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巨大な船体に興奮! 「進水式」の迫力シーンを確実に撮るための撮影テクニック

合図とともに数万トンもある巨大な船体が傾斜した船台をスルスルと滑り、水しぶきをあげて海に突入する進水式は、迫力満点の一大スペクタル。なかなか目にすることができない貴重なシーンだが、進水式を一般公開している造船所は意外と多い。進水式の情報をつかみ、タイミングよく造船所を訪れれば、進水の瞬間を間近に撮影することも可能だ。

 

最大のシャッターチャンスは進水の瞬間。船が動き始めると、あっという間に遠ざかっていく。このシャッターチャンスを逃さないように、AFはC-AF(AF-C)を使い、船体が動き始めたら連写する。次の写真は2018年1月19日に愛媛県今治市の藤原造船所で行われた四国汽船のフェリー「あさひ」の進水式の様子。小さな造船所なので船の正面から撮影できた。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F9 1/250秒 −0.7補正 ISO800 WB:オート

 

進水式の情報は造船所のWEBサイトでチェック

進水式は、造船所のドックで船体を組み上げる作業と、接岸した状態で居住区画や操船区画の仕上げを行う作業、2つの工程の節目に催される行事で、家を建築する際の棟上げ式にあたる。なお、進水式には船体はそのままで、ドック内に注水して行う「ドック進水」と、船が傾斜した船台を滑り、海へと入水する「船台進水」がある。撮りたいのはダイナミックな後者の「船台進水」だ。これは各造船所のWEBサイトで確認できる。

 

造船所は全国各地にあるが、瀬戸内と九州に多く集まっており、進水式の情報は西日本が中心となる。WEBの検索フォームで「進水式」と入れれば、進水式を一般公開している造船所のWEBサイトが表示されるので、リンク先から進水式の日時を探そう。多くの場合、予約の必要はなく、当日に造船所を訪れれば見学が可能だ。

※以下の一連の写真は、2019年9月27日に広島県尾道市の生口島にある内海造船・瀬戸田工場で行なわれたハートランドフェリー「アマポーラ宗谷」の進水式で撮影したもの。

 

進水式の当日は造船所の正面入口に受け付けが設けられ、案内に従って造船所内に入る。来場客用に駐車場が設けられていることも多い。

 

造船所の人の指示に従って、進水式の行われるドックに向かう。通常、船の正面には式典会場が設けられ、来賓以外は入れないので、船の横から撮影することになる。

 

進水シーンは超広角をカバーする高倍率ズームで撮る

進水式の式典は通常15分ほど。国旗掲揚、関係者への花束贈呈などが式典会場内で行われ、隠してあった船名部分が除幕され、船名が発表される。式典がここまで進むと、船台付近にいる作業員の動きが慌ただしくなり、進水の準備が進められる。

 

式典の最後、船主が船を繋ぎ止めている支綱(ロープ)を切ると、船首に吊されたシャンパンのビンが船体に叩きつけられ、砕け散る。それと同時に船は傾斜した船台の上を滑り、海へと入っていく。この間、わずか数十秒。海へと滑り出した船は、すぐにタグボートで艤装作業が行われる岸壁へと運ばれていく。

 

船が動き始めると、あっという間に船体が目の前を通り過ぎるので、進水式の式典が始まるまでに撮影場所を決める。船が動き始めたら移動せず、流し撮りをするように船の動きをカメラでフォローする。このとき、レンズは24mmより短い焦点距離をカバーする超広角ズームか、高倍率ズームが望ましい。見学者がいるスペースは船のすぐ横であることが多く、船との距離をとることが難しい。そのため、一般的なワイド端28mmの標準ズームレンズでは画角が足りない。

 

式典会場は船の正面の高い位置に設けられる。高倍率ズームをテレ端にすると、船首下部のバルバス・バウ(航行時のうねりを抑える突起)越しに式典会場を狙うことができた。式典の最後、船主が支綱を切るボタンを押すと、吊してあったシャンパンのビンがバルバス・バウに当たり、砕け散る。連写でその瞬間を捉えた。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/200秒 −0.3補正 ISO250 WB:オート

 

式典会場を撮ったカットと同じポジションから、高倍率ズームをワイド端に切り替え、動き始めた船体を捉える。見学者が飛ばした風船がいいアクセントになった。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/640秒 −0.3補正 ISO200 WB:オート

 

船首が目の前を通り過ぎたら後追い撮影。速度が出ているので、船の姿を追いながら連写する。高倍率ズームのワイド端が24mm相当の広い画角であったおかげで、いい瞬間が撮れた。これが28mmだと、もう少し船が遠ざからないと画面に収まらない。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/400秒 −0.3補正 ISO200 WB:オート

 

船が進水するとすぐにタグボートが接近し、移動を始める。そのため、レンズをテレ寄りにズームして、船の全景を捉えた。船が船台の上を滑り始めてからここまで、わずか1分30秒ほど。シャッターチャンスを逃さぬように撮影に集中したい。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F10 1/400秒 −0.3補正 ISO200 WB:オート

進水式が始まる前に船体のクローズアップ撮影

普段、目にすることがないものが撮れるのが工場見学の大きな魅力。進水式でも船がドックにあるときにしか撮れない喫水線の下の部分に注目したい。特に船尾の巨大なスクリューは進水前でないと見られない。また、船首側面に設けられるバウスラスター(接岸や離岸時に使われるスクリュー)も同様だ。これらの撮影を行うためには、進水式が始まる前に会場入りし、撮影することが必要だ。 

 

次の写真は、船首下部のバルバス・バウ(航行時のうねりを抑える突起)の横に設けられたバウスラスター(側面のスクリュー)を、船体を支えるトリガー装置越しに撮影。右奥の作業員も画面に収まるようにフレーミングした。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F4 1/640秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

続いて、船尾のスクリューを船体中央寄りから撮影。背後の海面が白とびしないようにマイナスの露出補正を強めにかけた。この船台では最初から船尾が水に浸かっていたが、そのおかげでスクリューの周囲に余計なものが写り込まずに済んだ。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/250秒 −1補正 ISO200 WB:オート

 

造船所内は撮りたくなる被写体でいっぱい

進水式が終わったら、造船所から速やかに退出しなければならないが、普段、見ることのできない造船所内は撮りたくなる被写体でいっぱい。もちろん立ち入り禁止のエリアへの侵入は御法度だが、早めに会場入りした際や帰り際に敷地内の巨大な機械、他の建造中の船や改装中の船などを撮ろう。

 
進水式は平日開催が多いので、見学するチャンスも限られたものになるだろう。それだけに、数少ないシャッターチャンスは有効に使いたい。

 

ドックに沿って敷かれたレールの上を巨大なクレーンが移動。このクレーンの基部には片側16個の車輪があり、これが数千トンの重量を支えている。レンズはズームのワイド端にセットし、カメラを低い位置に構えて見上げるように撮影した。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/125秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

別のドックで改装中のフェリー。船首のカバーを上げ、車両甲板のタラップが下がった状態が口を開けた生きもののように見えたので、正面から画面がシンメトリーになるように撮影した。

オリンパス OM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F10 1/250秒 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

進水式で配られる記念品をゲットしよう


進水式が終わると、餅まきが行われることが多い。餅まきでは、袋に入った餅やお菓子が投げられる。このとき、船主の社名や船名の入ったタオルなどのノベルティグッズが投げられることがあるので、ぜひもらっておきたい。また、造船所によっては、記念品を入場時に手渡すこともある。