機材レポート

星景撮影の新・必携アイテム! 欲しかった“ちょうどいいにじみ”が得られるソフトフィルター「PRO1Dプロソフトン クリア(W)」撮り比べレビュー

2020年6月5日にケンコー・トキナーから新型のソフトフィルター「PRO1Dプロソフトン クリア(W)」(以下、プロソフトンクリア)が発表された。多くの星景写真を撮影するフォトグラファーにとっては、注目の新型フィルターといえるだろう。

▲従来のプロソフトンシリーズよりもソフト効果の弱い「PRO1Dプロソフトン クリア(W)」。フィルター径は49mm、52mm、55mm、58mm、62mm、67mm、72mm、77mm、82mmの9サイズが用意される。価格はメーカー希望小売価格が49mm径で4,800円、もっとも大きな82mm径で9,200円となっている。

 

▲装着イメージ

天体や星景撮影の定番ソフトフィルターである「プロソフトン」シリーズのねじ込み式の丸型フィルターには、「プロソフトン(A)」(ソフト効果:弱)、「プロソフトン(B)」(ソフト効果:強)の2種類がすでに用意されている。今回登場したプロソフトンクリアは効果の弱いプロソフトン(A)に比べてさらにソフト効果が半分に抑えられているのが最大の特徴だ。

 

本稿では、なぜプロソフトンが天体や星景を撮影するフォトグラファーにとって必携なのか、また既存のプロソフトン(A)、プロソフトン(B)とプロソフトンクリアとの効果の違いを実写でお届けする。

 

カメラのデジタル化により、星の明るさで写るサイズに大小がつかなくなった

天体や星景写真でソフトフィルターを使うことはフィルム時代から行われていたが、現在ほどメジャーな手法ではなかった。なぜなら、フィルムで星を撮影すると、強い光が当たる部分でハロゲン化銀粒子が乱反射・拡散して本来なら光の当たらない周りの粒子まで感光させるイラジエーションが起きる。この結果、明るい星ほど大きく写り、なにもしなくても星を撮影するとそれぞれのサイズが異なって写る結果が得られていたのだ。

 

しかし、カメラのデジタル化により、フィルムは撮像素子に置き換わり、イラジエーションは発生しなくなった。そこでソフトフィルターを使って光の強さに合わせて星をにじませ、それぞれの星を異なるサイズで撮影する疑似イラジエーション的な手法が定番化した。なかでもKenkoのプロソフトンシリーズは、星のにじみ具合や形などが多くのユーザーから高く評価され、現在では天体・星景撮影の定番ソフトフィルターとなっている。

 

ただし、ねじ込み式丸型のソフトフィルターであるプロソフトンは星だけでなく、画面全体の像をぼかすので、星景写真などでは地上の風景部分にもソフト効果が掛かる。そのため地上の風景部分がソフトになりすぎることもあり、状況によってソフト効果の強いプロソフトン(B)と効果の弱いプロソフトン(A)を使いわけていた。それでもソフト効果が強すぎると感じるユーザー向けに、今回新たにプロソフトンクリアが発売されたのだ。

 

以下、実際のソフト効果の違いを作例とともに見ていこう。

プロソフトン(B)

NIKKOR Z 20mm f/1.8 S /Nikon Z 7/20mm/マニュアル露出(F1.8、10秒)/ISO 6400 /WB:4,000K/ピクチャーコントロール:ビビッド/MC プロソフトン(B)N

プロソフトンのなかでももっともソフト効果の強いプロソフトン(B)。個人的にはソフト過ぎる印象。ただし星を目立たせるには有効だ。

プロソフトン(B)でのおすすめの撮影シーン

・とにかく星を大きくにじませたいとき
・地上の風景が入らない天体写真
・レンズが超広角過ぎてソフト効果が足りないシーン

 

プロソフトン(A)

NIKKOR Z 20mm f/1.8 S /Nikon Z 7/20mm/マニュアル露出(F1.8、10秒)/ISO 6400 /WB:4,000K/ピクチャーコントロール:ビビッド/PRO1D プロソフトン[A](W)
プロソフトン(B)とプロソフトンクリアの中間的な効果になるプロソフトン(A)。迷ったらプロソフトン(A)という判断もありだろう。

