スポーツ撮影の定番レンズ「EF400mm F2.8L IS II USM」を「あえて避ける」写真記者がいるという。そのワケとは? そんなこだわりについて、毎日新聞の梅村直承さんに、スポーツの中でも力を入れている競泳についてのお話を中心にうかがった。
2018.8.12 力強く美しい泳ぎを鮮やかに写し取った
男子200メートル背泳ぎ決勝で力泳する入江陵介選手に「EF600mm F4L IS II USM」で迫った。描写だけでなく、AFの速さと精度も文句なし。水しぶきにAFが引っぱられるので、カメラの被写体追従特性を「粘る」方向へ設定している。キヤノンのレンズは概して色再現が良く、ニュートラルだと感じている。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM 絞りF4 1/800秒 ISO10000 WB:マニュアル
〈目次〉
攻めのメインレンズ選択が一味違うチャンスを生み出す
「パンパシフィック水泳選手権でEF600mm F4L IS II USMをメインレンズとした理由は、選手たちの表情にグッと迫りたかったから。近年、どの大会でもカメラマンのエリアが遠ざけられる傾向にあるんです」
こう話すのは、写真記者歴19年目のベテラン、梅村直承さん。リオデジャネイロ五輪のリレーで、ウサイン・ボルト選手が日本のアンカー、ケンブリッジ飛鳥選手をチラ見する瞬間を捉えた同氏の写真は、2017年度の新聞協会賞に輝いた。ほかにも、これまで東京写真記者協会の賞も幾度か受賞している実力派の報道カメラマンだ。
「ボルトの写真もEF600mmで臨んだから撮れたのです。新聞社のカメラマンはつい広めの画角で撮りがちなのですが、被写体に寄ることをずっと意識して、後輩たちにもアドバイスしています。できるだけアップで切り取ることは毎日新聞の伝統でもありますね」
EF400mm F2.8L IS II USMが素晴らしいレンズとは知りつつも、「画角的に物足りないので致し方ない」と語る梅村さん。レンズに対する独自の哲学が言葉の端々にこぼれてくる。
「そもそも単焦点が好きで、とりわけ望遠系はキレの良さを重視しているため、超望遠ズームを選ぶとか、EF400mm F2.8L IS II USMにエクステンダーを装着することは考えていません。その点、EF600mm F4L IS II USMは解像感が高く、逆光にも強くて、ホント助かっています。しかも意外と取り回しやすい」
“力強い写真”を得るための相棒レンズ
「描写のキレの良さは超望遠の中ではトップクラス」と、EF600mm F4L IS II USMに惚れ込んでいる梅村さん。AF合焦スピードも正確さも十分で、「場合によっては(AFが)敏感すぎる」ほどとか。“スポーツ撮影の標準レンズ”と称されるEF400mm F2.8L IS II USMは、あまり使わないそうだ。「私の狙い方だと、往々にして焦点距離が足りないことが多いんです」(笑)。
一番の魅力はクリアな描画力
超望遠レンズに必要なキレとコク(高い解像力とコントラスト)を十分に備えているロクヨン(EF600mm F4L IS II USM)は、梅村流スポーツ撮影のマスターピース。逆光耐性の高さも納得レベル。新しいIII型への期待は膨らむばかりだ。
測距点を減らし、思い通りにAF撮影
EOS-1D X Mark IIでは任意選択可能なAFフレームを61点ではなく、あえて15点に設定。狙いのAFフレームを素早く選べるようにすることで、トップアスリートの激しい動きでも構図重視のAF撮影がより確実に行なえるようになる。
同じ光源下では白セットでWB設定
特に人物でこだわっているのが、肌の色再現。オートWBも使うが、光が変らないときは白セットでWBを設定している。また、ピクチャースタイルは「風景」にセット。「写真の色が立っていると、やはり印象に残りますから」(梅村さん)
新しいレンズが待ち遠しい! EF600mm F4L IS III USM
(2018年12月下旬発売予定)
「I型からII型になったときも軽さに感激したけど、新しいIII型ではさらに約20%もの軽量化を果たしたと聞き、めちゃ期待しています。しかも描写はこれまでの高性能を維持しているようなので、なおさら」と目を輝かせる梅村さん。手ブレ補正機構も進化し、遮熱塗料も一からの開発という、写真記者も注目の1本だ!▼詳しくはこちら
hhttps://cweb.canon.jp/ef/lineup/super-tele/ef600-f4l-is-iii/
カメラバッグの中を拝見! パンパシ水泳の撮影機材
機動性や携行性を優先して機材は最小限で取材に挑む
