伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2021年4月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、フルサイズミラーレス用に専用設計された中望遠マクロレンズ「キヤノン RF85mm F2 MACRO IS STM」と「シグマ 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art」の2本をチェック。特にシグマ105mmについては、Lマウント用、Eマウントの両マウントを使い、Lマウントにテレコンを装着したときの描写力についても検証した。
キヤノン RF85mm F2 MACRO IS STM
ピント面に滲みがなくキレの良い描写
最大撮影倍率1/2倍のハーフマクロなので、等倍マクロのように花のシベをドアップで撮影するには力不足だが、開放F2の浅い被写界深度と大きなボケを生かした撮影を楽しめる。近接撮影時でも絞り開放からピント面に滲みはなく、キレの良いシャープな描写が得られるレンズだ。
ピント面から自然にぼけていく
球面収差がほぼ完全に抑えられ、絞り開放から解像力が高いレンズなので、滲みを伴うクリーミーな後ボケではないが、後ボケだけでなく前ボケも穏やかで、ピント面からスムーズかつ自然にぼけてくれる。周辺部でボケが乱れにくいのも好感が持てる。
ヒガンバナを撮影してもボケがうるさくならない
ヒガンバナを俯瞰で撮影。ピントをどの部分に合わせるべきか悩ましく、微ボケに二線ボケが出やすい被写体だが、このレンズはそういった目障りなボケはほとんどなく、自然な立体感で主要被写体を浮かび上がらせてくれる。
優しいピンクのボケがサクラな花を浮かび上がらせる
早春の訪れを彩るカワヅザクラ。まだ満開ではなく、つぼみも多かったので、垂れ下がった枝に咲くサクラを絞り開放で撮影し、背景をピンクのボケで包み込んでみた。ボケのコントラストが強すぎず優しくぼけてくれ、ピントを合わせた桜の花がクッキリと浮かび上がった。
合焦後のサーボAFは安定した動き
「EOS R5」「EOS R6」の動物瞳AFは、残念ながらチョウには非対応なので、スポット1点AFでチョウの頭部を狙ってサーボAF撮影。STMなのでフォーカス駆動はさほど速くはなく、大ボケからピントが合うまでは少しモタつくが、ピントが合ってからの追従は安定している。
F5.6まで絞ると細部まで際立つ解像
羽村市動物公園内に静態保存されているSL、C58。絞り開放でも十分シャープなレンズだが、F5.6まで絞ると細部まで線が細く、際立った解像が得られる。4500万画素の「EOS R5」の細部描写性能を最大限に引き出してくれるレンズだ。後ボケの枯れ枝は多少ざわつくが、二線ボケというほどうるさくはない。
条件が合えば檻越しの動物撮影にも使えそう
羽村市動物公園のサーバル。開放F2と明るいので、檻越しの動物を撮影できないかと試してみたが、柵とサーバルまでの距離が近く、檻の存在を消しきれなかった。ただ、檻越しでもサーバルの毛並みはキリキリにシャープだ。もっと檻に近づけ、動物も檻から離れていれば、もっとキレイに檻を抜けると思う。
軸上色収差もごく軽微
横浜関内の猫カフェ Miysisにて。あまり光量がない室内では、開放F2の明るさは感度を抑えて撮影できるのでありがたい。猫の白いヒゲや毛並みを見ても、軸上色収差によるボケの色づきはごく軽微で、動物瞳AFでピントを合わせた目は絞り開放とは思えないほどキレキレの描写だ。
口径食は少ないがわずかにハイライト際に色づきが
絞り開放の口径食をチェック。周辺部で多少レモンボケにはなるが、周辺でボケが渦を巻いたようにはならず、フィルター径が小さめのレンズにもかかわらず、口径食は少なめだ。F4まで絞れば、四隅までほぼ円形の玉ボケになる。ただ、葉っぱの輪郭のように輝度差の大きな輪郭に軸上色収差によるボケの色づきが感じられる。
画角直近に光源があるとフレアが発生することも
特に逆光に弱いというわけではないが、画角内外の直近に強い光源があると、フレアが発生して画面全体が白っぽくなるポイントがある。フードでも防ぎきれないので、撮影ポジションを変える以外に対処法はないが、逆にこのフレアを生かした表現も、このレンズならではの持ち味だと思う。また、後ボケの輪郭に少し緑のフリンジが出ている。
