夏の夜を豪華に彩ってくれる花火は、日本の風物詩。きれいな花火を見るだけではなく、「デジタル一眼で撮ってみたい!」と思う被写体の一つです。今回は、花火写真家・金武 武さんに、花火をシャープに写すための撮影テクニックや、必要機材、入門者向けのQ&Aまで、いろいろ教えていただきました。季節限定のこの色鮮やかな絶景花火を、今年はきれいにカメラでとらえましょう!
撮影テクニック①
NDフィルターを使って光跡をシャープに描写する
NDフィルターは適正露出で撮るために欠かせないアイテム
年々花火は明るく鮮やかになっている。銀冠菊花火やナイアガラ、噴出花火などは特に明るい。これらの花火を適正露出で撮るために、長年試行錯誤してきた。
拡張機能で ISO 感度を低くすると、ダイナミックレンジが狭くなってしまう。F22 などに絞り込むと、今度は回析現象が出てしまう。A3 以上にプリントするならば回折現象は気にしたほうがよい。SNS に写真をアップする程度ならば、あまり気にしなくてよいだろう。
さまざまな方法を試してたどり着いたのが、ND フィルターの使用だ。ND を装着して、絞りを F5.6 ~ 13 程度で撮れば、どんなレンズでも画質のよい写真が撮れる。長年の経験から、基本の最低感度がISO100のカメラにはND4フィルター、ISO200 のカメラには ND8フィルターがちょうどよいと感じている。
暗い青い花火や和火でも、ND を装着したまま絞りを開けたり、ISO を上げたりして撮る。このほうがスムーズに撮影できるため、ND は欠かせない。
ND4を使用して銀冠菊花火のワイドスターマインを鮮明に捉える
拡大写真
熱海ではこのプログラムを「大空中ナイアガラ」と呼ぶ。打ち上げられる花火の最大サイズは直径 300 メートルの尺玉だ。銀冠菊は露出オーバーになると真っ白い塊になってしまうが、適正露出で撮れば光跡の 1 本 1 本を鮮明に描写すことができる。この大空中ナイアガラは、ND4 フィルターを装着し、 ISO100、F13 で適正露出になる。
ソニーα7RⅡ Vario-Tessar T FE16~35ミリF4 ZA OSS バルブ 26秒 絞りF13 ISO100 ND4使用
撮影テクニック②
明暗差のある花火やシーンを撮るときはハーフNDフィルターの出番
激しく光るスターマインは低空と上空では明暗差が激しい
肉眼では同じ明るさに見える花火でも、写真に撮ると一部分が露出オーバーになってしまうことがある。例えば、地上からシューッと噴き出す噴出花火(扇打ちなど)は、上空で開く花火に比べたらかなり明るいので、下側だけが露出オーバーになってしまう。シャッターを開けている時間を短くして露出オーバーを防ごうとすると花火の形が歪んでしまう。
こういう場面では、ハーフ ND フィルターが活躍してくれる。ハーフ NDの ND 部分を噴出花火に掛ければ、明暗差の激しいスターマインでも適正露出で撮影できる。
ハーフ ND フィルターにはさまざまな種類があるが、花火の撮影に適しているのは角形ハーフ ND8 ハードタイプだ。角形ハーフ ND は、ガラスをスライドさせて好みの位置で使うことができる。丸形 ND は常に画面の中心に境界があるので、構図に制約ができてしまうのだ。また、ハードとソフトがあるが、花火撮影ではハードがおすすめ。ハードは NDと透明ガラスの境界がハッキリしており、ソフトは境界が滑らかに変わるタイプだ。
自分の中でリハーサルを重ねてハーフNDの効果を事前に確かめよう
左はハーフ ND8 ハードタイプを使用して、扇形に噴き出す低空の花火とその上の柳花火に ND フィルターを掛けた写真。ハーフND を使用したおかげで、上空の花火とともにも適正露出で撮れている。ハーフ ND を使わないと、右の写真のように画面下の明るい噴出花火は露出オーバーになってしまう。
左写真:ニコンD600 AF-Sニッコール18~35ミリF3.5-4.5G ED バルブ 15秒 絞りF8 ISO100 ハーフND8使用
水面に映る花火をシンメトリーに写し撮る
水面で半円球に開花する花火を、水中花火または水上花火という。水面に映る光は肉眼では明るく感じるが、写真では暗く写ってしまう。見た目の印象に近づけるため、ハーフ ND8 ハードタイプを使用した。打ち上がる花火に ND 部分を掛け、水面は透明ガラスになるようにして撮影。次にどんな花火が開くのかわかっていないと撮れない写真だ。
オリンパスPEN-F M.ズイコ ー DIGITAL ED7~14ミリF2.8 PRO バルブ 18秒 絞り F7.1 ISO 200 ハーフND8使用
角形ハーフ ND フィルターは、レンズの前にホルダーを装着してから角形フィルターをスライドさせて使用する。中国のフィルターメーカーNisi には、各メーカーの超広角レンズ用専用ホルダーが用意されている。角形ハーフ ND は高価だが、花火の撮影にはマストなアイテムの一つだ。
撮影テクニック③
露光間ピントずらしを使って自分オリジナルの花火を撮る
操作は簡単だがピントリングを止める位置が難しい
シンプルな撮影方法である福田式撮影術は、子どものころに初めて見た花火の印象を表現するために、試行錯誤の末に編み出した手法だ(現在、私は金武だが旧姓が福田だったため福田式と呼ばれるようになった)。まずピントリングを近景側に合わせてから撮影を開始する。花火の開花に合わせてピントリングを無限遠方向に回して撮り終える。ピントリングを止める位置は、花火の先端に合わせるのがベスト。回し過ぎるとぼけてしまうので、ここが難しいところだ。露光中は液晶モニターもファインダーもブラックアウトして見えないので、ピントリングを止める位置は試し撮りを繰り返して指で覚えるしかない。
露光中にピントリングを2度回して撮影する
花火にピントを合わせた状態でシャッターボタンを押して露光開始。花火の開花と同時にピントリングを近景側に動かしてぼかす。その後、再びピントリングを回して花火の先端にピントを合わせてシャッターを閉じた。花火以外の被写体には応用できない手法だと感じている。
ニコンD600 AF-Sニッコール85ミリF1.8G バルブ 1.4秒 絞りF1.8 ISO100
ピントリングを近景側にして撮影開始。ピントリングを花火の先端に合わせて撮り終える。止める位置は練習あるのみ。ピントリングを手で操作するためブレやすい。ホールディングをしっかりすることが重要だ。
失敗例
花火の開花のタイミングに合わせることができず、中央に空間ができてしまった。また、花火の先端がぶれてしまっている。ブレのない写真を撮るためには、三脚と雲台とカメラのバランスを合わせる必要がある。
花火撮影は、3年かかって本番撮影!それくらいの期間がかかると考えても良い。1年目は下見、2年目は試し撮り、3年目にやっと本番。本番までに、きれいに撮影ができそうなスポットを探したり、会場の風景を調べて、どんな花火を撮りたいかなどを考えたりする。きれいな花火を撮るためには、テクニックも必要だが、下調べや会場と調和する構図の選択も必要です。
写真・解説/金武 武