単焦点レンズ派ではあるが、どうしてもポジションに限りがあるので、高性能なLズームも外せない。また、スポーツ撮影では機動性や携行性を優先し、機材を絞って少なめにする。広角と標準ズームはF4タイプを使用。「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」は、単焦点に匹敵する画質性能に加え、回転ズームの操作性などもよく、気に入っている。
〈カメラ〉 EOS-1D X Mark II / EOS-1D X 〈レンズ〉 EF24-105mm F4L IS II USM / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / EF600mm F4L IS II USM 〈その他〉 スピードライト 600EX II-RT / CFカード(16GB×5枚)/ CFast(64GB×2枚程度)/ ノートPC / カメラバッグ(シンクタンクフォト)/ 一脚(シルイ)
人々の喜怒哀楽を描くためにEFレンズは不可欠なツール
ニュースの最前線を飛び回る写真記者として同社で上のほうの職歴となった梅村さん。今、スポーツは競泳など五輪競技を中心に撮っている。
「陸上競技もそうですが、競泳は基本的に個人競技であって、自らの精神と肉体で戦う姿に心惹かれます」
パンパシ水泳は五輪や世界選手権に次ぐ大会であり、今まさに東京五輪に向けて選手たちが切磋琢磨を続けているタイミングだけに、いつにも増して注目度の高い東京大会だった。
「当社も複数の写真記者で狙いました。私は日によって1階からと2階からと撮影場所を変えて撮りましたが、1階から狙うと選手との間に障害物が入る可能性も出てくるので、AF設定カスタムガイドをCase2に変更して臨みました。他の人が撮らないような写真にしたいと常に留意はしていましたね」
梅村さんはカメラの使いこなしにもこだわりがあり、上手く撮れた際の設定などは隠さず後輩たちに披露する。
「僕もよく教えてもらいますよ。メカ好きって訳でなく、道具として使いこなせるようになりたい。やはり自分の思いを写真で表現するために、せっかく高性能なカメラとレンズがあるのだから、その能力を生かしたい。無難に撮るのではなく、しっかりと自分の考えをもって被写体に向かい合うべき。気にかけるのはデスクに怒られるかどうかではなく、読者の皆さん。事実を正確に伝えることは大前提として、スポーツやドキュメントでは被写体の思いが伝わる写真を心がけています」
適宜AIサーボAFの特性を切り替える
競泳では、AF設定カスタムガイドを「急に現れた被写体に素早くピントを合わせたいとき」のCase3に、野球など選手が重なりやすいときは「障害物が入るときや、被写体がAFフレームから外れやすいとき」のCase2に設定する。
パンパシフィック水泳選手権 トップ選手たちの喜怒哀楽に迫ったレンズ
EF600mm F4L IS II USM
プロの過酷な使用に耐える高い堅牢性と防塵・防滴性能を備えた大口径超望遠レンズ。蛍石レンズ2枚を採用した光学設計や、フレアやゴーストを抑制する特殊コーティングSWCにより、色にじみのない、高解像で高コントラストな画質を実現する。シャッタースピード換算で約4段分の手ブレ補正機構ISを搭載。
▼詳しくはこちら
https://cweb.canon.jp/ef/lineup/super-tele/ef600-f4l-is-ii/
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
梅村直承さんが「EF600mm F4L IS II USM」で撮影した作品ギャラリー。サムネイル画像をクリックすると、大きな作品と撮影データをご覧いただけます。
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
2018.8.11 金メダルに輝いた力泳をEF600mmで鮮明に切り取った
パンパシフィック水泳選手権大会2018の女子100メートルバタフライ決勝。両隣から昨年の世界選手権メダリストが迫ってくる中、力泳を見せる池江璃花子選手。「EF600mmF4L IS II USM」と「EOS-1D X Mark II」のコンビネーションは、その表情までをも克明に捉えてくれた。AFエリア選択モードは「領域拡大周囲」が基本。AFフレームを顔に重ねてフレーミングし、ダイナミックな腕の動きと水しぶきも入れ込んだ。EF600mmはAFの動きも俊敏。描写にキレがあり、色再現もクリアで文句なし。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM 絞りF4.5 1/800秒 ISO8000 WB:マニュアル
