滝の知識、基本設定、切り取り術など自己流の撮り方を徹底解説!
暑い夏、涼を求め、マイナスイオンを浴びながら滝の撮影に挑戦しよう。今回はガイドブックにあるような滝写真ではなく、個性が際立つ「俺流」の作品を目指して、滝の種類から基本の設定、切り取り術までをご紹介する。
滝の形は多種多様です。ここでは直瀑、分岐瀑、潜流瀑、段瀑、渓流瀑の5種類の滝について、有名な滝を例にあげて、それぞれの特徴の解説を交えながら一風変わった切り取り方を大公開いたします。
1つの滝を縦横両方で撮影フレーミング力が養われる
滝を撮影するとき︑その滝が持つ表情を最大限に引き出すことが大切。つまり滝全体をただ写すのではなく、いちばん魅力的な部分を切り取ってあげるのです。
しかし滝の一部分を切り取るだけでは、同じような距離感の写真ばかりになって変化に乏しいもの。実際の撮影では滝の近くまで寄ってしまいがちですが、あえて少し離れた場所から滝を見ると、近くでは気がつかなかった表情を発見でき、周囲の環境を生かした撮影が可能になります。滝の周りの観察はバリエーション豊かな作品作りに欠かせません。また、縦横両方で狙うとフレーミング力が養われるので、ぜひチャレンジしてみてください。
【直瀑】周囲の岩や木をからめて撮ると滝の大きさが伝わる
水が一気に落下する直瀑は、形が単調なものが多く、アップで狙っても変化がつきにくい。また、水の流れ落ちる迫力が、写真から伝わってこないことも。そのような場合、基本的には周囲の岩や木を取り入れて写してみよう。対比させることで、滝の大きさが伝わる。
桑の木滝(和歌山県新宮市)
正統派撮影
紀伊半島の山中を流れる桑の木滝。落差は約20mとそれほど大きくないが、直瀑にしては幅は広め。滝の近くでも撮影可能だが、曇天時は見上げることで曇り空が入ってしまうため、離れた場所から狙う。周囲の苔むした岩と滝をからめるのが正統派の撮り方。
こんな写真になりがち!
・落ち口から滝壺までを入れた定番構成になりがち
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定番から脱出するには滝の全景は見せず特徴的な岩に注目して部分的に切り取る
正統派から“俺”的な個性ある滝写真にするには、滝に近づき、さらに望遠レンズで特徴的な一部分を切り取るのが効果的だ。桑の木滝では、滝の下部に形のいい岩があったので、それを画面いっぱいに入れて切り取る。さらにスケール感を出すために、画面上部に木の葉を配した。
96ミリ相当 絞り優先オート(F22 15秒) +0.7補正 ISO50
根尾の滝(岐阜県下呂市)
正統派撮影
落差63mの根尾の滝は、シンプルな直線を描く直瀑。滝に続く登山道を歩いていくと、少し離れた場所から滝が見える。そこから望遠レンズを使って落差のある細身の滝全体を狙うと、自然と縦位置構図になる。これが根尾の滝の正統派。
こんな写真になりがち!
・滝のスケール感が出ない写真になりがち
・画面が平面的になりがち
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滝のスケール感と画面に奥行きを出すために滝は小さくなるが前景に大岩を入れる
滝のスケール感を出すには、同じ画面内に対比するものを入れるといい。周囲を見渡すと、滝から流れる川に大きな岩が転がっていたので、この岩を前景に利用した。これにより落差63mのという大きさが伝わり、さらに奥行きが生まれたことで画面が立体的になった。
28ミリ相当 絞り優先オート(F22 1秒) -0.3補正 ISO50
【分岐瀑】スローシャッターで優美さを表現するのが効果的!
岩肌を伝って流れる分岐瀑は、女性的な優美な雰囲気が感じられる滝だ。その雰囲気を出すためには、迫力の出る高速シ ャッターよりも、スローシャッターでの撮影が向く。全景はもちろん、分岐した水の流れと岩の表情が美しい部分に絞 って狙うのもおすすめ。
龍双ヶ滝(福井県池田町)
正統派撮影
道路のすぐ脇の断崖に架かる龍双 ヶ滝は、「日本の滝100選」にも選ばれた名瀑だ。この日は水量が少なか ったので、いちばん多く見える位置から撮影した。“正統派”的に撮るなら、滝の高さが伝わるよう、手前の緑をからめて縦位置で狙う。
こんな写真になりがち!
