「瀬戸内国際芸術祭2019」の会場の中でも人気が高いのが、今回紹介する直島・豊島・犬島という3つの島。直島には地中美術館、李禹煥(リ・ウーファン)美術館、ANDO MUSEUM、豊島には豊島美術館と豊島横尾館、犬島には犬島精錬所美術館という常設の美術館があり、現代アートファンならば、訪れずにはいられない。この3つの島を結ぶ高速船が通年、運行されていることもあり、この3つの島を巡る旅を楽しむ人は多い。是非とも立ち寄りたいアート作品と島の佇まいを楽しめる撮影ポイントを紹介する。
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アートの聖地として多くの観光客で賑わう直島
岡山県玉野市の沖、約3キロメートルの位置にある直島。1992年に現代美術館とホテルが融合したベネッセハウスがオープンしたことをきっかけに、複数の美術館が建てられ、現代アート作品の恒常的な展示が行われ、広く「現代アートの島」として知られるようになった。島の玄関口は西側の宮浦港で、埠頭の緑地には直島のシンボルである前衛芸術家、草間彌生の作品「赤いかぼちゃ」が設置されている。作品がより多く展示されているのが本村港のある本村地区。宮浦港からバスで5分ほど。島内を巡るのであればレンタルの電動アシスト自転車を使うのが便利。
◆直島へのアクセス
島の西側にある宮浦港と東側にある本村港が直島の玄関口となる。
●高松港←→宮浦港/四国汽船/フェリーで約60分、5往復
●高松港←→宮浦港/四国汽船/高速船で約30分、5往復
●宇野港←→宮浦港/四国汽船/フェリーで約20分、旅客船で約15分、20往復
●宇野港←→本村港/四国汽船/高速船で約20分、5往復
●髙松港←→本村港/豊島フェリー/高速船で約30分、最大2往復半
※時刻・運賃は船会社webサイト、「瀬戸内国際芸術祭2019」webサイトを参照
直島のシンボル 草間彌生の「赤かぼちゃ」
島の玄関口、宮浦港の緑地に設置された前衛芸術家、草間彌生の作品「赤かぼちゃ」は直島のシンボル的存在。数ヶ所の穴から中に入ることができ、一日中、記念撮影に訪れる観光客の姿が絶えない。中途半端に人物の写った写真にしたくなかったので、スローシャッターを使い、穴を出入りする人の姿を大きくぶらして、その存在を希薄なものとした。
オリンパス OM-D E-M1 ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 絞り優先オート F18 1/2.5秒 +0.3補正 ISO100 WB:オート マウントアダプターMMF-3使用
現代アート作品として再生された護王神社
本村地区にある護王神社は、写真家の杉本博司氏によって作られた作品(家プロジェクト)。伊勢神宮よりも古い時代の神社をイメージして建てられた本殿、拝殿は、シンプルで美しい。森に囲まれた境内の白い玉砂利に日が差し、その背後に端正な社殿を配し、正面からストレートに撮った。RAW現像時に明瞭度を加え、細部の輪郭、コントラストを高め、厳かな雰囲気を演出した。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F13 1/200秒 −1補正 ISO200 WB:オート
直島・本村の路地裏の情景
古くから瀬戸内の要衝として廻船業が盛んで、製塩業でも栄えたこともあり、離島の漁村とは異なり、本村の集落には立派な造りの家が多い。何気ない路地裏の風景だが、瓦屋根の美しさと黄色く色づいた夏ミカンに惹かれ、カメラを向けた。アイレベルでは瓦屋根がよく見えないので、カメラを頭上に差し上げ、塀瓦と同じ高さから撮影した。
オリンパス OM-D E-M1 ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 絞り優先オート F10 1/200秒 −0.7補正 ISO400 WB:オート マウントアダプターMMF-3使用
古びた本瓦葺き屋根が見事な石橋家
築約100年という石橋家の家屋。製塩業を営んでいたこともあり、贅沢な造りとなっている。家屋の内部は家プロジェクトのアート空間として使われているため、見学、鑑賞はできるが、撮影はできない。でも、貴重な日本家屋でもあり、是非とも立ち寄りたい。本瓦葺きの屋根が美しいので、瓦屋根にフォーカスして、画面左側に町並みを少し入れて、画面を構成した。