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
2018.8.11 競技後のシャッターチャンスもクリアに撮れる
女子200メートル個人メドレー決勝を制し、3位の寺村美穂選手(左)とたたえ合う大橋悠依選手。EF600mmは原則、一脚につけて撮影するが、「EOS-1D X Mark II」との重量バランスも良好で、いざとなれば手持ちも可能だ。AF合焦の速さと正確さは十分で、競技後のアスリートたちの表情やしぐさをとっさに狙う際なども心強い。高い描写性のまま格段に軽量化が図られたという新しいIII型も楽しみ。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM 絞りF4.5 1/800秒 ISO8000 WB:マニュアル
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
2018.8.12 EF600mmF4L IS II USMの選択、それは選手の思いも写すため
女子200メートル平泳ぎ決勝で、3位となり拳を握る鈴木聡美選手。報道カメラマンといえども近年、撮影エリアが選手たちから遠くに設けられるケースが増えつつある。そんな状況下でスポーツのドラマを撮るため、表情のアップをより捉えやすいEF600mmは“標準装備”と呼んでさしつかえない。競技のルールや選手の情報などをできる限り下調べしておくことも、狙いを絞り、確実に撮影するには重要だ。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM 絞りF4 1/500秒 ISO10000 WB:マニュアル
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
2016.8.19 スポーツでは初の日本新聞協会賞 EF600mmだからこそ撮れた決定的瞬間
リオ五輪の男子4×100メートルリレー決勝。この写真、『ボルトも驚がく 日本リレー史上初の銀』は日本新聞協会賞を受賞。スポーツ写真としては初の快挙だった。表情を狙うためにレンズ交換しないとの確固たる意志が、この1枚を生み出した。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM 絞りF5 1/1250秒 ISO3200 WB:マニュアル
EF600mm F4L IS II USM 作品ギャラリー
2017.4.27 エゾリスと花の群生の競演を克明に
エゾリス撮影の定番ロケ地で3日間、延べ20時間弱粘り、やっと愛らしい姿を捉えられた。500mmか600mmかで迷ったが、近づけない場合も考慮して600mmに絞った。その判断は大正解。「EF600mm F4L IS II USM」が描くリスのつぶらな瞳や毛並みは、生命感に溢れていた。花の発色もイメージどおり仕上がった。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF600mm F4L IS II USM シャッター優先オート 絞りF6.3 1/640秒 ISO6400 WB:オート
写真記者の渾身のカットが並ぶ写真サイトを立ち上げた
カメラマン目線で構成されている「Mainichi Photography」。梅村さんは、このweb紙面の立ち上げに深く関わった。同氏は東日本大震災のその後も精力的に取材。左の画面写真はそのテーマのひとつ、『eye 見つめ続ける大震災 宮城・気仙沼の大谷海岸 地域の象徴、砂浜残った』である。「今も20組くらいの方々を継続撮影させてもらっています」。
■MAINICHI PHOTOGRAPHY
https://mainichi.jp/photography/
梅村さんは毎日新聞写真部twitter(@mainichiphoto)からも最新ニュースをいち早く更新中!
プロフィール
毎日新聞 東京本社 写真映像報道センター 梅村直承(うめむら なおつね)さん
1977年、高知県生まれ。東京で大学生活を送っていた20歳のころ、写真愛好家で『CAPA』読者でもあった祖父よりフィルム一眼レフを譲り受けたことがきっかけとなり、写真表現の面白さと奥深さに魅了される。毎日新聞には2000年入社。大阪本社写真部に配属されたあと、神戸、大阪、東京、北海道勤務を経て、2018年4月より再び東京に。休日は私物の「EOS 5D Mark IV」で家族を写す。
第13回パンパシフィック水泳選手権大会(2018年8月9日~14日)
〈協力〉東京写真記者協会 〈取材〉金子嘉伸 〈取材撮影〉青柳敏史