プロソフトン(A)でのおすすめの撮影シーン

・地上の風景の割合が少ない星景写真
・超広角レンズでの星景写真
・悩んだらとりあえずプロソフトン(A)でテスト

 

プロソフトンクリア

NIKKOR Z 20mm f/1.8 S /Nikon Z 7/20mm/マニュアル露出(F1.8、10秒)/ISO 6400 /WB:4,000K/ピクチャーコントロール:ビビッド/PRO1Dプロソフトン クリア(W)

プロソフトン(A)や(B)に比べると星のにじみ効果は薄いが、星景写真において地上の風景部分のシャープネスが保たれるのがうれしいところだ。

プロソフトンクリアでのおすすめの撮影シーン

・地上の風景の多い星景写真
・焦点距離の長いレンズでにじみ過ぎるとき
・プロソフトン(A)や(B)がソフト過ぎると感じるとき

 

参考用:フィルターなし

NIKKOR Z 20mm f/1.8 S /Nikon Z 7/20mm/マニュアル露出(F1.8、10秒)/ISO 6400 /WB:4,000K/ピクチャーコントロール:ビビッド

フィルターなしだと当然画面全体が非常にシャープだ。ただし、一度プロソフトンの疑似イラジエーション的な効果を体験すると星の描写が物足りない。

 

選択できる効果の幅が広がったメリットは大きい

赤道儀などを使って夜空の星だけ追尾しながら撮影する天体撮影よりも、カメラを三脚に固定して長秒露光で広角レンズを使い、風景と共に星空を撮影する星景写真を楽しむユーザーのほうが多いのではないだろうか。そういう筆者も小型の赤道儀は所有しているものの、やはり三脚で固定して明るい広角レンズで星景写真を撮影する機会のほうが圧倒的に多い。カメラはデジタルなので、擬似イラジエーション的な効果が得られるプロソフトンフィルターはプロソフトン(A)も(B)も所有しており、常用している。

 

しかしながら、ソフトフィルターであるプロソフトンを使うと、画面全体にソフト効果がかかり、地上の風景もソフトになってしまう。だからといって、プロソフトンを使わないと空の星にインパクトがなくなり寂しい。それを解決するために、ハーフプロソフトンという半分だけがプロソフトンになっている角型のハーフフィルターもあり、撮影で使っている。しかし、角型フィルターなのでレンズに取り付けるアダプターリング、フィルターホルダー、これに加えてフィルターが必要になり、暗闇のなかで操作するのは、それなりに面倒で慣れも必要だ。しかも、小さなものでも100×125mmサイズなので値段も高く、だれにでもおすすめできるフィルターではない。

 

これらに対してプロソフトンクリアはプロソフトン(A)の約半分というソフト効果のバランスがよく、星景写真を撮影する際にいままで以上に気軽に使えるフィルターに仕上がっており、個人的な満足度は非常に高い。今後星景写真の定番フィルターになるだろう。

 

ただし、プロソフトンクリアがあれば、いままでのプロソフトン(A)や(B)がいらないかといえばそうではない。これはプロソフトンだけでなくソフトフィルター全般にいえるのだが、焦点距離の長いレンズに装着するほどソフト効果が強調されるという特性をもっている。逆にいうと焦点距離の短い超広角ほどソフト効果が弱くなるわけだ。そのため、地上の風景が入らない天体撮影なので星をもっとにじませたいとか、超々広角レンズのためプロソフトンクリアではソフト効果が足りないというシーンも想定される。要はレンズ焦点距離や撮影意図によって組み合わせを変えて、ベストの効果を得るには、3枚のプロソフトンを組み合わせて使うのがおすすめである。

 

また、ソフトフィルターの効果は観察する写真のサイズにも大きな影響を受けるので、小さなサイズで見る写真には強く、大きなサイズで見る写真には弱くかける必要がある。そのため、選択できる効果の強弱が広がったという意味でもプロソフトンクリアは天体や星景撮影を楽しむユーザーにとっておすすめの新製品といえる。星景撮影好きなら必携、これから天体、星景撮影に挑戦する方にはぜひ使ってもらいたいソフトフィルターだ。

▲PRO1D プロソフトン[A](W)と同じように広角レンズに装着してもケラレの発生しにくい薄枠タイプになっている。