・ 水量が少ないときは滝の印象が弱くなりがち
・主役は滝なのか緑なのか、あいまいになりがち
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この日の滝は水量が少なくイマイチだったので、滝は脇役にしてカツラの大木を全面に入れる
水量が少なく滝の印象が弱かったので、滝の左側にあったカツラの大木を主役にし、横位置で画面全面に木をフレーミング。滝は、流れの白い筋が木の隙間から見える程度に留めた。これにより、主題が何であるかはっきりと伝わる。水量や形がイマイチのときは、思い切って滝を脇役にするのも俺流の切り取り方だ。
24ミリ相当 絞り優先オート(F16 1秒) ISO50
天滝(兵庫県養父市)
正統派撮影
兵庫県の名瀑である天滝は落差98mを誇る分岐瀑だが、上部は直瀑のような形状をしている。滝の近くまで行けるので、広角~標準域のレンズで下から見上げるように撮ると、特徴的な滝の形状を見せられる正統派写真となる。ただし曇天時に見上げて撮る場合は、白っちゃけた空が入らないように注意しよう。
こんな写真になりがち!
・曇天時はスローシャッターとなり静かな写真になりがち
・バリエーションが作れずに一辺倒になりがち
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光が乏しいと静かな写真になるので光が差したときに輝くしぶきをアップで狙う
曇天時は光が乏しいためスローシャッターになりやすく、引きでも部分アップでも静かな雰囲気の写真になりがち。この日は運よく、途中で日が差してきた。太陽が出ると自然と高速シャッターが切れるので、輝くしぶきをアップで狙い、高速シャッターで写し止める。このとき、しぶきだけでは画面が単調になるので、右側に岩を配する。迫力とリズム感が出て、俺流の“滝”写真に仕上がった。光があることで必然とバリエーション豊富に撮れる。
200ミリ相当 絞り優先オート(F2.8 1/250秒) +1補正 ISO50
【潜流瀑】潜流瀑の周囲の岩は苔が多くそれを生かす!
滝の種類のなかでは最も繊細な表情を見せてくれるのが潜流瀑だ。その流れを表現するにはスローシ ャッターが向いている。潜流瀑の周りの岩には苔がついていることが多いので、苔を生かしながら撮影すると、よりいっそうみずみずしく仕上げることができる。
(秋田県にかほ市)
正統派撮影
清冽な水が勢いよく流れる元滝は、遊歩道の終点にある。滝の正面には少し広めのスペースがあり、そこから狙うと滝と苔を組み合わせた正統派の写真が撮れる。光があると滝と苔の露出差が大きくなるので、撮影は曇りの日がよい。
こんな写真になりがち!
・曇天で順光気味に写すと平面的に写りがち
・幅の広い滝なので横位置で写してしまいがち
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順光では画面が平面的になるので自分が動いて立体的に見える位置を探る
滝は動かないので、光線状態を変えるには自分が動くしかない。“俺” 的を狙うのであれば、動いて立体的に見える位置を探すのがベター。ここでは、右側に移動すると滝に立体感が出て、さらに苔の緑もより鮮やかになった。そこで主役を苔に変更し、苔がきれいな岩をメインに、不要な部分が写らないように縦位置で撮影。正統派とは違った印象深い作品に仕上がった。
120ミリ相当 絞り優先オート(F14 3秒) -0.7補正 ISO50
白糸の滝(静岡県富士宮市)
正統派撮影
富士山の伏流水が流れる白糸の滝。画面左側の滝は水量が多く、右側には細い流れが白糸のように幾筋も連なっている。また、深い緑色をした滝壺も神秘的。これらを1つの画面に収めることが正統派の切り取り方だ。
こんな写真になりがち!
