報道カメラマンは必ずしも、いつ飛び込んでくるかわからないニュースだけを追っているわけではない。自らのテーマを長年にわたり追い続けることもある。今月は「森」をライフワークに取材している写真記者の現場をたずねた。
2018.11.14 高品位ワイドズームで記憶に残す、巡りゆく季節と命育む豊かな水
元旦に黄金の鶏が鳴いて新年を告げたという伝説から名づけられた鶏鳴の滝と周辺の大小さまざまな滝の秋風景を狙うため、信楽焼で有名な滋賀県甲賀市信楽町を目指した。コントロールリング付マウントアダプターを介して愛用のワイドLズームを装着した「EOS R」を三脚に据え、足元に気をつけながらシャッターを切る。「EF16-35mm F4L IS USM」は紅葉の一枚一枚を階調滑らかに描き切ってくれたばかりでなく、水や岩の質感もまさに目の前に存在するかのような臨場感ですくい取ってくれた。
キヤノン EOS R EF16-35mm F4L IS USM 絞りF13 3.2秒 ISO100 WB:くもり 三脚使用 (滋賀県甲賀市)
機動性優先でF4を選ぶ!Lズームは常用レンズ
京都新聞社の山本陽平さんは写真記者歴およそ16年のベテラン。近年、プロスポーツ取材の機会は減っているものの、事件・事故から季節のスケッチ、人物インタビューなど多岐にわたり撮影をこなす日々に変わりはない。むしろ最近は、撮影に加えて本文記事をまとめるケースも増えつつある。
そんな山本さんは基本、撮影状況に応じてそのつど機材を選ぶスタイルだ。愛機は「EOS-1D X Mark II」、サブ機は滋賀本社に移り、それまでの「EOS 5D Mark III」から「EOS 7D Mark II」に引き継がれた。レンズもまた被写体によって使い分けるという。
「とりわけEF16-35mm F4Lは気に入っています。描写は解像感が高く、キレがあります。絞り開放からの周辺画質も良好で、ヘンに像が流れたりもしない。何より開放F2.8タイプより小型軽量で、携行性に優れるのが魅力です」
持ち運びやすさにこだわるのには理由がある。それは京都本社時代から取り組んできた人と自然との関わりをテーマにした数々の連載の存在だ。
「例えば、京都大学の研究林『芦生の森』を四季折々にたずねたりするのですが、けっこう山道を登らなければならない。現在も紅葉などの季節ニュースのほかに、『水巡る』といった企画物の取材で滋賀県下の山里などを歩き回ったりします。少しでも体力の消耗を抑えたいので、一定の画質が担保されれば、レンズは軽くてコンパクトであるほどいい。ゆえに、開放F4のズームレンズを主軸としているのです」
画質・携行性・信頼性と三拍子揃う
「EF16-35mm F4L IS USM」は合焦部にシャープさがあり、しかも画面の四隅まで端正な写りを実現してくれる。自然風景はいうまでもなく、周囲の状況を入れ込む必要がある事件や事故の取材などでも重宝する。「EOS 7D Mark II」に装着すると25.6~56mm相当になるものの、標準ズームのように使えるため、使用頻度はきわめて高い。
EF16-35mm F4L IS USM のお気に入りポイント
上質な描写がうれしい
「EF16-35mm F4L IS USM」は非常に解像感が高く、周辺まで整った写りを得られる。逆光にも強く、AFスピード・精度ともに申し分ない。シャッター約4段分の手ブレ補正機構も、手持ち撮影が多いので助かる。
山の取材でも活躍
山道を片道2~3時間かけて歩くケースも少なくない。いざ撮影の段になって体力が消耗していては集中力が保てないので、レンズの軽量コンパクトさはその描写性や堅牢性とともにきわめて重要なファクターだ。
EOS R のお気に入りポイント
新しい操作部材は撮影時のピント拡大に使用
当初はマルチファンクションバーにどの項目を割り当て、どんなふうに使えばベストなのか迷ったが、今は撮影時のピント拡大をセットしている。その使い勝手はすこぶるいい。
タッチ&ドラッグAFが快適
EVFをのぞきながら液晶で測距点を変更できるタッチ&ドラッグAFが快適。スピーディーに測距点を選べる。太陽の光が眩しいときもEVFならしっかりと構図が決められる。
重量バランスも合格点
「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」などを「EOS R」に装着したときは、レンズを左手で支える感覚で持つと安定する。深めのグリップが握りやすく、手持ち撮影で構えやすい。
山本カメラマンの「EOS R」セッティング
「EOS R」は操作カスタマイズ機能が豊富で、自分の使い方に合わせて使いやすくできるのが便利だという山本さん。実際に使用しているセッティングを動画で紹介する。
2018.11.11 紅葉と雲海のひとときの競演
放射冷却が予想されたので、絶景として知られる小入谷へ向かうと、神秘的な光景が眼下に広がっていた。山並みや明けゆく空のグラデーションを「EF16-35mm F4L IS USM」と「EOS R」は見事に捉えてくれた。
