「ソニー α7 V」の実力をじっくりチェックする特別レポートの後編。前編では、「α7 V」の被写体認識AFや連写性能についてチェックしてみたが、今回は、画質について「α7 IV」や「α7C II」「α1 II」との比較を交えて、多角的に検証していこうと思う。

チェック① ダイナミックレンジ
「16ステップのダイナミックレンジ」の実力は?
連写を高速化したり、電子シャッターのローリングシャッター歪みを低減させるには、センサーからの読み出しを速くする必要がある。ただ、一般的にセンサーからの読み出しを速くすると、ノイズが増えて (S/N比が悪くなって)、ダイナミックレンジが低下したり、高感度撮影時のノイズが目立つようになりがちだ。
「α7 V」は、新開発の約3300万画素 部分積層センサーとBIONZ XR2を搭載することで、30コマ/秒の高速連写とローリングシャッター歪みの低減を実現している。そして、センサーからの読み出しが非常に速いにもかかわらず、ダイナミックレンジは従来機種「α7 IV」の最大15ストップに対し、「α7 V」は最大16ストップと、1段分ダイナミックレンジが拡大。その分、輝度差の大きなシーンに強くなっているのが特徴だ。
ただし、この最大16ストップのダイナミックレンジが得られるのは、「メカシャッターで撮影した場合」だ。しかも、撮って出しのJPEGで比較してもその差を見出すのは難しく、かつハイライト側のダイナミックレンジは拡張されないので、画面内に夕日など高輝度な被写体を入れて撮影しても、その周りの白トビ度合いも特に有意な差は見いだせなかった。
そこで、「−5EVの露出補正をかけてわざとアンダー露出で撮影し、RAW現像時に+5EVの露出補正を行って適正な明るさに補正をする」というシャドー部にストレスがかかる強引な画像処理を行って、主にシャドー部の階調やノイズを比較してみた。

純正ソフトの「Imaging Edge Desktop」のEditでは、+5EVもの大胆な露出補正に対応していないので、ロスレス圧縮形式で撮影したRAWを「Adobe Camera RAW」で現像出力 (+5EVの露出補正とカラーノイズ低減を [0] にした以外はデフォルトのままの設定) したもので検証している。
メカシャッター時の画質をチェック
■ISO100




■ISO200




■ISO400




■ISO800




■ISO1600




「α7 IV」のほうが黒つぶれやシャドーのノイズが目立つ、という結果を期待したものの、残念ながら (?)、メカシャッターで撮影したISO100は、「α7 IV」も「α7 V」もパッと見にはほとんど差がなかった。それでも、どこか差がないかとピクセル200%拡大してじっくり見比べると、「α7 IV」のほうが赤い輝点がポツポツと散在しているのに対し、「α7 V」にはそれがなく、カラーノイズも「α7 V」のほうがわずかに少ない感じだ。
こうした輝点やカラーノイズは画像処理で抑えられるので、「α7 IV」と比べて「α7 V」が圧倒的に強引な画像処理に強い耐性がある、とまでは言えないと思う。「α7C II」や「α1 II」でも同様の比較をしてみたが、「α7 IV」と「α7C II」はほぼ同傾向。「α1 II」は約5010万画素という画素数の高さと積層センサーということもあり、少しノイズの粒が尖っている分、多少ノイジーに感じるのは否めない。特に「α1 II」のISO400~500はノイズが目立ち、むしろISO640のほうがノイズは少なくなる。
電子シャッター時の画質をチェック
■ISO100