オリンパス OM-D E-M1 ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 絞り優先オート F22 1/25秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート マウントアダプターMMF-3使用
豊かな自然と現代アートが調和した豊島
山がちな豊島は水が豊富で、農業・牧畜・漁業が盛んな豊かな島。牧歌的な島の風景と融合した豊島美術館や現代アート作品が、この島の魅力をさらに高めている。島の玄関口は、北西部にある家浦港と北東部にある唐櫃港の2つ。家浦港のそばには横尾忠則の作品を展示する豊島横尾館があり、唐櫃港のそばには豊島美術館と多数の作品群がある。島の中央には標高340メートルの壇山がそびえ、山頂の展望台からは360度の展望が楽しめる。
島内の移動は、バスとレンタサイクルを利用する。バスは家浦港から豊島美術館を経由して唐櫃港まで行く路線と家浦港から島の南側の甲生を結ぶ路線がある。島内の道路はアップダウンが激しいので、レンタサイクルは電動アシスト自転車が用意されている。
◆豊島へのアクセス
島の北西部にある家浦港と北東部にある唐櫃港が豊島の玄関口となる。
●高松港←→家浦港/豊島フェリー/高速船で約35分、最大6往復
●高松港←→唐櫃港/豊島フェリー/高速船で約35分、土・祝日のみ1往復
●宇野港←→家浦港←→唐櫃港←→小豆島・土庄港/小豆島豊島フェリー/
宇野港から家浦港まで約35分(高速船で約25分)、唐櫃港まで約60分(高速船で約40分)、小豆島の土庄港から唐櫃港まで約30分(高速船で約20分)、最大9往復
●直島・宮浦港←→家浦港/四国汽船/犬島行き高速船で約30分、3往復
※時刻・運賃は船会社webサイト、「瀬戸内国際芸術祭2019」webサイトを参照
丘の上の唐櫃の家並み
唐櫃港から自転車で坂道を20分ほど上がると丘の上の唐櫃集落が広がる。農業と畜産業を営むこのエリアにも現代アート作品が展示されており、多くの観光客が訪れる。瀬戸内海の島々は立派な瓦屋根の家が多い。ここ唐櫃にも瓦屋根が並ぶ雰囲気のよい家並みが見られる。山際の一段高いところ通る道路から家並みを見下ろすように撮影した。うっすらとではあるが、その向こうに瀬戸内海も見える。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F22 1/60秒 −0.7補正 ISO320 WB:オート C-PLフィルター使用
海を望む傾斜地に広がる棚田にナノハナが咲く
豊島の唐櫃集落では古くから棚田を築き、稲作が盛んであった。現在は棚田の保存事業として稲作を続けている。春、4月頃には一面、ナノハナが咲き。花が終わると田起こしをして、6月末には田植えが行われる。10月には稲穂が揺れるようになり、10月下旬に稲刈りが行われる。棚田の脇の県道から北西の方向にカメラを向けると、階段状の棚田が分かる角度から狙え、右下に海が、奥には対岸の岡山の山並みが入る。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F11 1/160秒 −0.3補正 ISO200 WB:オート C-PLフィルター使用
海へと向かう豊島美術館前の坂道
豊島随一の絶景ポイント。山の中腹にある唐櫃集落から唐櫃港へ下る道は豊島美術館の前で大きく右へカーブして視界から消える。そのため、坂の上からは道路が海に向かって下っていくように見える。広角レンズを使い、横位置で海と青空を大きく入れて撮る人が多いが、ここでは足下の「速度落せ」と書かれた路面標示を大きく入れるために縦位置を選び、海と空は画面の上に押し込めた。こうすることでパースが付き、奥行き感を強調できた。
オリンパス OM-D E-M1 ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 絞り優先オート F6.3 1/400秒 −0.7補正 ISO100 WB:オート マウントアダプターMMF-3使用
豊島の周回道路から眺める輝く海