・観光写真のようになってしまいがち
・横位置で全景を写してしまいがち
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観光客が記念撮影している場所から撮るとガイドブック的写真になるので位置を変える
観光写真から脱却するには、構図のひと工夫が必要だ。観光客でにぎわっていた正統派写真のポイントから下流に目を向けると、黄色い花が鮮やかに咲いていた。その花と滝が画面に収まる位置に移動し、花と左の滝を対角線上に配置する。動きと季節が感じられる独自の絵柄となった。
55ミリ相当 絞り優先オート(F13 1/4秒) ISO100 WB:太陽光
横に広い滝を横位置で撮るのは一般的なので、縦位置にするだけで“俺”的要素が生まれる
横に広い滝を横位置で撮るのは普通だが、そんな場面であえて縦位置に挑戦してみると、自然と“俺”的な写真になる。右写真と同じ位置から、黄色い花をなるべく多く取り入れるために、左側の滝を思い切 って省く。さらに左下に大きな岩を配して画面を引き締める。正統派写真よりも季節感が出た。
45ミリ相当 絞り優先オート(F14 1/4秒) -1補正 ISO100 WB:太陽光
【段瀑】名前のとおり、“段”の部分を入れて切り取る!
段瀑は、2段、3段になった段の部分を入れて狙うのが一般的。また、滝の全景を見るために展望台が設けられていることが多く、撮影ポジションが限られてしまいがち。階段状の全景を撮るのなら、早朝や夕刻、天候などの変化を利用して撮影すると、ひと味違った写真となる。
不動七重の滝(奈良県下北山村)
正統派撮影(曇天時)
こんな写真になりがち!
・展望所からでは似たような構図になりがち
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構図が似てしまうので発生した霧を強調するようにして風景全体を切り取る
展望所からの撮影で、滝の全景を入れると似たような構図になりがち。このときは霧が湧き始めたので、横位置で周囲の風景を多く取り入れてフレーミングした。暗い部分を多く入れたのは霧の存在を強めるため。滝は右下に小さく扱って、印象的な構図にした。
34ミリ相当 絞り優先オート(F10 0.6秒) -0.7補正 ISO50
正統派撮影(晴天時)
こんな写真になりがち!
・滝の印象が弱くなりがち
朝イチに展望台を訪れると、滝全体が快晴の空の色を映して青く染まっていた。大気も澄んでいたので滝もクリアに見える。周りの木に光が差し込んだときを狙って撮影した。
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滝の全景を撮ると弱くなりがちなので滝の“階段”ではなく流れを強調して見せる
段瀑の全景を写すとその形状に目がいき、滝の迫力は感じにくくなる。そんなときは1つの滝に絞って撮影しよう。ここでは光が当たった滝の手前に木々を入れてスケール感を表現。下部から舞い上がる水しぶきも写り、よりいっそう滝の迫力が増して俺流となった。
180ミリ相当 絞り優先オート(F32 1/8秒) +0.3補正 ISO50
【渓流瀑】広角レンズで流れによって、画面に広く入れる!
五郎七滝(岐阜県高山市)
岐阜の山中を流れる五郎七滝は、知る人ぞ知る秘境の滝。滝にたどり着くには、沢を歩かなければならない。水量が少ないと絵にしずらいが(左の正統派写真)、1枚岩の上を幾筋もの水が弧を描きながら流れる様子は、独特の美しさを見せてくれる。横に幅広い滝なので、広角レンズを使って横位置で撮るのが正統派。
正統派撮影
こんな写真になりがち!
・横に広い滝なので横位置で広めに撮りがち
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横位置で広く撮りがちだが流れの描写に着目して縦で構成
幅の広い滝をそのまま横位置で広めに撮ってしまうと、主題がぼけてしまう。そこで広角の遠近感を利用して、滝の美しい流れに縦位置でぐっと迫って、高速シャッターで写し止めるのが俺流だ。この日は水量も多く、水の躍動感と面白い流れの描写を捉えられた。このときスローシャッターで撮ってしまうと、その模様は消えてしまう。
22ミリ相当 シャッター速度優先オート(F5.6 1/250秒) +0.7補正 ISO100
滝の種類ごとに、おすすめの滝と滝の切り取り方をご紹介しました。それぞれの滝の良さや表情を引き出すテクニックや、フレーミングを心がけてダイナミックな迫力ある撮影ができたらいいですね。
写真・解説/伊藤亮介