■ISO200




■ISO400




■ISO800




■ISO1000




■ISO1600




次に、電子シャッター撮影での画質を確認。どの機種もメカシャッターよりもノイズが増えるが、とりわけ「α7 V」はノイズが目立ち、黒の締りも悪くなる。「α7 IV」や「α7C II」は赤や緑の輝点がどんどん増えていくが、それ以上に「α7 V」の画質低下は著しく、ISO800時にもっともノイズが目立つようになる。
ただ、ISO1000になるとゲイン回路が高感度処理に切り替わるのか、いきなりノイズが目立たなくなり、「α7 IV」やα「7C II」と同等か、輝点が少ない分、少しだけ画質が良く見える。「α7 V」の電子シャッターで撮影する場合は、ISO200以下で撮影するか、一気にISO1000まで感度を上げたほうがシャドー部のノイズを目立たなくできる。
ちなみに「α1 II」はメカシャッターと同様、ISO640以上で高感度処理に切り替わるようで、ISO400~500で撮るよりもISO640で撮ったほうが低ノイズだ。「α7 IV」や「α7C II」は、ISO1600までの範囲では、ノイズ感が逆転する感度は確認できなかった。
ただ、これはあくまで−5EVのアンダー露出で撮影したRAWを、現像時に+5EVの補正処理をして出力する、という通常ではありえないほど強引で極端な画像処理を行って初めて露呈する差。少なくとも適正露出の撮って出しJPEGではほとんど気にならないほどの差である。
とはいえ、輝度差が極めて大きなシーンを撮影する際、白トビを回避するためハイライト基準で露出を決めると、標準的な露出レベルからは3~4段アンダーになることも多い。そこからRAW現像でハイライトを飛ばさないようにシャドーから中間調だけを持ち上げる画像処理を行うことで、HDRで撮影したような広ダイナミックレンジの描写を引き出せる。
「α7 V」のメカシャッター撮影時の「最大16ストップのダイナミックレンジ」は、そうした画像処理を行ってもシャドーに輝点が出にくく、適切なノイズリダクションを行うことことで、豊かな階調表現を実現できるポテンシャルを持っていること。その点は確認できた。


チェック② 高感度画質
ノイズを抑えつつどれだけディテールを保持できるか?
高感度画質も検証してみた。単にノイズが少なくても、ディテールがのっぺりと塗りつぶされた高感度画質では意味がない。できるだけ実際の撮影結果に近づけるため、被写体はマガモの剥製。最低感度のISO100で解像していた羽根の模様が、高感度でノイズを抑えつつどれだけディテールを保持できるのか? というのがポイント。
これも、「α7 V」だけでなく「α7 IV」「α7C II」「α1 II」の4機種でガチ比較してみた。ダイナミックレンジのテストと異なり、すべて適正露出の撮って出しJPEGを比較。シャッター方式はメカシャッター (電子先幕 [入] )、高感度ノイズ低減は [標準]、クリエイティブルックは [ST] で、明瞭度のパラメータを [0] に設定した以外は工場出荷時設定のままだ。
■ISO100




最低感度のISO100で撮影したものが、それぞれの機種で再現できる最高の細部描写性能だ。羽根のシャドー部の色味に若干の違いはあるが、約3300万画素の「α7 IV」「α7C II」「α7 V」の羽根の解像はほぼ同じ。画素数で優る約5010万画素でローパスフィルターレス仕様の「α1 II」はより羽根の細部まで解像できている。
■ISO1600




ISO1600になると、エッジの際立ちが少し損なわれるものの、どの機種もISO100と比べて羽根の細部の解像はまだまだ保たれている。
■ISO6400




ISO6400になると、羽根の模様が密集している低コントラスト部分が少し不鮮明になってきて、約5010万画素の「α1 II」の優位性も揺らぎ始めてくる。
■ISO12800




ISO12800に突入すると、どの機種も羽根の細部がベタッとツブレてきて、「α7 V」以外はシャドー部の彩度の低下が目立ってくる。
■ISO25600




ISO25600では、羽根の模様がほぼわからなくなり、1枚1枚の羽根の境目も不鮮明。特に「α1 II」は解像も彩度もグズグズで、せっかくの高画素が台無しだ。細部の解像は損なわれているものの、ノイズの少なさやシャドー部の彩度が保たれている点では約3300万画素モデルに軍配が上がり、なかでも「α7 V」のシャドー部の色味は好感が持てる。
■ISO51200




