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明治モダンの雰囲気漂う「坊っちゃん列車」が走る松山市電の撮影スポット7選!

文豪・夏目漱石の代表作に小説「坊っちゃん」がある。その舞台となったのが明治中期の愛媛県松山市。当時、松山の玄関口である三津港と中心街を結ぶ軽便鉄道が走っており、小説の中にも「マッチ箱のような汽車」と描写されている。動輪がわずか2軸という小さな蒸気機関車はドイツのクラウス社製で、全長は4760mmと乗用車ほどのサイズだった。この列車は小説で坊っちゃんらが利用していたことから、いつしか「坊っちゃん列車」と呼ばれるようになった。蒸気機関車が引く坊っちゃん列車は1888年の運行開始から67年間も活躍したが、その座を電車に奪われて1954年に引退した。

 

現在、松山市内には伊予鉄道の路面電車が走っており、松山城を中心にその周囲を回るように路線が引かれている。路線は環状線といくつかの支線からなり、愛媛県名産のミカンをイメージしたオレンジ色に塗られた1両編成の電車が、頻繁に行き来している。その中で異彩を放つのが、観光用として復活した「坊っちゃん列車」。クラウス社の蒸気機関車そっくりのディーゼル機関車がマッチ箱のような小さい客車を引いて街を走るのだ。近代的な街の中を明治時代そのままの姿をした「坊っちゃん列車」が走るのだから、これほど愉快なことはない。

 

「坊っちゃん列車」は一年を通じて、伊予鉄道のターミナル駅である松山市駅と道後温泉駅の間を3往復(繁忙期は6往復)、車庫のある古町駅からJR松山駅前を経由して道後温泉駅までの間を1往復(繁忙期は2往復)している。通常は2台ある機関車のうち1台が行ったり来たりするだけだが、繁忙期は2本の坊っちゃん列車が走り、途中ですれ違うシーンも見られる。では、松山城や道後温泉で知られる有数の観光地である松山市を巡りながら見つけた、「坊っちゃん列車」と路面電車の撮影ポイントを紹介しよう。

 

1.レトロな駅舎の道後温泉駅を発車する「坊っちゃん列車」


名高い観光地である道後温泉の最寄り駅がこの道後温泉駅。明治建築の雰囲気が残る駅舎をバックに「坊っちゃん列車」の発車シーンを撮るため、反対側の降車専用ホームから撮影した。広角レンズを使えば、横位置で駅舎全体を入れることもできたが、縦位置を選び、目障りな背後のビルが画面に入らないようにした。焦点距離は35mm判換算で70mm相当の中望遠を使用。なお、順光になるのは午前中。午後はサイド光となる。

オリンパスOM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/80秒 −0.3補正 ISO200 WB:オート

 

2.超広角レンズで明治モダンの駅舎と機関車を撮る


明治44年に建てられた洋風建築の駅舎を忠実に再現した道後温泉駅の駅舎。その正面には引き込み線があり、前日の運行終了から翌日の運行開始まで「坊っちゃん列車」が留置されるほか、運行の合間にもここに展示される。駅舎と機関車を画面に収めるためには24mmより広い超広角レンズが必要。ここでは35mm判換算で21mm相当となるレンズを使い、特徴ある漏斗形の煙突とそそり立つ蒸気溜加減弁が強調されるように機関車を下からあおるように撮った。逆光だったので、煙突で太陽が隠れるタイミングを狙った。

シグマ dp0 Quattro 絞り優先オート F7.1 1/250秒 −0.7補正 ISO100 WB:オート

 

3.道後公園の脇を疾走する「坊っちゃん列車」を流し撮り


市街地を走る路線の中で緑をバックに撮れるのは、松山城の堀端を走る本町一丁目駅と県庁前駅の間、道後公園の脇を走る道後温泉駅と道後公園駅の間の2区間。前者は交通量が多く、列車の手前に車が被ってしまうことが多いが、後者は平日であれば交通量もあまり多くないので、列車を側面から撮ることができる。この写真は道後公園駅のそばの道路脇から、列車の姿が引き立つように1/25秒というスローシャッターで機関車の姿をカメラで追いながら流し撮りをしたもの。

オリンパスOM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO シャッター速度優先オート 1/25秒 F11 −0.7補正 ISO64 WB:オート

 