キヤノン EOS R EF16-35mm F4L IS USM 絞りF8 1/40秒 -0.3補正 ISO125 WB:太陽光 三脚使用(滋賀県高島市)
カメラバッグの中を拝見! 風景撮影の主要機材
機動力を発揮できるようにLズームを厳選
これは試用中の「EOS R」システムを加えたラインナップ。険しい山や深い森に入る際は「EOS 7D Mark II」に「EF16-35mm F4L IS USM」と「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」の2本を携えて、あとは取材車に置いておく場合もある。滋賀本社に移り「EOS 7D Mark II」を導入してから「EXTENDER EF1.4×III」を使う場面が少なくなっている。
〈カメラ〉 EOS-1D X Mark II / EOS 7D Mark II / EOS R 〈レンズ〉 EF16-35mm F4L IS USM / EF24-70mm F2.8L USM / EF24-105mm F4L IS II USM / EF24-70mm F2.8L USM / EF70-200mm F2.8L IS II USM / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / EF35mm F1.4L USM / RF24-105mm F4 L IS USM / コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R 〈その他〉 スピードライト600EX-RT / CFカード16GB×2 / SDカード32GB×2 / ノートPC / カメラザック / チェストベスト(ニューズウェア)
山を撮り歩くには身軽さが一番!
山本さんの撮影機材と、山を撮り歩くときの装備を動画で紹介する。
自分の撮り方に「R」はマッチ、今後の製品展開にも期待したい
携行性や機動性を重視する山本さんだけに、新しいフルサイズミラーレス「EOS R」とRFレンズ群に今まさに注目しているところだ。ちょうど本取材の3週間ほど前に、テスト使用のため「EOS R」システムが到着、使い始めることができたという。
「EOS Rは操作方法が一眼レフEOSと少し異なるので、当初は戸惑いましたが、1週間も経たないうちに慣れて、今では問題なく使えます。(一眼レフと)併用しても別にまごつきません」
現在、「EOS-1D X Mark II」と「EOS 7D Mark II」のコンビが基本セットだが、「7D Mark II」の代わりに、「EOS R」を組ませても「アリ」だとの感触を得られているそうだ。
「EOS 7D Mark II」は望遠撮影に有利であり、動体撮影にも向いている。一方、今回のような紅葉撮影や、おそらく春先に撮る予定の桜の季節ネタ取材では高画質かつコンパクトな「EOS R」システムが好適ともいえる。
「RF24-105mm F4 L IS USM」は防塵・防滴構造ですし、電源オフ時にシャッターが閉まるRの仕様もアウトドアでの撮影には安心できます。あと、「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R」は期待大。「EF11-24mm F4L USM」でも各種フィルターが使えるようになるだけでなく、レンズごとにフィルターをいくつも用意しなくて済むので楽しみです」
山本さんの機材リストの筆頭に、「EOS R」とRFレンズがずらりと並ぶ日も、そう遠くはないのかもしれない。
記憶に残る絶景を写し止めたレンズ
EF16-35mm F4L IS USM
高解像・高画質を実現した広角ズームレンズ。画面のすみずみまでシャープな描写が得られる。シャッター速度換算で4段分の手ブレ補正IS機構や防塵・防滴構造も搭載している。
▼詳しくはこちら
https://cweb.canon.jp/ef/lineup/wide-zoom/ef16-35-f4l-is-usm/
プロフィール
京都新聞社 滋賀本社 編集局 編集部 山本陽平(やまもと ようへい)さん
1978年、京都府出身。大学時代、ユーラシア大陸を巡る旅に出たことがフォトジャーナリズムへの興味を抱くきっかけとなる。2002年、京都新聞社に入社、京都本社写真部に配属される。2005年に南部支社(宇治市)でペン記者を務めた後、京都本社に戻る。2018年4月より滋賀本社。写真担当記者として多忙な日々を送る。
日々のニュースに加え、『豊穣の森 芦生』『丹波高原の四季』など人と自然の関わりをテーマにした連載のほか、『京の貌』『フィフティーンの今』といった人物ルポなども手がけてきた。過去の記事は資料としてだけでなく、今後のテーマ探索にも何かと役立つ。
鶏足寺(長浜市)で長浜観光協会のスタッフに、今後の紅葉の見通しなどを取材する山本さん。撮影のほか、写真だけでなく記事も担当(執筆)する。
〈協力〉長浜観光協会 古橋史跡文化保存会 古橋自治会 東京写真記者協会 〈取材〉金子嘉伸 〈取材撮影〉我妻慶一