ISO51200になると、どの機種も羽根の描写はボロボロで、羽根もまったく分離できていない。ただ、ノイズはそれほど目立たないので、ヒコーキの機体など細部描写をさほど求めない被写体であれば、積極的に使いたいとは思わないが、縮小してSNSに投稿するくらいにはなんとか通用しそうだ。
チェック③ エクステンデッドRAW
無料の純正ソフトで利用できる自然な画素数拡大とノイズリダクション
「α7 V」(および「α1 II」) は、ソニー純正のRAW現像ソフト「Imaging Edge Desktop」の「エクステンデッドRAW処理」に対応している。エクステンデッドRAWには、画素数を4倍に補間拡大する「エクステンデットHi-Res」と、細部の解像を保ちつつ高度なノイズリダクションを行う「エクステンデッドNR」の2種類があり、いずれもディープラーニングを活用した画像処理により、1枚のRAWからより高画質な画像を生成できる。

似たような機能を持つ汎用ソフトもあるが、「Imaging Edge Desktop」は無償で使えるので余計な出費を抑えることができる。また、汎用ソフトに比べると比較的処理が速く、カメラメーカーが作る純正ソフトだけあって、解像感を高めようと不自然な書き足しがない。あくまで被写体本来のディテールを忠実に引き出してくれるのが特徴だ。
「Imaging Edge Desktop」の「Viewer」で、「α7 V」のRAW (.ARW) データを選択し、右クリックで表示されるコンテキストメニューの「エクステンデッドRAW処理」から「エクステンデッドHi-Res」か「エクステンデッドNR」を選ぶ。後は、画質調整で、ノイズリダクション強度[標準/強]とディテール[1~5]のパラメータを指定し、保存先と保存形式を確認後、実行ボタンを押すだけのカンタン処理だ。
画質調整のパラメータ設定は10通りあるが、個人的には、ノイズリダクション強度 [標準] + ディテール [2] がおすすめ。ディテール [5] が、最もディテールが鮮明になるが、かなりノイズも目立つようになる。そこまでディテールを重視しない被写体であればディテール [1] で大丈夫だが、撮って出しJPEGよりもノイズは減るものの、細部が少し甘く感じるかも。このあたりは何度か試してみて、自分にとって好みの設定を見いだすのがいいだろう。

エクステンデッドHi-Res
「エクステンデッドHi-Res」は、「α7 V」の約3300万画素を4倍の約1億3200万画素に補間拡大して出力できる機能。超望遠レンズでも大きく撮れない野鳥などを補間拡大後、トリミングするといった活用法が考えられるが、あくまで元データが「小さくても鮮明に写っている」ことが大前提。
似たような機能を持つ汎用ソフトには、ボケていたりブレている画像をより鮮明に修正してくれる製品もある。だがそれらは、AIを利用して足りない情報を推定して描き足しているので、実際の被写体とは異なるディテールになったり、存在しないアーティファクトが出現するなどの副作用もある。
「エクステンデッドHi-Res」は、あくまでオリジナルの被写体が持つディテールをできるだけ忠実に補間して拡大してくれる。パッと見た目の解像感は市販ソフトが上かもしれないが、写真として細部の破綻がほとんどないのが特徴だ。
■ハイレゾ効果比較


エクステンデッドNR
カメラの撮影メニューで高感度ノイズ低減を [標準] から [低] または [切] にすれば細部の解像がつぶれにくくなるが、当然、ノイズが目立ちやすくなる。それは「エクステンデッドNR」も同様だが、撮って出しJPEGよりも超高感度域で、ノイズを低減しつつもある程度の解像を保てるのが特徴だ。

ISO25600とISO51200で撮影したJPEG画像と同時記録したRAW画像に「エクステンデッドNR」を施し、撮って出しJPEGと比較してみた。画像調整は、ノイズリダクション強度 [標準] + ディテール [2] に設定している。
■エクステンデッドNR ISO25600


ISO25600では、撮って出しJPEGよりもノイズは少なくなっているものの、羽根のもっとも細かい部分は撮って出しJPEGよりも不鮮明。ただ、それよりも少し大まかなディテールはむしろエッジが際立って、全体の解像感は向上して見える。
■エクステンデッドNR ISO51200


ISO51200では、その傾向がさらに顕著になる。撮って出しJPEGでは羽根全体がベタッとツブレているが、「エクステンデッドNR」は羽根の大まかなエッジがしっかり残っている。最も細かい模様はツブレているが、大きな模様のエッジが残っていることで、本来のディテールは損なわれているものの、パッと見たときの解像感はISO51200とは思えないほどのクオリティだ。無料で使えるソフトでこれだけの効果が得られるなら、活用しないのは損だろう。

