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SLの黒い車体の質感を引き出すには? 鉄道写真家のリアルRAW現像&レタッチ術

写真家のリアルRAW現像&レタッチ術・鉄道編/助川康史×ニコン Capture NX-D(ver.1.5.3)
 
写真家は作品を仕上げるときに、どのくらいRAW現像やレタッチをしているのだろうか。今回は鉄道写真の基本中の基本である、順光による編成写真でSLをきれいに仕上げるためのリアルなRAW現像術を鉄道写真家・助川康史さん聞いた。
 
 

ベーシックな編成写真こそ美しく!SLの黒い車体の質感を露出補正とトーン(ディテール)調整で引き出す

<Before(元画像)>

<After>

 

順光線かつ少しオーバー目の露出で捉えてRAWで仕上げる

編成写真は、車両の記録的要素に特化した鉄道写真撮影の基本中の基本だ。車両のディテールと正確な色表現にこだわるため、順光で撮るのがお決まり。

 

大概の車両は順光でキレイに描くことができるが、SLに関しては若干変わってくる。車体が黒いだけあって順光下の標準露出で撮ると各部がつぶれることが多く、特にシャドー部のディテールを出すことができない。そのため私は、SL撮影時はサイド光や半逆光で捉え、正面の陰った顔が適正近くになるような露出にすることもある。しかしそれはイメージ的な作風で、「編成写真=順光」という基本概念から離れてしまう。

 

では、順光ではどのように撮影すればよいのか。結論を言うと、RAW現像前提の露出で撮ることだ。SLは黒い被写体なのでオーバー目に狙えばよい。実際にフィルム時代は標準露出よりも1/2~2/3段分明るく撮影することが常識だった。しかしそれでは背景までオーバーになってしまう。

 

だが現在はデジタルカメラの時代。RAW現像のちょっとしたテクニックを使えば、順光でもSLのシャドー部まで黒鉄の質感を出し、なおかつ背景も適正露出に合わせたイメージどおりの美しいカットに仕上がる。

 

今回はニコンのRAW現像ソフトCapture NX-Dを使ったSLの編成写真をベースに現像テクニックを紹介するが、SLだけでなく、黒や濃い色の車両の場合にも応用できるのでぜひ参考にしてほしい。

 

――助川流RAW現像術――順光で捉えたSL編成写真を質感豊かに仕上げる

使用ソフト:ニコン Capture NX-D(ver.1.5.3)

 

手順1. 標準露出よりも若干明るめに撮影したので、まずはマイナス側に露出補正

この作例は、東武鉄道のC11形牽引の「SL大樹」号だ。撮影の段階で標準露出よりもプラス2/3(0.7)段明るく撮っているので、それを補正するようにマイナス2/3段の露出補正をする。当初見えていたSLのシャドー部のディテールが暗くなって見えづらくなるが、それはこの後の補正で戻るので大丈夫。

 

手順2. SLの暗部を元画像くらいに明るく戻すため「トーン(ディテール)」でシャドーをアップ


 
マイナス補正でつぶれたSLのシャドー部を再び出すため、「トーン(ディテール)」のシャドーを上げる。ここでは「11」にした。ちなみに標準露出で撮影してSLのシャドー部を上げるとノイズが乗ったり、ディテールが甘くなったりする。今回はそれに加え、ハイライトを「10」にして白トビを抑えている。

 

手順3. 「トーン(ディテール)」調整でやや弱くなったコントラストを少し上げる


 
「トーン(ディテール)」を調整するとややコントラストが甘くなるので、それを補うように「ピクチャーコントロール」のコントラストを上げる。今回は「0.5」にした。コントラストを上げるとシャドー部のディテールだけでなく、光の当たっている部分もメリハリがつくのでより立体的に感じる。

 

手順1~3の変化を拡大画像で確認!

<元画像>


 
<手順1>


 

 
<手順2>

 

 
<手順3> 

 

手順4. ヌケの悪かった空に「カラーコントロールポイント」で青味を付け足して完成


 
最後はCapture NX-Dの最大の特徴でもある「カラーコントロールポイント」を使って微調整&仕上げ。この作例は春霞で空の抜けが悪かったので、空を数か所選び、ややアンダー&コントラストを入れて、若干青味を出している。また青い客車も鮮やかにするため、空と同様の調整を加えた。これで完成。 

 

撮影・解説/助川康史