シグマ 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art
絞り開放から高い解像性能
咲き始めのカワヅザクラをアップで撮影。105mmの中望遠マクロなので、背景として写り込む範囲も狭く、撮影ポジションを工夫することで、すっきりとした背景に整理し、フワッと大きくぼかすことが可能だ。絞り開放の解像性能も高く、しべの花粉のディテールもしっかり再現されている。
被写界深度は浅いがピント面はしっかり解像
新型コロナの影響でなかなか遠くまで撮影に出かけられない状況だが、マクロレンズなら自宅や近所に絵になる被写体がいっぱいある。近所で見つけた花のつぼみの先端にピントを合わせ、絞り開放で撮影したカット。針の先ほどに浅い被写界深度だが、つぼみ先端のつぶつぶがしっかり写っている。
クセのない自然なボケ描写
団地の花壇に咲いていたクリスマスローズをチルトモニターを使い超ローポジションで見上げるように撮影。花の中央のしべにピントを合わせているが、前後の微ボケもクセがなく、とても自然なボケ味だ。花びらの輪郭と明るい背景の境目に色づきはまったくなく、アウトフォーカス領域の倍率色収差もほぼ完璧に補正されているようだ。
ボケている花の輪郭に色づきは見られない
近所で撮影したウメの花。まだつぼみが多い咲き始めの枝を探し、背景がゴチャゴチャとうるさくならないポジションを探して撮影してみた。ピントを合わせた花はもちろん、ぼけている花の輪郭にも一切の色づきがなく、ウメの白い花びらがちゃんと白く再現されている。つぼみや枝に反射して光っている部分のボケもきれいだ。
倍率色収差は完璧に補正されている
倍率色収差のチェックには、光を反射して光っている金属を絞り開放で撮影してみるのがイチバン。輝度差の大きな輪郭にパープルフリンジが浮かず、前後のボケに緑やマゼンタの色づきが出なければ、倍率色収差の補正は完璧。このレンズは、パープルフリンジやボケの色づきは一切なく、被写体本来の色でぼけてくれる。ボケの縁取り感も少なめだ。
コントラストが高い被写体にも安心して使える
自転車も色収差の有無が顕著に出やすい被写体だが、ピントを合わせた黒いサドルはもちろん、後ボケになっているハンドルの反射を見ても、まったく色浮き、色づきはなし。後ボケだけでなく、前ボケもクセがなく、微ボケもうるさくなりにくいので、高コントラストな被写体も安心して撮影できる。
テレコンを使っても画質面で不満はない
このレンズはソニーEマウントとライカLマウントがあるが、Lマウントには1.4倍と2倍のテレコンバーターを装着できる。このカットは、自宅の窓際に置きっぱなしになっていた霧吹きを、1.4倍のテレコンバーターを装着し、絞り開放で撮影している。マスターレンズの性能が非常に高いので、テレコンを使っても画質に不満はまったく感じない。
147mm F4相当、最大撮影倍率は1.4倍のレンズに
1.4倍のテレコンバーターを装着すると、147mm F4のマクロレンズとなり、最大撮影倍率も1.4倍と高くなる。画角が狭くなるので、それだけピンポイントに被写体を切り取ることができ、より離れた撮影ポジションからアップで撮影できるのが強み。このカットは近所の花壇に咲いているスイセンだが、別のスイセンを前ボケ、後ボケに大きく取り入れ、ピントを合わせたスイセンだけ浮かび上がるように撮影している。
200mm F5.6相当、最大撮影倍率は2倍に
2倍のテレコンバーターを装着すると、210mm F5.6の望遠レンズになる。これは、前のカットとほぼ同じ撮影ポジションで撮影したカットだが、さらに画角は狭くなり、前ボケ、後ボケも大きくなるので、ピントを合わせたスイセンがより大きく浮かび上がる。ボケの輪郭にわずかに色収差の影響が感じられるが、2倍テレコンを装着しているとは思えないほどの解像とコントラストだ。
檻越しのレッサーパンダの毛並みをきっちり解像
羽村市動物公園のレッサーパンダを檻越しに撮影。開放F値はF5.6と明るくはないが、檻とレンズの距離が近いので、ほぼ檻は消えている。シグマのLマウントレンズは、現時点においては、パナソニック独自のDFDには非対応で、通常のコントラストAF制御になるので、AFCでは、ウォブリングでフォーカスが前後に微動し続ける。そのため、動物が静止した瞬間をAFSで狙うのが快適だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。