チェック④ オートホワイトバランス
BIONZ XR2の高度な処理が可能にした高性能なAWB
「α7 V」は、AIディープラーニングの活用で、オートホワイトバランスの精度が高まっている点も特徴だ。従来は、被写体認識や画像の解析から撮影シーンを推定し、オートホワイトバランス調整を行っているが、「α7 V」はAIディープラーニングで膨大な画像を学習させ、どんな被写体がどんな光源で撮影されているのかをデータベース化。それを参照することで、撮影中の画像から正確な光源推定を可能にしているという。
ちなみに、フラッグシップの「α1 II」の場合は、ボディグリップ横に可視光+IRセンサーを設置し、AIプロセッシングユニットからの被写体情報も合わせ、オートホワイトバランス精度の向上を図っている。
オートホワイトバランスがもっとも苦手とするのが、日陰の緑や枯れ葉が多いシーンで、実際に目で見る色よりもかなり青みがかってしまうことが多い。日陰なので青みがかって見えているのだが、特に枯れ葉などは色が抜けてグレーになってしまいやすい。そのため、自然風景を撮影する場合にはホワイトバランスを [晴天] や [曇天] に手動設定し、目で見たイメージに近づける必要がある ( [日陰] だと逆に黄色みが強くなりがち)。
■オートホワイトバランス比較
そこで、日陰の緑や枯れ葉が多いシーンで撮り比べてみて、明確に差が出たのがこのシーン。




「α7 V」だけが落ち葉の黄色みが抜けていない。さすがに、枯れ草にチーターというシチュエーションは学習が足りていないのか、動物園での撮影で、チーターの毛並みが少し墨っぽくなるケースもあった。
だが、日陰の青空カブリなどは手動でホワイトバランスを四苦八苦するよりも、自然な日陰に見える色合いに調整してくれる率が高かった。完全にオートホワイトバランス任せとまではいかないが、これまでよりはオートホワイトバランスに頼ってもいいかな? と思わせてくれる程度には進化が感じられた。
欲をいえば、光の色カブリを消すだけでなく、朝夕の赤みを強調するなど光の色カブリをむしろ強調してフォトジェニックに仕上げられるようなモードも欲しいところだ。
画質編まとめ
派手ではないが着実に進化した
「α7 V」の「16ストップのダイナミックレンジ」は、JPEG撮影ではその真価を感じることはほぼできないが、極端なアンダー露出で撮影したRAW画像を現像時に持ち上げるような極端な処理を行った場合、シャドー部のノイズに差が出てくる。
露出のミスだけでなく、輝度差の大きなシーンで白トビを避けるため、ハイライト基準の意図的なアンダー露出で撮影。RAW現像で中間調からシャドーの階調をうまく調整することで、ワンショット撮影でHDR合成したような高ダイナミックレンジの写真に仕上げることができる。
ただ、これはメカシャッター (電子先幕シャッターを含む) で撮影した場合で、電子シャッター撮影時はシャドー部に潜在するノイズが増える。特に、ISO640~800付近はシャドー部のノイズが多くなり、むしろISO1000で撮影したほうがノイズ的には有利だ。ほかのαではここまで極端な違いはなかったので、電子シャッター撮影で極端なRAW現像を行う可能性がある場合は、ISO640~800付近をできるだけ避けたほうが賢明だろう。
解像感という点では、約5010万画素でローパスフィルターレス仕様の「α1 II」とは、画素数以上の差を感じるが、ISO6400以上の高感度域では、「α7 V」のほうが特別な画処理を行わなくてもノイズ感が少ない。だから、被写体ブレを抑制するため、より高感度で高速シャッターという撮影を積極的にする気にさせられる。
また、日陰のオートホワイトバランス精度も従来の機種よりも青っぽさが少なくなり、大半のシーンはカメラ任せにしても自然な色合いで撮影できる。こんなふうに「α7 V」は、派手ではないが着実な進化を遂げていることを確認できた。