豊島の東部にある唐櫃集落から南部の甲生集落まではバス路線はなく、もっぱら自転車での移動となる。道路は標高100メートル付近を通っており、瀬戸内海を見下ろしながら走る。写真は周回道路が甲生集落へと下り始めるヘアピンカーブのあたりから撮ったもの。右端の島影は直島、その向こうには三角錐をした大槌島が見える。午後の日差しは水面を輝かせていた。C-PLフィルターで水面の反射を少し抑え、穏やかな海のイメージとした。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F16 1/250秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート C-PLフィルター使用
森の中に銅精錬所遺構が眠る犬島
「瀬戸内国際芸術祭2019」は会場の多くが香川県内の島となっている。唯一、岡山県岡山市にあるのが犬島。古くは大阪城築城の頃から切り出し続けられた花崗岩を産出する島として、近代では銅精錬の島として知られた。いずれも現在は使われておらず、石切り場の跡は巨大な池となり、銅精錬所の遺構(国の近代化産業遺産に選定)は、その一部が再生され、犬島精錬所美術館として現代アートの人気スポットとなっている。島は現代アート作品の展示空間ともなっており、集落の中に点在する作品を巡りながら、島の情景を撮影できる。
なお、島内の移動は徒歩のみ。1時間ほどで巡ることができる。アート作品を鑑賞する時間を合わせて2時間ほどあれば楽しめる。
◆犬島へのアクセス
犬島へは、直島・豊島からの航路と対岸の岡山市伝宝港からの航路がある。香川県側から犬島へ行く場合は、直島の宮浦港、豊島の家浦港を経由して向かう。
●宮浦港←→家浦港←→犬島港/四国汽船/直島から高速船で約55分、3往復
●伝宝港←→犬島港/あけぼの丸/高速船で約10分、最大8往復
※時刻・運賃は船会社webサイト、「瀬戸内国際芸術祭2019」webサイトを参照
海岸から見た犬島の銅精錬所遺構
犬島の東海岸に建つ犬島精錬所美術館から海沿いの散策路を南へ歩き、振り返ると、海岸に迫る森の中に銅精錬所の遺構が顔をのぞかせる。穏やかな海、緑の濃い森、レンガ造りの遺構の3要素で画面を構成し、パースを意識した構図を心がけた。焦点距離は40ミリ相当を選択。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F11 1/160秒 −0.7補正 ISO320 WB:オート C-PLフィルター使用
植物が茂り古代遺跡のようにも見える犬島銅精錬所跡
犬島精錬所美術館でアート作品を鑑賞し、建物の外に出ると、銅精錬所の遺構を巡る散策路に出る。階段を上り、精錬所跡を一望できる場所に出ると、黒いカラミレンガ(銅精製時に出るスラグを利用したもの)が格子状に積み上げられた遺構が広がる。植物が強い生命力で葉を茂らせ、遺構をのみ込もうとする様子に目を引かれる。画面に黒いレンガ造りの遺構を大きく入れ、C-PLフィルターで木々の葉の表面反射を抑え、植物の緑と黒いレンガのコントラストを意識して撮影した。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F13 1/60秒 −0.7補正 ISO320 WB:オート C-PLフィルター使用
朽ちて森に還ろうとしている犬島発電所跡
銅製錬所の遺構を巡る散策路の南端にあるのが、犬島発電所の遺構。屋根や壁は崩れ落ち、一部が残るのみ。特徴的なアーチ型の窓枠がよく分かるアングルを探し、132ミリ相当の望遠で建物の一部を切り取った。画面右寄り、手前には生命力あふれるツタを大きく入れ、朽ちゆく建物と対比させた。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F11 1/125秒 −0.7補正 ISO500 WB:オート
アクリルのレンズ越しに見える不思議な世界
犬島の集落のそこここに現代アート作品が点在する「家プロジェクト」。そのうちの1つが透明なアクリルの壁にレンズ状のアクリルを埋め込んだ「コンタクトレンズ」(荒神明香作)という作品。説明的に撮るとつまらないので、レンズの向こう側の家と観光客が上下反転して映る様子を50ミリ相当で切り取った。撮影前に背後の風景がどう映り込むか、どのアングルから見ると建物の輪郭が分かるか、十分に検討することが大切。
オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/320秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート C-PLフィルター使用