4.ドーム状の屋根が美しい愛媛県庁舎と「坊っちゃん列車」


昭和4年に完成した愛媛県庁舎は今も現役。中央に大きなドーム状の屋根を持つ塔屋があり、正面から見ると左右対称に建屋を配した風格のある洋風建築となっている。路面電車の線路は県庁舎前を通っており、西側で90度に大きくカーブしている。市役所前駅そばの堀端から県庁舎方向にカメラを向けると、県庁舎をバックに、カーブを曲がる路面電車を撮ることができる。車体の大きな路面電車であれば、横位置に構え、庁舎全景を入れることも考えられるが、ここでは小さな「坊っちゃん列車」を大きく捉えるために縦位置で撮影した。

オリンパスOM-D E-M1 MarkⅡ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO シャッター速度優先オート 1/400秒 F11 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

5.人力で方向転換をする坊っちゃん機関車


蒸気機関車は終点で方向転換をする必要があるが、「坊っちゃん列車」の機関車も同じ。道後温泉駅に着いた列車は奥にある引き込み線に入り、客車を切り離す。機関車だけがさらに前進して、車体をジャッキアップさせ、人力で180度回転させる。国内では他に例を見ないユニークな方向転換は、道後温泉駅と松山市駅、古町駅で、列車の到着直後に見ることができる。

オリンパスOM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO シャッター速度優先オート 1/200秒 F4 −0.7補正 ISO200 WB:オート

 

6.県庁前駅を出発する路面電車を超望遠レンズで狙う


県庁前の交差点の西側、堀之内公園の入口あたりから東を見ると、国道11号線上をJR松山駅方面に向かって進む電車を真正面から撮れる。35mm判換算で400mm相当の超望遠レンズを使って縦位置に構えると、80mほど先にある県庁前駅を出発した電車が次第に大きくなり、画面一杯に迫ってくる。圧縮効果により250〜300m先にある百貨店や沿道に建つ建物が引き寄せられ、画面の密度が高まる。このときパンタグラフの先が切れてしまわないようにフレーミングには気をつけたい。

オリンパスOM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7 シャッター速度優先オート 1/320秒 F6.3 −1補正 ISO1000 WB:オート

 

7.イルミネーションに彩られた大観覧車と路面電車


松山市駅は百貨店の入る駅ビルの中にある伊予鉄道のターミナル駅。松山市駅を出た路面電車はすぐに急なカーブで北へと進路を変える。このカーブの外側にあるバスの6番乗り場付近から駅の方を見ると、駅ビルの屋上の大観覧車と路面電車を1つの画面に収めることができる。ここではイルミネーションが灯る大観覧車をメインに、夜景の撮影に挑戦。1/4秒のスローシャッターで電車や車の流れをぶらした。

オリンパスOM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F5.6 1/4秒 F4 −1補正 ISO320 WB:オート

 

こちらも見ておきたい2台の坊っちゃん機関車

松山市内には1888年に製造された“本物”の坊っちゃん機関車が静態保存されている。伊予鉄松山市駅から高浜線で20分ほどの距離にある梅津寺駅そばの「梅津寺公園」には伊予鉄道開業当時の1号機関車が展示され、2軸客車のレプリカ車両と仲良く編成を組んでいる。この1号機は1888年に製造されたクラウス社製の蒸気機関車で、日本の鉄道記念物に指定されている。

▲梅津寺公園に保存されている伊予鉄道1号機はドイツのクラウス社で作られた貴重な蒸気機関車。コンビを組む客車は後年作られたレプリカ車両だが、坊っちゃん列車として走っていた頃の姿を今に伝える。

 

もう1台、見ておきたいのが、「坊っちゃん列車ミュージアム」にある1号機関車のレプリカ。梅津寺の保存機を正確に再現した原寸大の模型で一見の価値あり。このミュージアムは、松山市駅の東側に建つ伊予鉄道本社の1階にある。展示スペースはスターバックスコーヒー松山市駅前店とつながっており、ほぼ年中無休でカフェの営業時間内であれば、いつでも見学できる。

▲伊予鉄道創立90周年を記念して、1977年に製作された伊予鉄道1号機の精巧な原寸大レプリカ。この「坊っちゃん列車ミュージアム」には伊予鉄道のレアな車両部品や資料も展示されている。