写真家のリアルRAW現像&レタッチ術・風景編/伊藤亮介×キヤノン Digital Photo Professional 4(ver.4.10.20.1)
写真家は作品を仕上げるときに、どのくらいRAW現像やレタッチをしているのだろうか。今回は梅雨の霧が立ち込める新緑風景がテーマ。目で見ていると幻想的な霧だが、メリハリが乏しいので魅力的に仕上げるのは難しい。リアルなRAW現像術を風景写真家・伊藤亮介さんに聞いた。
<Before(元画像)>
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<After>
現像ではできないPL効果を撮影で得る
雨上がりに霧が湧くようなシーンを撮影するときには、PLフィルターを使って新緑の余分な反射を取り除いて色を引き出し、画面にメリハリを付けることが大切だ。DPPも含め、撮影後に反射を取り除けるようなRAW現像ソフトはなく、撮影時が勝負となる。
ただし、シーンによっては反射を少し残したほうが効果的なケースもあるため、迷ったときにはPLフィルターの効かせ具合を変えた写真を何枚か撮るようにしている。また、露出はアンダーで撮影すると重く陰鬱な雰囲気の写真になりやすいので、霧が白トビを起こさない程度に若干明るめに写すと瑞々しい新緑風景を表現できる。
RAW現像をする際にはまずピクチャースタイルを決定し、それから明るさを微調整していく。これはピクチャースタイルの「風景」を選ぶと、絵柄によってはプラス0.3程度明るく感じられることがあるからだ。その後はホワイトバランスの微調整機能を使って、画面全体の色味を調整する。黄色みや赤みを帯びた霧は濁っているような印象を与え、画面の清涼感が失われてしまうことから、霧が白く表現されるように調整するのがコツといえる。
また、RAW現像では、その効果に目を奪われてつい大きく調整してしまいがちだが、少しずつ補正を加えたほうが美しい仕上がりが得られやすい。特に彩度やシャープネスの調整は必要最小限に留めて、不自然な写真にならないよう注意している。
――伊藤流RAW現像術――霧が立ち込める新緑風景を幻想的かつ鮮やかに仕上げる
ここからは、上の例のBefore→Afterがどういう工程を経てRAW現像されていったのか、詳しく見ていこう。
使用ソフト :キヤノン Digital Photo Professional 4(ver.4.10.20.1)
手順①画面全体の調整から。色彩とコントラストをアップして、「WB微調整」で黄色みを取る
ピクチャースタイルを撮影時の「忠実設定」から「風景」に変更して新緑の鮮やかさを強調する。「忠実設定」で撮影しているのは、色に惑わされず画面をしっかりと組み立てるためだ。このカットでは画面全体が黄色っぽく感じられることから、色合いを見ながらWB微調整機能を使って黄色みを取り除く。さらに画面のメリハリを付けるためにコントラストを高める。
<手順①での仕上がり>
手順②「特定色域調整パレット」でグリーンのみ彩度を上げて緑を鮮やかにする
新緑の美しさや存在感をもう少し強調したいので、特定色域調整(8軸色)パレットを使ってグリーンの彩度(S)をプラス1補正する。特定色域調整パレットでは各色の色相と輝度も補正することが可能だ。ここでは新緑が派手すぎず、不自然な色合いにならない程度にしている。
<手順②での仕上がり>
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手順③さらに部分的に調整。中央下の緑の明るさと彩度を落として存在感を弱める
特定色域調整パレットでグリーンを調整したことで、画面手前の緑が一様に鮮やかさを増した。しかし、同時に中央下の緑が目立ちすぎて滝への視線を阻害するため、部分調整機能を使って明るさと彩度を下げる。これはいわゆる「焼き込みツール」と同じ効果が得られる処理方法だ。
<手順③での仕上がり>
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手順④「デジタルレンズオプティマイザ」機能を使って、シャープネスを調整して完成
絞りをF14まで絞り込んで撮影したことにより、回折現象が発生して画面全体のシャープネスがやや低下している。デジタルレンズオプティマイザ機能を使ってシャープ感を高め、雨に濡れた新緑の葉の一枚一枚の質感が感じられるように仕上げた。
「デジタルレンズオプティマイザ」とは?
絞り込んで撮影すると、回折現象の発生によって画像の鮮鋭感が失われてしまう。この回折現象や収差などをソフト上で補正するのがデジタルレンズオプティマイザ機能だ。画面をチェックしながら補正の度合いを自由に変えられるのが、本機能の最も優れている点である。
<手順④での仕上がり(完成!)>