりと「寄って、引いて」というパースを使った画作りが楽しめるからだ。本レンズも最短撮影距離が25cmと短く、またレンズ単体で約500gと軽いため軽快に街歩きスナップ撮影を楽しむことができた。

 

パナソニック LUMIX S1 F4 1/30秒 ISO1600 +0.7ステップ 35mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 1/25秒 ISO2500 +0.7ステップ 35mm

テーブルフォトでも最短撮影距離が短いと、同じ焦点距離35mmでもこうして「少し間を開けた画」と「グッと寄った画」の2種類の画を撮影できる。本レンズはコントラストが高いため1枚目ではウニやエビの身と頭、手前のホタテ、2枚目はエビの殻など「良いテリ」が出ている。食品写真はこの「テリ」の質感と積み重ねが全体の「しずる感」につながっていく。

 

広角レンズならではのパースペクティブ効果

<16mm>

パナソニック LUMIX S1 F4 1/40秒 ISO12800 0ステップ 16mm

 

<24mm>

パナソニック LUMIX S1 F4 1/40秒 ISO12800 0ステップ 24mm

 

<35mm>

パナソニック LUMIX S1 F4 1/40秒 ISO12800 0ステップ 35mm

広角の特性「パースペクティブ効果」を使い、街並みを切り取っていく。その際、上述で述べた通りディストーションが重要な要素となる。こうした画を撮影する際、建物や電柱、街灯や道路の際などで空間の奥行きを演出していくのだが、ディストーションが多いレンズで撮影するとやたらと「たわんだ画」になってしまう。しかし、本レンズはディストーションが少ないため各焦点距離の特性を存分に活かしながら構図構成ができる。

 

Lモノクローム

パナソニック LUMIX S1 F4 1/500秒 ISO400 -1ステップ 16mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 1/2500秒 ISO400 -1ステップ 16mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 1/80秒 ISO6400 -1ステップ 29mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 1/160秒 ISO100 -1.7ステップ 35mm

LUMIX S1に搭載されているフォトスタイルのなかに、何やら意味深な「L」の文字が付いた「L.モノクローム」というモードがある。このモノクロームモードは階調表現が良く、筆者はSシリーズでモノクローム写真を撮影する際、好んでこのモードで撮影している。レンズの特性と相まってさらに味わいのある画になるようだ。

 

手ブレ補正

巷ではパナソニックのカメラは手ブレ補正が秀逸といわれている。筆者も以前アイルランドロケでS1Rを使った際、手ブレ補正の優秀さに驚いたことがあった。今回はS1と本レンズの組み合わせでどこまでいけるかを試してみた。いつものように段数ごとに細かく見ていくのではなく、今回は一気に2.5秒で手ブレ補正ON/OFFの違いを見てみよう。身体を壁や柵に押し当てなるべくカメラやレンズが動かないように固定しシャッターを切る。

<手ブレ補正ON>

パナソニック LUMIX S1 F8 2.5秒 ISO400 +0.3ステップ 27mm 手ブレ補正ON

 

<手ブレ補正OFF>

パナソニック LUMIX S1 F8 2.5秒 ISO400 +0.3ステップ 27mm 手ブレ補正OFF

手ブレ補正ONでは5連写中3枚がキッチリ止まっていた。NGだったのはシャッターを押してすぐの1枚目とシャッターボタンを離した5枚目であった。OFFではご覧の通りブレまくりで使い物にならない画である。S1と本レンズの組み合わせでも手ブレ補正は優秀な結果を出してくれた。街歩きスナップ撮影では、できるだけ身軽に動きたいため筆者は三脚を持ち歩かない。2.5秒もの長丁場を止めてくれる強力な手ブレ補正は非常に心強い存在だ。

 

ナイト撮影

パナソニック LUMIX S1 F4 13秒 ISO20000 0ステップ 16mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 13秒 ISO12800 0ステップ 16mm

 

パナソニック LUMIX S1 F4 13秒 ISO8000 0ステップ 18mm

F4通しのレンズであっても高感度ノイズが少ないS1との組み合わせであればこうした星空撮影やナイト撮影も可能だ。どの写真もISO8000以下はなく、1枚目の星空の写真に至ってはISO20000で撮影している。かなりの高感度で撮影しているがS1は高感度ノイズが非常に少ないためF4通しの本レンズでもナイト撮影が可能であった。タイムラプスも撮影しているのでそちらもあわせてみていただければ幸いである。

 

【まとめ】小三元は総合力

冒頭で述べたように、いわゆる小三元レンズは「性能、使い勝手、価格」がハイレベルでバランスされているかどうかが重要である。絶対性能では大三元レンズに一歩譲るものの、軽さや小ささでは優位にあり、日常過不足なく使え、お値段も優しいレンズという立ち位置だ。

 

そういった視点で見ていくとLUMIX S PRO 16-35mm F4はメーカー純正レンズらしく本道を全うしている。本レンズは、軽快さが必要な街歩きスナップ撮影から本格風景写真撮影まで広く対応するハイレベルなレンズである。