都市風景として思い描く写真の多くは、ビルが建ち並ぶ光景ではないでしょうか。高層ビルやシンボリックタワー、坂道や路地といった街の情景、みなさんが学校や仕事に通う日常的な街並みも、ふとカメラを通せば、非日常の世界に変わってしまう。そんな都会ならではの被写体の撮影テクニックやコツをご紹介いたします。
レンズの描写の特徴を理解して撮影に生かそう
広角、標準、望遠、マクロ、魚眼など、レンズにはいくつかの種類があり、それぞれが特徴的な表現効果を持ちます。単なる画角の違いだけではなく、これらの効果を使いこなすことで、ビル写真をイメージどおりに撮れるようになるのです。広角では、画角の広さを生かして大きなビルの全景を狙ったり、遠近の強調効果によってビルの高さを強調したりできます。望遠では、遠くのビルを引き寄せたり、特徴的な部分だけを切り取ったりするといいでしょう。
基本テクニック
広角+縦位置でビルの高さを、広角+横位置で連なるビル群を捉える
例えば、広角レンズと標準レンズで同じ並木道を撮った場合、広角のほうが長く続いているように写せる。これは広角レンズの特徴のひとつである、遠近の強調効果による。高さのあるビルを撮ると、その効果がとても生かせる。広角レンズでビル群を撮るときは広がりを強調できる横位置で、1棟の高さを出したいときは縦位置で狙うといい。
12ミリ相当
24ミリ相当
焦点距離が短いほど、遠近感が強調されて迫力が出る
高層ビル群を見上げて撮影。12ミリ相当の画角では、大きく傾いてビューンと伸びたビル群が印象的で、まさに肉眼を超えた世界になった。それに比べると、24ミリ相当では遠近感の誇張がおだやかである。
撮影:鹿野貴司
縦位置で曲がったビルの形状をそのまま見せる
ゆがみが印象的なビルを、広角34ミリ相当で見上げて撮影。このビルの全景を捉えるため、縦位置でそれだけをシンプルに切り取る。さらにここではホワイトバランスを「蛍光灯」に設定し、青空や金属に青みをプラスした。クールでどこか非現実的な印象に仕上がった。
34ミリ相当 絞り優先オート(F7.1 1/1250秒) ISO200 WB:蛍光灯
応用テクニック①
視覚的に面白い部分を望遠レンズで切り取る
望遠レンズは、画角が狭いという特徴がある。これにより遠くの被写体を引き寄せているように写せるのだ。ただ被写体を大きく写せるというだけでなく、写る範囲が狭いということも頭に入れておこう。そして、この効果を生かしてビルの直線を造形的に切り取ると、視覚的に面白いビル写真になる。
直線のパターンを生かしてデザイン的な作品に仕上げる
どちらも望遠レンズで建物を切り取った(左:428ミリ相当、右:122ミリ相当)。その際、平面的で幾何学を感じさせる部分に注目し。直線のパターンを生かしてデザイン的な作品に仕上げている。さらに左の写真は、黄色系の建物に青空という補色関係で色も意識。右の写真は空をカットして、建物の映り込みを生かしている。
応用テクニック②
魚眼レンズの歪みを利用してインパクトを出す
その名のとおり、魚の目のように非常に広い視野で撮影できるのが魚眼レンズだ。多くは画角が約180度あり、真横や真上、真下まで写る。しかも、直線的なものを画面端に置いて写すと、ぐにゃりと歪むのが特徴だ。なお、魚眼レンズでビルを撮る際は、主役のビルを歪ませるのではなく、周囲を歪ませるほうが効果的だ。
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可動式の背面モニターを見ながら、魚眼レンズを使ってローアングル撮影。遠近の強調効果は出ているものの、魚眼らしさはいまひとつだ。
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画面端に建物を入れて、意図的に歪んだ描写を作る
そこで、周辺のビルを画面に入れてみた。魚眼レンズならではの歪みと遠近の強調効果によって、画面の周辺のビルは大きく弧を描き、都庁舎の建物がビルと花に囲まれた。インパクト大である。
15ミリ相当 マニュアル露出(F16 1/80秒) ISO100 WB:太陽光
広角レンズ、望遠レンズ、魚眼レンズ、表現方法に合わせてレンズを選びます。ビルの高さや広がりを感じさせる広角レンズ。ビルの一部を切り取り豊かなデザイン性を表現する望遠レンズ。魚眼レンズでは、周辺をゆがませ、主役のビルを引き立たせインパクトを出す。それぞれのレンズを使い分けて、高層ビルの撮影をしてみましょう。