伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2021年6月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2021年6月号の「レンズパラダイス」Other Shotsはタムロンから発売された、小型軽量化を実現したAPS-C専用の大口径標準ズーム「17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD」とフルサイズ対応の望遠ズーム「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」をチェック。ダブルズームとしての有効性などについても検証してみた。
タムロン 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD
F8まで絞るととても鮮明な描写に
富士芝桜まつりの会場からズーム中域で富士山をアップで撮影。比較的空気の揺らぎの影響は少なく、絞りをF8まで絞っていることもあり、富士山の残雪と山肌のディテールがピクセル等倍鑑賞でも鮮明に描写されている。
テレ端絞り開放でもクッキリと解像する
調布飛行場に着陸する小型機を隣接する公園から、「α7R IV」の10コマ/秒でAF-C連写。ハイライトの輪郭にパープルフリンジがわずかに浮きかけているが、テレ端絞り開放とは思えないほど、機体のリベットや放電索までクッキリ解像している。
青空バックでは周辺減光がやや目立つ
上空を飛ぶ軍用機をテレ端開放で撮影。通常撮影ではさほど気にならないが、青空バックでは周辺減光がやや目立つ。フルサイズの300mmでは、距離が離れているヒコーキや野鳥を撮るには力不足だが、しっかり解像しているので、高画素機ならトリミングという手もありだ。
二線ボケ傾向もなく柔らかいボケ味
チューリップの花びらに太陽の光が反射して光っているハイライトは少しにじみを伴うが、その分、後ボケは柔らかく、二線ボケの傾向は少なく、美しくぼけてくれる。口径食によるボケの欠けもそれほど目立たず、ぐるぐるボケにはなっていない。
少し残る柔らかさも花などにはピッタリ
花びらが傷んでいるチューリップが多かったものの、状態の良い個体を探し、望遠の狭い画角で切り取り、背景に赤やオレンジ、黄色のチューリップを配置し、絞り開放でぼかしてみた。絞り開放では少し柔らかさが残るが、花やポートレートには好ましい描写だ。
口径食は多少あるものの中央は問題ないレベル
テレ端開放の口径食をチェック。非球面レンズを使っていないので、背景の玉ボケに輪線ボケは出ておらず、輪郭の縁取り感も少なめだ。ピントを合わせた画面中央部の八重桜の花びらでは、安定した解像が得られている。
APS-Cサイズで使えば450mm相当の望遠が可能
450mm域のJAXAの実験用ヘリコプター。テレ端までズームしても望遠が不足するので、「α7R IV」をAPS-Cクロップして450mm相当で撮影。ローターに動感を残すため1/320秒のシャッター優先にした結果、F10まで絞り込まれたこともあり、ピクセル等倍でも機体の細部までクッキリと再現されている。
α6000シリーズのボディに最適な軽さ
望遠ズームとしては軽量なので、APS-Cのα6000シリーズにもピッタリ。ただ、手ブレ補正は非搭載なので、ボディIS搭載の「α6500」「α6600」との組み合わせがオススメだ。APS-C領域内の光学性能は非常に高く、微ボケがうるさくなりやすいシーンでも、自然なボケが得られるのが特徴だ。
お散歩撮影にも最適な1本
APS-Cなら最長で450mm相当の画角が得られるので、お散歩ついでの野鳥撮影や空港近辺でのヒコーキ撮影に最適。フォーカス追従スピードも速く、F8まで絞ればハイライトのにじみも収まり、キリッとシャープな像を結ぶようになる。
タムロン 17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD
絞りF7.1で手前から奥までシャープに描写
富士芝桜まつり会場にて。ピンクの芝桜の絨毯に白い芝桜でハートが描かれていたので、手前から奥の富士山までパンフォーカス的な描写を狙ってみた。ワイド端でF7.1まで絞っているが、被写界深度はフルサイズのF11相当なので、ごく近景以外はしっかりピントが合って見える。
ワイド端で手前にピントを合わせ成り行きでぼかして撮影
信州・小布施の千曲川ふれあい公園桜堤。トンネルのように八重桜並木が約4km続く名所だ。中望遠で圧縮効果を出して撮影するのが定番だが、せっかくの青空だったので、ワイド端で手前の花にピントを合わせ、後ろは成り行きでぼかしてみた。
F5.6で撮ると周辺まで高い解像性能を維持
山梨県北杜市のハイジの村 (山梨県立フラワーセンター)。ズーム中域で園内の建物と遠方に見える八ヶ岳を切り取ってみた。開放から2段絞ってF5.6で撮影しているが、周辺までキリキリに解像していて、高い解像での均一性はフルサイズを超える。
解像性能が高いぶんボケ味はやや硬め
長野県佐久市の新海三社神社の駐車場脇に並ぶ石像。夕方の斜光線が当たってフォトジェニックだったので、絞り開放で前後をぼかし、奥行き感を演出してみた。解像性能が非常に高いぶん、前後のボケは少し硬めで、少し縁取り感もあるが、高解像レンズとしてはナチュラルなボケ味だ。
テレ端近接時は縁取りもなく理想的なボケ味
ズームテレ端開放で近接撮影。中遠景に比べると至近距離では絞り開放で少しだけにじみというかハロっぽさが出てくるが、解像はしっかりしていて葉脈の細い線もクッキリと再現。木漏れ日の後ボケも縁取り感はなく、理想的に美しいボケ味だ。
背後のマーガレットのボケ味が好印象
買い物に行く途中、花壇に植えられていたマーガレットを真俯瞰で撮影。絞り開放では被写界深度が浅すぎるので、F4.5まで絞って撮影しているが、被写界深度外の後方のマーガレットが非常に自然にぼけているのが好印象。軸上色収差によるボケの色づきも非常に軽微だ。
ゴーストは発生するが、破綻のない範囲
新海三社神社の林。夕陽が非常に明るく、普通に撮影したのでは、地面がほぼ黒つぶれしてしまうほどの強烈な逆光。そこをDRO Lv5でシャドー部を強引に持ち上げ、小絞りボケ覚悟で思い切り絞り込んで光条をキラリンと伸ばしてみた。ゴーストはそれなりに出るが、描写を破綻させるほどではない。
絞り開放から安心して使える描写性能
通常なら開放から2~3段絞って撮影するシーンだが、開放画質をチェックするため、あえて絞り開放で撮影。大木の葉っぱの1枚1枚が分離して見えるほど、キレの良い描写で、周辺部の画質の乱れもほぼ感じない。周辺画質も極めて高く、安心して絞り開放から使えるレンズだ。
ワイド端近接時も極めて自然なボケ味
垂れ下がった八重桜にピントを合わせ、ワイド端絞り開放で撮影。APS-Cクロップなので、同じ画角で同じF値、同じ撮影ポジションでは、フルサイズよりもボケは小さくなるが、Photoshopでガウスぼかしをかけたような、まったくクセがなく、広角としては驚くほど自然なボケ味だ。
これほど自然にぼけるレンズは希有な存在
自分へのご褒美として月イチの贅沢、蔵前のグルメバーガー店へ。大半のレンズはボケが幾重にも重なったり、軸上色収差でボケの縁取りが盛大に色づいてしまうケースだが、パティの肉汁に反射した光がこれほど自然にぼけるレンズは希少だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。